「正しい」ことが苦手かもしれない。

学生のときは「きちんと勉強すべき」
社会人のときは「きちんと働くべき」
恋人ができれば「きちんと相手を大事にすべき」で結婚し、夫と子どもができたら「大事にすべき」という「正しさ」が。

正しいことが悪いわけじゃない。
むしろ怠けたらダメだし、相手を大事にできない人はたぶん結婚も難しいし、子どもは絶対に守らないといけない存在だし、なんだかんだ言って正しいことが一番良いし、正しいことをするべきなのだ。

ただ、「わたし正しいことしてますから!」みたいな優等生的な空気、正しくないことを許せない空気が苦手かもしれない。

正しければ、正しくない相手に何をしてもいいのか?
どんな暴言を吐いてもいいのか?
自分が被害者だからと言って、「正しさ」を押し付けて自分が気持ちよくなってるだけなんじゃないのか?

トラブルがあったときに、被害者意識でいっぱいになって「正しさ」を押しつけて気持ちよくなることはわたしにも大いに心当たりがある。
でも、正しさの是非を問うたところでわたしがすっきり救われるわけじゃない。
むしろ被害者意識が強くなって、もっと辛くなることのほうが大きい。

冷静になれればいいけれど、自分ごととなるとなかなか頭を冷やせないのが人間……。
桐野夏生『ロンリネス』はそんな人間の罪深さを巧みに描いた物語だった。

桐野夏生『ロンリネス』は、ママ雑誌「VERY」に連載されたタワマン妻たちの愛憎劇だ。
前作『ハピネス』を読んでどハマりし、続編が出た!!と聞いて飛びついて読んだ。

江東区の52階建タワーマンションに住むママたちは、いろんなことに大忙し。
BET(ベイイーストタワー)29階に住む有紗は、離婚寸前の夫とヨリを戻したものの、娘の進路で言い合いが続く。
BWT(ベイウエストタワー)47階の竹光裕美・通称「いぶママ」は夫の不倫騒動で青山に雲隠れ中。
同じくBWTに住む真恋(まこ)ママ・芽玖(めぐ)ママは娘のお受験対策に躍起になるなかいぶママのゴシップを野次馬的に観察する。
いぶパパの不倫相手・美雨(みう)ママは不倫関係を継続していて、夫と大揉め中。

有紗は美雨ママと仲が良く、近況を聞きながら美雨ママが破滅に向かおうとしている状況に気が気でない。
しかしそんな有紗も夫との関係が悪くなる一方。
有紗の夫の家族とも相容れず、美雨ママは自分ごとでそれどころじゃない。味方のいない有紗は孤独感を募らせるのだが、ある日ひょんなことで一階下の隣人・高梨と話すようになり、事態はさらにややこしい方向へ進む……。

この物語は真恋ママと芽玖ママ以外の登場人物がどんどん泥沼にハマっていく。

ママ友たちのセレブマウンティングに疲れ、夫との関係も上手くいかず、美雨ママといぶパパの不倫にあてられた有紗は、危ない橋を渡りたくなってしまう。

どう転んでも身の破滅が待ち受けているのに、自分の気持ちを抑えられない。有紗は理性と欲望に板挟みになりながらも、結局「正しくない」方向へ足が動いてしまうのだった……。

読みながらいろんな感情が湧いて忙しかった。
有紗の優柔不断さにイライラし、有紗の夫の人を見下す物言いに腹を立て、いぶママの腹黒さにゾッとし、真恋ママ・芽玖ママのいやらしさに苦笑し、美雨ママの向こう見ずな性格に呆れた。
けれど一番「やだー!!」と思ったのは彼らではなく、有紗の一階下に住む高梨だ。

高梨はずるい。
相手が折れるまで強引に誘い、口説き、危なくなったら逃げる。
単身赴任先で不倫がバレ、妻からほぼ監視されているような生活を送っているにもかかわらず、懲りない。

不倫がそもそもダメなのに、こんな奴と不倫したらもっとダメだーーー!!
と心の中で叫ぶ。
有紗のふらつき具合に「しっかりしろーーー!!」と叫び、ジタバタした。

しかし、わたしの悪い予感は当たってしまう……。
有紗たちがどうなってしまうのかは本書を読んでのお楽しみだが、こういう愛憎劇は小説やドラマで楽しんでこそだな、と思う。現実で起きたら身がもたない(笑)。

「正しくない」ことに出会ってしまったとき、いかにそれを許せるか、うまく飲み込めるかが大事なのだと思う。
もちろん、許すことと泣き寝入りは違う。「正しくないこと」をしてしまった人はそれなりに罪を償うべきだ。

「正しくないこと」はお酒のように、一度ハマったらなかなか抜け出せない。そして美雨ママのように泥酔する場合がある。
有紗も一度だけだと思いつつ、お酒に酔ってどんどん冷静でいられなくなる。

ほどほどに……なんて、そんなうまくいかないよなぁ。
昨夜飲み過ぎて二日酔いのわたしは、そうしみじみ思うのだった(苦笑)。