こんばんは〜!!
直木賞候補作、ラスト一冊はこちらの作品です!


今村翔吾『じんかん』(講談社)
真上から撮るとわかりませんが、この物語、500頁超の超大作なのです・・!!


辞書並のぶあつさにビビり、読み終えられるだろうかと不安になりましたが、案外さくさく読めました!


この物語の主人公は
戦国時代を駆け抜けた武将・松永久秀。


戦国ファンには
「武将いちの極悪人」的な存在として
知られているそうなのですが、、


本作はそんな松永久秀の印象を180度変えさせる
松永久秀の「人間力」の強さ、ともいうべきものが
描き尽くされた傑作長編です。


わたし自身は日本史・世界史が大の苦手で
社会科目が足を引っ張り受験に失敗したぐらいなのですが、
この物語を読みながら、わたしがどうして「歴史」が苦手なのかが
うっすらと分かった気がしました。


世界中で人々が争いを繰り返す歴史がどうにも好きになれなかったのだと思います。
誰かが天下を取ったと思えば、また別の誰かがその座を狙って争いが起き、自然災害や疫病、飢饉などの不幸も重なるなどして、どうしても争いが起きてしまう・・。


人々が争いに巻き込まれて世の中に翻弄されていく様を見つめ続けるのがつらかったのではないか、と思いました。


なので、『じんかん』で描かれた
松永久秀の「野望」に驚きました。


「この世から武士を駆逐する」
幼子が安心して暮らせる世の中にするために。
誰もが大切な人と一緒に健やかに暮らしていけるために。
争いのもととなる武士をこの世からなくし、
争いの起こらない世の中にする。


戦国武将はみんな天下を取りたがっているんじゃないの?
乱世のなかにこのような平和主義?な武将がいたなんて、と驚嘆しました。


ですが、冒頭で「武将いちの極悪人」と書いたように、松永久秀は「三悪」を為した大悪党と言われています。


「三悪」とは
主家である三好家を乗っ取ろうとしたこと、
将軍足利義輝を殺したこと、
東大寺を焼き討ちにしたことです。


さらに、この物語では久秀が織田信長に「2度目の謀反」を企てた、という描写からはじまるため、事実だけを並べるとかなりの極悪人のように感じられます。


ですが、この松永久秀の「謀反」に対し、
織田信長は鷹揚に笑い、許すそぶりを見せるのです。


「三悪」を為した極悪人と言われる松永久秀に対して
織田信長はどうしてそんな態度をとるのか?
松永久秀はいったいどんな人間なのか?
ということが、物語を読み進めていくことで明らかになるのです・・。


歴史好き、戦国武将好きの方々からしたら
印象ががらりと変わる衝撃作になるのかもしれません。
(どれほどの衝撃なのかは、わたしはよくわかりませんが・・)


この物語では、松永久秀の「三悪」を為した人とは思えない人間力の高さが書き尽くされるとともに、
この世の理のようなものや人間の本質を突く箇所がところどころにあり、時代小説でありながら哲学的な示唆も与える一冊でした。


「人の世というものはすぐに変わりはしない。まるで目に見えぬ意思が変わらせまいとしているかのように、故に変えようと思う者の脚を掴んで引きずり落とす。」(315頁)


人はなかなか変わらない。
変わることは人々に思った以上のエネルギーを消耗させるからです。


誰もが松永久秀のように野望を抱き、大局を見ているわけではありません。
いまの暮らしを維持するのに精一杯な人や、目の前の利益が手に入れば良いと思う人はいて、そんな人々に久秀は脚を引っ張られるのです。


ですが、久秀は脚を引っ張られてもなお、諦めずに奮闘し続けます。
その記録を残してきたのがまさに「歴史」なのです。


「一個の人も、それらが織りなす人間も、同じ割合で弱さと強さを持っている。人間の強さはその時代を切り開こうと抗い続けた人の強さ。だからこそ人々の記憶に残り、その中からまた新たな時代を切り開こうとする強さを持った人を奮い立たせる。ゆえに人は滅びそうで滅びない。むしろ迷いながらも一歩、また一歩と進んでいる。」(379頁)


史実はともかく、この物語では松永久秀は「争いをなくす」という新たな時代を切り開くために争い続けた武将でした。
矛盾する言葉ですが、戦国時代を生き抜き、彼の野望を果たすにはそうするしか方法がなかったのです。


歴史をただなぞって「争いがなくならない」と思うのは簡単なことです。
ですが、そのなかに「争いをなくす」ために争った人がいたのかもしれない。
そのことには全く思い至りませんでした。


「争いをなくす」ために争った武将、松永久秀は極悪人ではなく、未来のために闘い続けた一大ヒーローだ、と感じました。


この物語を読んで、歴史の「争い」だけを取り上げて、良し悪し、好き嫌いなどと簡単に言えるものではない、ということを改めて痛感しました。


でも確かに言えることがあって。
それは昔よりも今のほうが「良い世の中」になっていっているということです。
『じんかん』から500年後の日本は乱世ではないし、いろんな災害はあるにしても、絶望する幼子は当時よりずっと減っています。


松永久秀の争いを含めた争いは、現代の暮らしになるために避けて通れない争いだったのだろうな、と思うようになりました。


そう思えば歴史とはなんて尊いものなのでしょう・・。
今更ながら実感しました。
争いを見るのがつらいとわめいていた自分が恥ずかしくなりました。。


武将たちの生き様に心震わせられ、歴史の大切さも納得した大満足の一冊でした。


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