妻に浮気がばれた40代の初老の男の「公開処刑」の物語。

 

浮気の償い話から、まさかそんな展開になるなんて……

予想のななめ上、もう上過ぎて大気圏突入しちゃってるくらい話がぶっ飛んでいて、冗談みたいな物語ってあるものだなぁと感心した。

ぶっ飛んでいるけれど引き込まれた。ときにはフフッと笑いながらあっという間に読み終えてしまった。

 

男は書くことを生業にしていて、俳優もちょっとかじっている、いわば「業界人」だ

おそらく男は話がうまい。うわべを取り繕うのもうまい。男は自分の職業柄それを自覚していて、だからこそ浮気し、妻に「キレイにばれ」

 

物語冒頭の男と妻のシーンから、男の間抜けさと情けなさと懲りなさ(ちょっと惜しかったな、と心の声が出ちゃう)が全開で逆に清々しい。


もちろんその態度は妻に完全に見透かされ、妻はこのことを内密にする(公にすると、男は仕事ができなくなる)かわりに、もう二度と浮気しないための「3つの条件」を男につきつける。


男は2度目の結婚で、もう離婚したくないと思っていた。妻の要求は男をがんじがらめにするものだったが男は「もう「はい」としか言えない」状態だった。

 

こういう場面を小説でもドラマでも何度も見たことがある気がする。

すっごくベタな展開だけれど、男の人間性があらわになっていて面白い。


「調子に乗ってるからこうなるんだ~! ざまあみろ!」と妻側に立ちつつ読み進めると、物語展開があらぬ方向へ行き、「おや?」となる。

 

20年前に書いた脚本がフランスの芸術家の目に留まり、とある賞を受賞することになったというのだ。

ここで「え~、本当かよ?」とうさんくささを感じる


そして男も同じようにいぶかしむが、妻への要求が苦しすぎてとにかく逃げたい気持ちが勝り、男はフランスへ行くことにするのだ……。

 

フランスへ行くまでの道のり、フランス旅行中のドタバタ劇も予想のななめ上をいく展開で、「いったいどうなってしまうの!?」という好奇心がやまなかった。


男は「業界人」のくせに、気弱で「こなれ感」が一切ない。ごく普通の中年のおっさんが周りに振り回され、ドタバタして疲れる様子を見ていると、最初は「ざまぁみろ!」と思っていたのだが男がいじらしく思えてくる。


母性ってこんな気分なんだろうか、とつい思ってしまった男は日本でもフランスでもけっこうひどい扱いを受けるのだが、最後の方では「あぁ〜どうにか助かりますように!!」という気持ちになっていた。クソみたいな性根の持ち主なのに、なんか憎めない。


なんでだろう。と少し考え、それはたぶん男がどんな出来事においても「無条件降伏」だからなのだろうと思った。

男の無条件降伏が仇となり、物語はとんでもない方向へ展開していくのだが…。

 

最後まで読み終、「もう「はい」としか言えない」というタイトルを振り返る。

この物語内で男が選択肢を与えられる場面はどこにもない


妻に浮気がばれたときはもちろん、フランス旅も妻から逃げるために行くしかなかったし、旅行中は同行者や地元民に振り回される。男はどこへ行っても「もう「はい」としか言えない」状態だったのだ。

 

この状態にどことなく既視感を覚える。


あれ。

これって、年末年始の「ガキ使」じゃね?


「笑ってはいけない」シリーズじゃね?


ああダメだ!もっと文学的な考察をせねば!!と思うのだが、一度浮かんでしまったものはなかなか消えない。


目かくしされてどこかに連行されるシーンとか、ラストのちょっとさわやかに終わる感じとか。


読み返せば読み返すほどわたしの目は「ガキ使」との共通点を探し出そうとする…。


この物語を読んで、読み手の傲慢さを痛感した。

想像もしないような物語に触れたときに、自分がいままで知っていることを脳内データベースから探し出して、勝手に紐付けしようとする。


そうでもしないと「なんだったのこれ!?」と思ってしまって収まりがつかないからなのだが、そういう既存の価値を打ち破るところに芥川賞の意義があるのでは、と思い至り、傲慢さを恥じた。


「もう「はい」としか言えない」物語に、新たな読みを見出せず、わたしは口をつぐむしかない。

それが悔しい。

けれど、すごく面白かった。