| 明るい夜に出かけて [ 佐藤 多佳子 ]
1,512円
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人生、きっと力み過ぎるのは良くないのだ。
吉野源三郎『君たちはどう生きるか』の感想文を書きながら、どうにも気分が落ち着かなくて、モゾモゾとしていた。
自分では切実な思いを書いているのに、なんか、くっさいこと書いてるなぁと思うもうひとりの自分もいて、ああだこうだと推敲しながら結局くっさい自分を出した。
「くっさい」ことの何が良くないかというと、力み過ぎて空回りして見えるからだと思う。読む人全員が同じテンションじゃないから、くっさい熱いブログを見て「うわ、しんどい…」と思って引いちゃう人もいるだろう。
けれど、わたしのいまの力量ではくっさい自分を出すことでしか感想文が書けなかった。
う〜ん。ゆるすぎず力み過ぎず、読む人にとってもわたしにとっても心地よい文章が書けるようになりたい。
そう思っている時に、どんぴしゃな一冊に出会った。
佐藤多佳子『明るい夜に出かけて』は、人間関係のトラブルで大学生活を挫折しかけている20歳の主人公・富山が実家の世田谷区から少し離れた横浜市・金沢八景で休養しながらゆる〜く前進していく物語だ。
富山は大学を休学し、金沢八景で一人暮らしをしている。コンビニの深夜バイトで生計を立て、バイト以外は好きな深夜ラジオをひたすら聴く日々を送る。
富山のお気に入りは「アルコ&ピースのオールナイトニッポン」(※2016年3月に放送終了)。ヘビーリスナーでありハガキ職人でもある富山はツイッターのハッシュタグ「#アルピーann」を追い、たまにツイートもする。
「職人」であることが原因で休学に至っているためたまに心の傷が疼く。傷に囚われないようにバイトにも精を出しつつ、力み過ぎないように、「とりあえず」という心持ちでこの生活を続けている。
この物語は傷ついた青年の復活劇というよりは、ラジオ偏愛物語、「アルコ&ピースのオールナイトニッポン」偏愛物語だ。
この物語では奇跡的にアルピーラジオ愛好者が3人も集まる。そのひとりはコンビニの客として偶然出会った、コメントをよく読まれる者に与えられる勲章付きのヘビーリスナー「虹色ギャランドゥ」だったのだ…。
と言われても未読の人にはなんのこっちゃわからない。しかし彼らが集まると、会話の9割はネタの話に終始して、アルピーラジオを知らない読者は置いてけぼりのまま物語は進む。あれ、傷ついているんじゃなかったっけ?と思いながら読み進めると忘れたころに古傷がよみがえり、富山の心をえぐり、本編(?)に戻る。
バイトとラジオを行きつ戻りつしながら療養生活を続ける富山だが、バイト先の「歌い手」の先輩と親しくなったり、「虹色ギャランドゥ」との関わりが深くなったりして、少しずつ前向きな心地になっていくのだった…。
この物語の良いところは、わからないものをわからないままにしておく寛容さがあるところだ。休学のきっかけになったトラブルを誰も(“語り手”も)深掘りしないし、富山が抱えているであろう心の病を分析したり治そうとしたりしない。
「虹色ギャランドゥ」は富山をヘビーリスナー仲間としてすべて受け入れ、ラジオの名「職人」として尊敬すらしてくれるのだ。
登場人物たちのラジオ愛、仲間愛が富山の心をゆる〜く救うのだった。
この物語の8割はラジオのネタの話だが、登場人物たちの愛や夢が強く書き込まれためちゃくちゃ熱い物語だ。
ネタと“熱さ”の絶妙なバランスに感服した。こんな文章を、わたしも書きたいと強く思った。
愛は人をゆる〜く救う。
愛とネタに溢れた物語に浸ってものすごく心が和んだ一冊だった。
たまたま次はこれ読もう、と手にした一冊が自分の求めてる一冊であることが最近本当に多くて震える。
スピリチュアルなことはよくわからないけれど、きっと運命だ。引き寄せってやつだ。と思ってテンションを上げておくことにする。とても良い一日になった。
