夢を見た。
高校生くらいのときに片想いしていた人、好きとまではいかないけれどちょっといいなと思っていた人が登場した。
わたしは久々の再会に心が踊ったけれど、すぐに不安になった。
昔いいなと思っていた人との再会は、いまでも悪い気持ちはしない。
でも、なんで? 今更?
わたしはもう年末に結婚して人妻になっているのに?
どんな顔すればいいんだ? なんだこの状況は?
なんでこんなに心がざわざわしているんだ……??
別にその人たちとなにかあったわけではなく、ただその人たちが登場しただけで夢から覚めた。
変な罪悪感を覚えた。
後味の悪い夢だった。
こんな夢を見たのは、絶対、武者小路実篤『お目出たき人』を読んだせいだった。
(読みながら寝落ちしてしまった)
武者小路実篤『お目出たき人』は、26歳の主人公「自分」が一人の少女に片想いをする物語。
片想いの相手は近所に住む15歳の「鶴」という少女。
ご近所とは言え面識がある程度で主人公は鶴と会話をしたことはなかった。
鶴への想いはどんどん募り、思い切って間に人を立てて結婚を申し込んだが「まだ若いので」と断られてしまう。
主人公は断る理由をもっともだと感じ、鶴が成長するのを待とうと心に決め込むのだが、日に日に大きくなる鶴への想いをもてあまし、余計なことをつらつらと考え込むようになってしまう……。
冒頭から主人公の暴走っぷりにげんなりさせられる(笑)。
何度も繰り返される「自分は女に飢えている」という文言に、あぁそうですか。知らんがな。とツッコミつつ読み進めた。ツッコんでないと心がもたなかった。何回繰り返しとんねん!(冒頭だけで5回は言うのだ)
もやもや思いつめないで鶴に話しかけたり挨拶したりすればいいのに! と思うのだがそれは時代のせいなのか、主人公の奥ゆかしい性格(笑)のためか、主人公は悶々と考え続けるばかり。
主人公は鶴と結ばれたときのことを妄想し、たまに想いが爆発して鶴が通う学校の近くに行ってしまったり、バスや電車で乗り合わせやしないかとドキドキしたりする。
この時点でちょっと、いやだいぶ痛いがそれだけではない(笑)。
ある日偶然バスで鶴と乗り合わせ、帰り道が途中まで同じだったために主人公はまるで鶴と夫婦になって一緒に歩いているような感覚に陥り、鶴は自分のことを好いている!! という勘違いまでしてしまう。
いやなんでやねん。たまたまだろ。
鶴と喋ったことすらないのにその自信はどこから来るんだ!!
こんな勘違い野郎の物語がハッピーエンドになるわけがねぇ……と思いながら読み、結末は「まぁそうでしょうね」という感じで終わった。
小説を読むとき、わたしはこの先の展開を想像しながら読み進め、自分の予想とははずれた「予想外の展開」を期待しながら読んでいる。
どんな展開であれ「予想外の展開」はわたしの胸をときめかせる。
えっ、この先どうなっちゃうの!?と興味津々になり、ページをめくる手が加速する。
しかし『お目出たき人』の場合は逆だった。
どうか予想通りであってくれ……頼む……!!! みたいな気持ちでおそるおそるページをめくった。
だって、こんなに思いつめてて、帰り道が一緒になっただけで「鶴と両思いだ!!」って浮かれちゃう人だ。何かの拍子で渡っちゃいけない「一線」を超えかねない。
主人公の思索が長くてげんなりしつつも、結末までヒヤヒヤしながら読んだ。最後まで読んで、ホッとした。
そういう意味では『お目出たき人』はスリル満点のホラー小説かもしれない。
しかし。
しかし、だ。
わたしは主人公の気持ちがわからなくはない。
というかちょっと心当たりがある。
それが冒頭の夢に出てきた人のことで、結婚した今や「なかったこと」として記憶の奥底にしまい込んでいたものだ。
高校当時、前略プロフィール (という名のプロフィールサイト)、モバゲー、個人サイトがめちゃくちゃ流行っていた。
わたしは個人サイトを3個作り、古着好きのサイト、詩や小説を書くサイト、日記用のサイトを運営していた。
詩と小説のサイトは友達には非公開にし、古着と日記のサイトは公開してやっていた。受験生なのに3つもよくやったな自分。
で、その日記サイトに個人名はぼかしつつも片想いの記録ややり場のない気持ちをつらつら書き「一途に片想いしている自分」に酔っていた……。
そう、わたしもたいがい痛い奴で、「お目出たき人」だったのだ。
わたしは思い出して悶絶した。
なんてことを思い出させてくれたんだー!!!と憤慨したくなった。
いやいや、それこそ知らんがな。だ。
武者小路実篤『お目出たき人』はお化け屋敷的なホラー小説(最後は安全に出られるから)であり、「黒歴史リトマス紙」的な作品だった。
わたしの黒歴史リトマス紙は真っ赤になった(なんとなく酸性っぽい気がする)。
自分の場合はどうか試してみたい人はぜひ手に取ってみてほしい。ページ数が多くなく、字も大きいのでとても読みやすい。
過去の記憶の引き出しをうっかりあけてしまったわたしは、しばらく古傷にうめきながら「若かったなぁ」と懐かしむことにする。あの個人サイトはどうしたんだったかな……。
