海は好きじゃないけど(泳げないから)、水面の波をぼーっと眺めているのは好きだ。

池に石をぼちゃんと落としたときにできるさざなみが広がっていく様をじっと見つめているのも好き。

それはきっと、すんごい小さな波であっても思った以上に遠くまで広がっていくからだと思う。

自分はちっぽけな存在だー、自分ができることなんてたかが知れてるー、と思いながらも、自分もさざなみのように誰かに影響を与えているのかも、と想像してちょっといい気分になれるからだ。

なんでこの物語のタイトルは「さざなみのよる」なんだろう? と不思議に思いながら読んだが、最後まで読んで合点がいった。

この物語は主人公のナスミが癌で若くしてこの世を去るところからはじまる。

「主人公」と書いてしまったけれど、冒頭で亡くなってしまうナスミは家族や友人、知人の頭に浮かぶ「思い出の人」として語られるので、この表現が正しいのかはわからない。

けれど、ナスミにかかわってきた人たちはそれぞれナスミとの思い出を浮かべ、悲しみに暮れながらも少しずつ前に進んでゆく。

癌が進行し、自分の死期を感じたナスミは、自分がいなくなった後のことを考え、かかわった人たちひとりひとりを頭に浮かべ、彼らへの思いを言葉に残す。

ナスミの言葉は彼らの心に深く刻まれる。ナスミは亡くなってしまったけれど、ナスミの言葉がさざなみのように広がり、多くの人に影響を与えていくのだった……。

この物語は派手なことは起こらない。奇跡的なストーリーとか、感動のドラマ的な展開はほとんどない。かけがえのないものを亡くした人たちが、ただただ悲しみを噛み締め、時間をかけて少しずつ立ち直る物語だ。

でも、だからこそいなくなってしまったナスミのかけがえのなさが際立つ。
残された人たちは、ナスミはこう言ってたなぁ、ナスミだったらこう言うだろうなぁと日常のいたるところでナスミのことを思い出し、かけがえのないものを亡くしたことを静かに悲しむのだった。

ナスミが残した言葉は名言だらけだ。

「よいことも悪いことも受け入れて、最善を尽くすッ!」(89頁)

「お金にかえられないものを失ったんなら、お金にかえられないもので返すしかない」(103頁)

「愛ちゃん、最初はね、物真似でも何でもいいんだよ。最終的に自分がなりたいものになれれば、それでいいんだよ」(152頁)

「だからぁ死ぬのも生きるのも、いうほどたいしたことないんだって」(195頁)

ナスミの言葉は残された人たちに立ち直るきっかけを与え、これからの人生をより良くするための勇気を与える。

この物語を読んでいるわたしも勇気をもらった。悪いことがあっても悲観せず、びびりすぎず、自分の生きたいように生きよう!! と改めて思った。

やはり言葉の力はすごい。
言霊(言葉に魂が宿る、というようなこと)をわたしは信じているのだけれど、やっぱりそういうことはあるよなぁ、とこの物語を読んで感じた。

そして人の命の尊さを考えないではいられない。
みんながみんな偉人じゃないし、ひとりの人間が一生のうちにできることなんてきっと大したことはないのだけれど、でも身近な人には生きた証がさざなみのように確実に届いている。

この物語を読んでそのことを強く感じた。
身近な人をなるべく悲しませないように、自分の与えられた命を大事に生きていきたい。ちいさなさざなみを起こし続けて生きていきたいなぁと思った。

「さざなみ」は生きることのたとえにぴったりな、素敵な表現だなと思った。