手足の感覚が無くなるほど冷え込んだ一日、熱いお風呂で身体をふやかしながら読んだ。
舞台はバリ島。季節外れの熱帯の描写が冷えた身体に心地よい。
 
この物語はみだらで怠惰で純粋な物語だ。
小説家の「私」は、いろんな男の肉体を愛し、愉しみ、味わいつくす。彼らとの情事は「私」の血肉となり、言葉に置き換えられて作品が出来上がる。
しかし最近の「私」はひとりの男に翻弄されていた。心も身体も持て余し、小説が書けなくなった「私」は熱帯の地に滞在し、心と身体を落ち着かせることにする。
 
バリ島のなまぬるい風と現地の人々のあたたかさは、「私」の心と身体を自由にし、存分に甘えさせた。
現地ではいままでの奔放な「私」に戻り、ひょんな縁で知り合ったタクシーの運転手やホテルのウエイターとの情事にのめり込む。
熱風が押し寄せてくるようなねっとりした描写にたじろぐけれど、その行為はただみだらな訳ではなく、ふたつの肉体の純粋な煌めきを感じさせる。それをこぼすまいと言わんばかりに、濃密な描写が延々と続く。
 
「私は自分の体の上にある男の皮膚を愛している。そして、その皮膚が生み出す私への愛情を私は愛している。私が彼を愛していると知らせたくて体を反応させる。そして、それを知った彼は自分もそうなのだと伝えたくて体を使って見せる。(中略)愛していると彼は言う。言葉。雨音。漏れてしまう吐息。シーツは擦れて火を点ける。脇腹に爪のあと。足首に五本の指。金色の鎖は休んだり流れたり。自由気ままなのは私の髪も同じ。枕の上で踊り、シーツの上を走り、時には床の上で眠る。」
(112頁)
 
彼らの情事にはひとりの「目撃者」がいた。
「私」は後に目撃者である15歳の少年と知り合う。彼は耳が聞こえない。だからかずっと「私」を見つめている。少年は言葉を交わせないぶん、視線で「私」に語りかける。少年も「私」に欲情しているけれど、少年はいままでの男たちとは全く異なる方法で、「私」の心を掴むのだった…。
 
この物語の6割は男との情事の場面に割かれているが、最終部の少年との純粋な交わりを描くための長い前置きのように感じられる。
少年のまっすぐな瞳とバリ島の綺麗な夕日はいままで「私」が肉体で感じていた煌めきを心で感じさせる。「私」は愛おしさに胸がいっぱいになるのだ…。
 
なんてみだらで怠惰で純粋な物語なのだろう、とお風呂で汗をかきながらため息をついた。熱帯の気候はずっと汗をかきっぱなしで頭がぼおっとしてしまうから余計にだらしなく気持ちよくなれるのだろうか。それを許しちゃうバリ島の懐の大きさもすごい。
今度は物語を通してでなくわたしの目で煌めきを見たい。来年の旅先のひとつが決まった一冊だった。
 
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