2012年3月、22歳のわたしへ。
まずは、4年間の大学生活お疲れ様でした。就職活動もお疲れ様でした。

この4年間であなたはいろんなことを知りましたね。

大学生活がめちゃくちゃ楽しかったこと。
自由で、自分のやりたいように勉強ができること。
東京は刺激だらけで、田舎にはない洗練されたもので溢れていること。
そして東京で暮らすにはものすごくお金がかかること。

学費を稼ぐために新聞配達をしながら学校に通ったけれど、それでも足りなくて、奨学金をたくさん借りましたね。
奨学金の金額はあまりにも大きすぎて、22歳ではとても抱え切れる額ではありませんでしたね。卒業後は、月賦で数万円を20年かけて返す、という途方もない計画になることを知ったとき、大きなおもりのついた足かせがついたように感じましたね。

だから大学を出たらちゃんと就職しないといけないし、正社員として長く働けるところじゃないといけない! と思って、やりたい仕事ではないけれど、生活のため仕方なく正社員として働ける会社で社会人になろうとしていますね。

やりたいことは趣味の範囲でやればいいや……。
わたしの実力はここまでだったんだ……。あなたはそう自分の夢に一旦見切りをつけ、これから社会へ飛び立とうとしています。

「夢は逃げない 逃げるのは自分」というだれかの有名な格言がありますね。
あなたは今それを実感していることでしょう。社会人経験がなく、世間知らずなあなたは「わかっていても、こうするしかない」と強く思ってしまいます。

いまあなたに問いかけているわたしは、6年半後のあなたです。

この格言は言葉足らずです。
もう一つ付け足さないといけません。

「夢は逃げない 逃げるのは自分 
逃げた夢は自分が本当に諦めるまで追いかけてくる」

就職してから、わたしは自分の夢を諦めたことを何度も悔やみました。
けれど入社と同時に大阪転勤にもなり、東京で働きながら転職活動をすることもできず、現実を受け入れるしかないと腹をくくります。

しかしどうにも仕事に身が入りません。
当時わたしは出版社に勤めるという夢を抱いていて、出版社で何をやるのかもかなり曖昧な考えでしか持っていませんでしたが、それでもいまやっている仕事に身が入らない理由にはじゅうぶんで、「あのとき諦めずに頑張れたら未来は変わったかもしれない……」と悔やんでしまいます。

そして、その思いはその後何年経っても消えません。
その後わたしは仕事の息抜きに本を読むようになり、記録用にブログをはじめ、そのブログが生きがいになり、ブログのアクセス数を上げるためにライティング教室に通うようになります。

社会人になって6年以上経っても、わたしは夢を諦めきれませんでした。
同時になんでこんな夢を抱いてしまったのかと思い、胸が苦しくなりました。

狭き門の出版社。
さらに狭き門の編集者になんでなりたいと思ってしまったんだろう。
どうしてわたしは本なんか好きになっちゃったんだろう。

何度もそう思いますが、偉大な本に出会うとわたしの苦しみは吹き飛び、ただただこの作品への感謝と出会えた喜びでいっぱいになっていろんなことがどうでもよくなってしまいます。
良い本に出会えば出会うほど、本に関わる仕事に就かなかったことを悔やみ、苦しんでまた本に救われて……というループにはまります。

そして今日、有島武郎『生まれ出づる悩み』を読んで、わたしは苦しんでいた心がまた浄化されます。
この本を読んだのは大学2年生のとき以来ですね。

当時わたしは新聞配達と学校の両立に疲れ果てていたから『生まれ出づる悩み』の「君」への同情と共感の気持ちでいっぱいになり、のめり込んで読みましたね。

この物語は、著者とおぼしき「僕」が志半ばで絵の道を諦め、家業の漁業を継いだ青年「君」とのやり取りを通して世の中の不条理さを描いたもの。
「君」は漁師の父親ゆずりのりっぱな体格をして日々の仕事をこなしていたけれど、ふとした合間に絵の思いがこみ上げてきていても経ってもいられなくなる……。

けれど生活のために家業を棄てて絵に走るわけにもいかず、「君」は悶絶しながら漁師の日々を送ります。漁師の仕事は命がけで、「君」には絵を描く余力も時間もほとんどありません。けれど「君」は描きたいという気持ちを抑えられず、仕事の合間に山に向かいスケッチブックに鉛筆を走らせるのです……。

「僕」は「君」のおかれた環境と世の中の不条理に胸を痛めながら創作への熱い思いを描いていきます。現実は容赦なく「君」の自由を奪い、「君」は葛藤し続けるのです。

この物語は都合よく「君」を救いません。
けれど「君」にとってとても大事なことが書かれてこの物語は幕を閉じます。

学生のときに読んだときは「どうして救われないんだ……あまりにもかわいそうだ」と自分ごとのように切なく思うばかりでしたが、いま読むと「まぁ、そうだよな」と落ち着いて読むことができました。

この物語には現実に“続き”があることを、本書の解説で知りました。

この物語には明確なモデルがいました。「僕」は著者の有島武郎で、「君」は木田金次郎という青年です。
この解説を読んで“続き”を確認したときに、わたしは身体が震えました。


どれだけ壮大な夢であろうが
現実が容赦なかろうが
諦めなければ……道は開ける

口で言うのは簡単ですが難しいことです。
しかしこの物語はそれを体現していました。

この先の人生、なにが起こるかわかりません。
けれど、粘り強い心があれば、きっとなんとかなる。
有島武郎『生まれ出づる悩み』はわたしを励まし、救ってくれた大事な一冊になりました。
『小さき者へ』は自分が子どもを生んだときにもう一度読み返そうと思います。

22歳のあなたへ。
これからもわたしは自分の夢や目標を諦めずに生きていこうと思います。
だからあなたも頑張れよ。


ただいま帰省で北海道にいます。
……岩内町じゃないけれど、リアル生まれ出づる悩み。