わたしが敬愛する作家の山田詠美さんが解説を寄せているので読んだ一冊。
 
ザ・ペニンシュラ・ホンコン、タイのオリエンタルホテル、フランスの地中海クラブ(クラブメッド)、イギリスのサヴォイ・ホテル、シンガポールのラッフルズホテル、横浜のホテルニューグランド、上海飯店、東京ステーションホテル…世界の名だたるホテルが登場する短編集。
 
庶民のわたしが泊まるどころか眺めることすら叶わないかもしれない世界の超高級ホテルは、その中に多くの人間の情欲を押し込んでいる。
 
せっかく超高級ホテルに居るのだから特別なひとときを過ごしたい、と誰もが思うから、そういうことをするだけのホテルよりもなんだか情欲の密度が濃い。だから良くも悪くも忘れられない物語が生まれてしまうのだろう。
そういう意味で高級ホテルはとてもいやらしい建物ではないか…!と思ってしまった。
 
全十話でそれぞれの物語はとても短いが、その分凝縮された男女のアバンチュールを覗くことができる。
なんか、アバンチュールって、すごくベタで甘い言葉で恥ずかしい。
でもそれが何か?と言わんばかりに、登場人物たちはベタベタなラブストーリーまたは修羅場を堂々とやってくれる。
 
「「俺、翡翠はムリだけどさ、そのかわりあれを全部、今夜、きみにあげるよ」と譲は少しかすれた声で言った。
「ありがと」再び涙が出そうになったので、阿里子はわざと明るく言った。「ガラスのイヤリングより、まだましね」」(31頁 第一話 半島酒店)
 
香港の夜景を見ながらこんな言葉を交わすなんて、恥ずかしくて本当に歯が浮く…!!とはじめは悶えながら読んだが、十話を読み切る頃にはベタ甘に慣れ、一生に一度くらいこんな応酬があっても良いかも、と思うようになっていた。
 
どうやら、アラサーとは言え20代の小娘にはとうてい窺い知れない高級ホテルの贅沢さが、人を大胆に、ベタベタに、だらしなく、狡く、向こう見ずにさせてしまうようだ。
 
いつか高級ホテルに泊まれる日がきたら、「ホテル・ストーリー」ごっこ(“ごっこ”で良い)をやりたいなぁ…とみやびやかな空間をまばゆく思うばかりだった。
猛烈に旅に出たくなった。
 
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手始めに東京ステーションホテルで週末を過ごしてみたい。