金曜日!
今週もお仕事お疲れ様でした〜。

ひさびさに田辺聖子さんを読んで”田辺聖子熱”が再燃したので
今度は小説を読みました。

これまたタイトルが…イイ…!!(震)
「お気に入りの孤独」かぁ。

わたしにとっての「お気に入りの孤独」は、ハイボールを飲みながらソファで読書をすることだなぁ~。

とかつい考えちゃう素敵なタイトルです。

『お気に入りの孤独』は、大阪でファッションデザイナーをしている風里(ふうり)が「妻」「嫁」「社会人」として目まぐるしく”働く”自分の生活について思いを馳せる物語です。

風里の夫・涼は東神戸に豪奢な邸宅を持つ大金持ちの家の出身で、仕事を通してふたりは出会い、涼の母・通称「マダーム」の許しを得て結婚します。

風里と涼は仲が良く、「妻」として経済的にも精神的にも不自由のない贅沢な暮らしをしていました。
ファッションデザイナーの仕事も楽しく「社会人」としても充実した生活を送る風里でしたが、唯一「嫁」として夫の実家と接するときはモヤモヤとした感情が湧き起ってしまいます。

そのモヤモヤとは、「長いものに巻かれる」ショックのようなもの。

夫婦でふたり暮らしをしているとはいえ、家庭の方針の主導権は常に「マダーム」が握っています。
そして凉は何かにつけて「マダーム」の判断を仰がないと気が済まないマザコン夫(風里は夫のマザコンなところも可愛いと思っている)。

「マダーム」は風里の意見をきかずに実家に子ども部屋を作ったり、涼の怪しげな素行に「追及するな」と釘を刺したりとなかなかの「腕力」を発揮し、風里は閉口してしまうのでした。

友人に心情を吐露しても、最愛の夫がいて、仕事もさせてもらえて、経済的な苦労のない暮らしだというのになんて贅沢な悩みだ!と言われ、風里も同様に感じ、しばらくは自分の心に抱えたままにしていました。

ある日風里は友人に誘われた個展でひとりの男に出会います。
風里は久しぶりに「妻」「嫁」「社会人」ではなく「自分」として接することができる相手に出会い、実家にいるような居心地良さを感じます。

風里は「自分」であることの居心地よさに浸りながら、「妻」「嫁」「社会人」として「頑張っている自分」に気がつきます。それは、他人に「頑張っている自分」しか見せられず窮屈な思いをしていることの裏返しでもありました。

この上ない贅沢な暮らしをしているのになんてことを考えているんだろう…と風里は自分を戒めますが、それでも考えは止まりません。

悶々とした思いを抱えて過ごすなか、風里はひょんなことから夫が「かくしごと」をしていることに気づき、風里の幸せいっぱいな生活は一転してしまいます……。

約30年前(!)に刊行された小説で、「玉の輿」(死語?)という浮世離れした設定にもかかわらず、風里に感情移入しながら読み進めた物語でした。

どこに感情移入したかというと

満足することと幸せになることは違う

大人になればなるほど、自分が「自分」として生きるにはかなりのエネルギーと覚悟がいる


ということ。

風里はいまの贅沢な暮らしに満足していましたが、決して幸せではありませんでした。

なぜなら風里が得ている満足感(贅沢な暮らし)は「長いものに巻かれた」結果だから。
どんなに自分が傷ついても、「嫁」として「妻」としてのふるまいに徹しなければならず、風里は自分の本心がないがしろにされていることに息苦しさを感じていました。

そんなところに現れた、風里を「風里」のままでいさせてくれる男。

風里は傷を癒すように徐々に彼に惹かれていくのですが、読みながら風里の危うさにヒヤヒヤしてしまいます。

風里は個展で出会った男とナァナァな付き合いを続けますが、ある日罪悪感にかられて既婚者であることを告げ、男に手痛い仕打ちを受けます。
それは風里が「自分」を貫く覚悟と強さが足りなかったことが何よりの原因でした。

いくら「自分」であれないとはいえ、「嫁」「妻」としての役割に徹することで得ているものは大きく、「自分」としてリスキーな行動を取るよりも「長いものに巻かれる」ほうがずいぶん楽なこともあるのです。
(サラリーマンなのでここら辺の心情が痛いほどわかりました…)

そのため風里はどっちつかずな態度を取ってしまい、最終的には痛い目にあってしまうのでした(夫にはバレてないからそんなに痛くはないけれど…)。

男との一件があってから風里は加速度的に「自分」であることについて思いを馳せるようになります。

男との逢瀬は「妻」としての自分、「嫁」としての自分が弱い立場に置かれているときの逃げ道にしかできなかった。
「自分」を貫くためには、「妻」「嫁」として立場の弱い自分とも向き合わないといけなかったのだ(それは「マダーム」と戦うこと)…と風里は後半部で気づきます。

そこから物語は夫の浮気…という思わぬ方向に転んでいくのですが、すったもんだのあげくに風里は「自分」を貫く生き方を選び、物語は幕を閉じます。

最後まで読んで、「お気に入りの孤独」というタイトルの秀逸さが染み入りました。

タイトルのもととなった台詞からは、風里の幸福感が滲み出ています。

「一ばんのお気に入りは、やっと手に入れた「孤独」だった。」(267頁)

自分が、誰の後ろ盾もない「孤独」であるときに自分の力でつかんだ幸せこそが、幸せの最上級なのだと感じました。

懸賞で当たったブランド物よりも、自分でコツコツ貯めて買ったブランド物のほうが愛着が湧くのと同じ。

わたしもわたしだけの「お気に入りの孤独」を育てていきたいなぁとしみじみ感じた一冊でした。


現状にモヤモヤしているくせに
変える勇気がなかなか持てない
長いものに巻かれるのも楽っちゃ楽…
そんな風につい考えてしまう人にきっと刺さる名作です。



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