雑誌「rockin’ on」のインタビューだったか、SaoriのFukaseに対する並々ならぬ執着とふたりのただならぬ空気感に圧倒された記憶がある。

藤崎彩織『ふたご』は、生きるのが不器用なピアノ少女・夏子がもっと生きるのが不器用な男・月島に強烈に惹かれ、振り回される物語。
中学生の夏子は集団に馴染めずひとりでピアノを弾くばかりの毎日を過ごしていたが、ある日同じくひとりぼっちの綺麗な目をした少年を見つけ、つい声をかけてしまう。
それが月島で、彼は夏子の持たない言葉を持ち、夏子の気持ちを揺さぶりつづける。

「なっちゃんは、悪いのはいつも他人だと思っているように見えるよ」(28頁)


「言葉遊びをしたって仕方がないだろ。なっちゃんはいつも、正しいことが正解だと思い過ぎなんだよ」(33頁)


「なっちゃん、逃げることにだって、勇気は要るんだよ」(62頁)


「なんだかんだで、やっぱりなっちゃんと話しているのが一番なんだよ」(255頁)


「なっちゃんには、俺と同じ景色を見ていて欲しいんだよ」(262頁)


月島は驚くほどに繊細で、驚くほどに脆かった。月島と夏子は毎日のように電話をし、ふたりで遊びに行くこともしばしばあった。

夏子は月島に好意を寄せていたが月島は何を考えているのかわからない。高校へ進学した途端に好きな人ができたと平然と報告する月島に夏子はショックを受けるがふたりの関係は変わらなかった。まるで「ふたご」のように、つかず離れず適切な距離を保ち続けていた。


月島と夏子の歩む道は全く違っているはずだった。月島は高校を辞め自由に生きるようになり、夏子はピアノの続け音楽高校、大学まで進学した。

しかし月島は夏子を事あるごとに必要とし、夏子も繊細な月島から離れられなかった。


やがて彼らはバンドを組み、黴臭い地下室を借りて音楽活動を始める


どこまでがフィクションなのだろう、と無粋なことを考えてしまう。

月島は夏子を「ふたご」のように感じ兄妹愛のような、友だち以上恋人未満のような愛情を惜しみなく降り注ぐけれど、夏子は違った。「ふたご」のような距離感を保ちつつ、月島に猛烈に惹かれていた。彼とピアノのこと以外考えられなかった。


夏子の想いに胸を痛める。類いまれな言葉のセンス、独自の行動スタイルを持ち、まわりの枠組みからどんどん外れて個の道を作れる人が近くに居続けて、しかも自分が必要とされていたら、どうしたって惹かれてしまうだろう。


月島の言葉は呪いに近い。夏子は月島の言葉に逆らえないのだ。

はじめ夏子は月島に人生をメチャクチャにされたと恨むが、バンドを始め、音楽活動の苦しみと喜びを経て、夏子は呪いをかけられたからこそ得た幸福をいとおしく感じるのだった


きっとこの関係は死ぬまで変わらない。そんな揺るぎなさを確信した夏子は「ふたご」として生きることを決意し物語は幕を閉じる。

音楽はふたりが見つけた唯一の光だ。それに縋りつくように必死に生きる「ふたご」は共鳴し、力強い音を出す。


わたしにはきょうだいが居ないので親や恋人とも違う「ふたご」の感じをどうにも想像しきれないが、「ふたご」が共鳴して織りなす力にまばゆく羨ましく感じるのだった。



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