おっさんが苦手だ。
 
働き方改革と言いながらまだまだ偉そうなおっさんがはびこる日本。
おっさん相手の営業で煮え湯を飲まされたわたしは頑固でプライドが高くて融通がきかないおっさん達にかなり嫌悪感を持っている。
 
この物語は大阪のタベモノにまつわる物語集だが、包丁も握ったことがない家事下手なおっさん達が食べ物につられてしたたかな女性に気圧される物語集でもある。

本書は8編の短編集で、「春情蛸の足」、「慕情きつねうどん」、「人情すき焼き譚」、「お好み焼き無情」、「薄情くじら」、「たこやき多情」、「当世てっちり事情」、「味噌と同情」と、大阪のおっちゃん(大阪ではおっちゃんと言う)達が好きそうなタベモノがずらりと並んでいる。
そして物語を読み進めると、おっさんって阿呆ちゃう?とエセ関西弁を使いたくなるほど短絡思考のオンパレードで、呆れを通り越したおかしさを楽しめる。
 
おっさん達は、理想のおでん屋で幼馴染と再会してあわよくばの展開に浮かれていたり、きつねうどんの趣味が合う女性と結婚して妻の豹変ぶりに驚いたり、関西風すきやきを「生きる希望」と心から思っていたり、豚玉で七難がかくされると思っていたり、自分の犯した罪を棚に上げて別れた妻とてっちりを楽しんだり、英語が話せる妻へのコンプレックスで昔ながらの小料理屋に足しげく通ったりするのだ。
 
おっさん達はプライドも理想も高いのだが、現実の変化に疎く動きがにぶい。一方の女性たちは大胆にハキハキとものごとを進めていくからおっさん達はやり込められるばかりになるのだ。

全編を読んでタイトルを見返すと、各編の「情」の文字が哀愁漂って見えてくる。
おっさん達がやりこめられる滑稽な様子を見ていると、憎たらしく思うのも阿呆らしく思えてきて、最終的にはおっさんの背中がいじらしく感じられてきた。

女性の前では目茶苦茶頑固なおっさん達は、タベモノの前ではとても素直でかわいいのだ。おっさんが熱々のおでんをもらう描写なんかは小動物的なかわいさがある。

「杉野は熱々のごぼ天と蛸とこんにゃくをもらった。澄んだお汁も皿に少しすくわれる。汁気のないタベモノばかり家であてがわれている杉野は、うれしくてたまらない。」(18頁)

くそう。かわいいではないか。
さらに悔しいことに、おっさん達のタベモノの好みがわたしの好みとどんぴしゃに重なっている。くそう。美味しそうではないか。

著者の田辺聖子はきっと、おっさん達の憎らしさも含めて愛おしんでいる。だから描写のそこここにかわいらしさが潜んでいる。
そこまで大人になれないわたしは、おっさん達のワルクチを言いながら、熱々のおでんに日本酒で一杯やりたくなるのだった。
 
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いつかの美味ごはんと酒。
早く夜になれ。