湊かなえ「未来」は、全く先の見えない真っ暗闇のなかに、ろうそくの灯ほどのかすかな光があるような物語だ。

決して明るい物語ではないのに、ページをめくらせる底力があった。読み終わる頃にはわたしは物語にすっかり引き込まれてしまっていた。


ある日、小学生の章子のもとに20年後の自分から手紙が届く……というファンタジー的な出来事がきっかけでこの物語動き出す。

冒頭は緊迫したシーンからはじまるため、読者はいきなり「何があったんだ??」と困惑させられる。

それから章子の手紙のシーンへと移るのだが、そこから冒頭のシーンに至るまでの道のりが思った以上に遠く、最後まで「いったいどうしてこうなったんだ??」と気になったまま一気に最後まで読んでしまった。

 

章子優しく真面目で想像力が豊かな子どもだ。

自分にどんなひどいことがあっても、つとめてポジティブに振る舞おうとした。学校の成績も優秀で、先生からも進学校へ行くように勧められていた。父と母はそんな章子に支えられ続けていた。


そんな親孝行な章子がどんなことを思いながら過ごしていたのか、この物語を通し垣間見ることができる。20年後の自分からの手紙が届いたとき、章子は20年後の自分に向けた返信として手紙を書くようになるからだ


手紙は日記のように章子がそのとき思ったことを鮮明に書いていく。同じクラスの女子に嫌がらせをされたこと。自分で作ったお弁当のこと。母の心の状態が不安定で、しばしば「人形」のようになってしまうことなど。

 

その後章子にはさらなる不運と試練が待ち受ける。章子は自分の環境を嘆き悲しみ、ふさぎこんで不登校になってしまう。父は病気で早くに亡くなり、母はよりいっそう不安定な状態になる。

どうしてこんなにも不幸が続くのか……と読みながら息を呑む。

 

しかしそれは章子だけではなかった。

この物語では、章子のまわりの人物にもフォーカスされる。同じクラスの父親から虐待されている亜里沙、裕福な家庭に育ちながらも何か不穏なものを抱えている実里。彼女たちの担任の篠宮先生。


彼女たちのエピソードが小刻みに挟まれながら、物語はクライマックスを迎える。

 

最終部を読みながら、世の中にこんな理不尽なことがあっていいのか、と嘆きながら読んだ。

登場人物全員、苦しくて、どうしようもない理不尽な立場にいた。残酷な環境だった。彼女たちが憤りをあらわにする場面はつい目を背けたくなった。

 

全員、救われてほしいのに。どうして、なぜ。

いま、自分が生きている環境はものすごく恵まれているんだ……という陳腐な感想しか浮かばない。

結末までなんとか読み終え、はぁっと一息ついた。

 

未来の自分からの手紙をきっかけに動き出した彼女たちの「未来」。

結末まで読み、わたしは彼女たちの未来が今よりもっと素敵なものであれ、と祈らずにはいられない

同時にどんな理不尽な状況でも、歯をくいしばって、声を上げようとする彼女たちのラストシーンに身が震えた。


「未来」に描かれたかすかな灯は、きっと多くの理不尽な環境に置かれた人たちを勇気づけるだろう。

声を上げる勇気、周りを頼る勇気が描かれている。周りに必ず助けてくれる人がいるから、どうか諦めないで、というメッセージも感じる。


わたしも人を勇気づけられるような文章を書けるようになりたいと心から思った。

そして、登場人物たちのように勇気を出した人の声を聞き漏らさずに生きていきたいとも強く思った。


たとえ真っ暗闇でも、灯を見失わなければきっと生きていける。

そんな希望を感じた一冊だった。