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最近、「許せる」人間になりたいなぁと思う。
真面目なんだか正義感が強いんだか神経質なんだかで、つい「許せなーい!!」とカッカしてしまうことが多いからだ。
大抵のことはささいなことだし「まぁいっか」って思いたい。
でも、なんでわたしが我慢しないといけないの? という思いもありモヤモヤすることもある。
でもでも、誰かと争いたいわけじゃないし、感情的になる前にうまく自分の中で処理できるようになりたい。
そうなるためにはなるべく自分の心の余裕を作ったらいいのかなぁ……などと考えているときに、大きな「問い」をつきつけてきた一冊を読んだ。
その「問い」とは、
「もし、自分が愛した人の過去に後ろめたいものがあったとしたら?」
というものだ。
後ろめたいものと言われてどんなものが浮かぶだろう?
浮気? お金? その他すごいこと?(どんなこと)
まさか、”まったくの別人だった”ということは想像しないだろう。
平野啓一郎『ある男』は、不慮の事故で亡くなってしまった「ある男」の身元が実はまったくの別人だったことから物語がはじまる。
宮崎県で文房具屋をいとなむ谷口里枝の夫・大祐は林業の仕事に就いていたが、ある日仕事中に倒れてきた大木に挟まって亡くなってしまう。
大祐は実家と縁を切っている状態で結婚したことも知らせずにいたが、大祐の訃報を機に里枝は家族と連絡を取り、大祐の兄と面会を果たす。
しかしそこで「大祐ではない別人」が大祐になりすましていたことが発覚し、里枝は驚愕の事実に呆然としてしまう……。
この大きな謎を解明するべく里枝に依頼されたのが弁護士の城戸。
里枝は再婚で、前の夫の離婚調停を依頼していた弁護士だった。
城戸は「ある男」の”本当の身元”を調べようとするが、戸籍自体が別人である時点で調査は難航してしまう……。
「ある男」の謎をめぐって浮かび上がってきたのは、
”家族”ということの絶望的なまでの鬱陶しさと幸福だった。
城戸は「ある男」の謎を追いながら、自分の家庭をかえりみる。
仕事のため家を空けることが多く、妻とささいなことでいさかいを繰り返していた城戸は、「自分」の全てをなげうって「別人」になりすまして結婚し、子どもまで作った「ある男」の人生を想像し、ついやましい考えを膨らませてしまう……。
城戸と同じく「ある男」と里枝に強く感情移入し、同情しながら読み終わった。
この夫婦は不幸と不運が重なりすぎた二人で、読み進めるうちにどうか幸せであって欲しいという願いが強くなった。
しかし「ある男」の死からはじまった物語の結末は決して明るいものではない。
謎が明かされたところで残るのは大きな喪失感と悲しみなのだった。
しかし、「ある男」の謎は、里枝にわずかな光ももたらす。
重なりすぎた不幸に嘆き悲しむものの、里枝の心にわずかな光がたしかにあって、それが里枝の現在をなんとか支えているのだった……。
きっと里枝は「許せる」人間なんだろうなと思った。
「許す」ということは、相手の「いま」を信じることと同じだ。
物語のスケールのあまりの大きさに、ささいなことでカッカしている自分がものすごくバカらしくなり、そしてそんな自分が恥ずかしくなった。
また忘れたころにカッカしたときに読み返したい物語だった。
