MRN@mrn123mrn
柚木麻子さんの新刊『BUTTER』(新潮社)、タイトル通りバターの描写たっぷりで読んでるだけで胃もたれしそう…物語内容もこってり。すんげぇ面白い。#柚木麻子 #GW初日 #夜ふかし読書 https://t.co/a0EQvn0mI1
2017年04月29日 17:56
若くもなく、美しくもない容姿の女なのに、多くの異性を虜にし、結婚詐欺の末に3人の男性を死なせたとされる"毒婦"・梶井真奈子。
野暮ったいファッションに、恰幅の良い身体。魅力的とは言いがたい見た目と相反する彼女の自信満々な物言いに、世の男性は戦慄し、世の女性は奇異の目で見るとともに関心を寄せた。
週刊誌記者の町田里佳は、なぜ梶井が多くの男性と関係を持つようになり3人の男性を死に至らしめたのか、そして梶井の人間性はどのようにして形作られたのかを追うべく、東京拘置所に通い詰める日々を送っていた。
本書は、数年前に実際に起きた「ある事件」をモチーフにした物語であり、梶井とその周辺を追い続けた週刊誌記者・町田里佳の闘いの物語でもある。
「仕事だの自立だのにあくせくするから、満たされないし、男の人を凌駕してしまって、恋愛が遠のくの。男も女も、異性なしでは幸せになれないことをよくよく自覚するべきよ。バターをけちれば料理がまずくなるのと同じように、女らしさやサービス精神をけちれば異性との関係は貧しいものになるって、ねえどうしてわからないの。私の事件がこうも注目されるのは、自分の人生をまっとうしていない女性が増えているせいよ! みんな自分だけが損をしていると思っているから、私の奔放で何にもとらわれない言動が気にさわって仕方がないのよ!」(86頁)
アクリル板越しに、梶井のねっとりとした声が響く。
面会をし、言葉を数回交わすだけなのに里佳は梶井の悪魔的な言葉に飲み込まれそうになる。世間を震撼させた事件の真相と、梶井の人間性のルーツを探るべく里佳は梶井の要求に忠実に応えようとする。
殺人容疑をかけられているにもかかわらず、梶井は毅然とした、時には高圧的な態度で里佳と言葉を交わす。
読みながら梶井の物言いにイラっとし、どうしてこの女が多くの男性を取り込めるのだろう、という好奇心が増していくのを実感した。
「あなたの生き様を知ることで、生き辛さを感じているたくさんの女性が逆説的に救われる可能性があるのではないでしょうか。あなたは、女性は男性に負けを認め道を譲るべきだと力説していますが、そういうあなたこそが、こうして呼吸をするだけで、多くの男性にダメージを与え続けている、大変な矛盾をはらんだ存在です。(中略)日本女性は、我慢強さや努力やストイックさと同時に女らしさと柔らかさ、男性へのケアも当たり前のように要求される。その両立がどうしても出来なくて、誰もが苦しみながら努力を強いられている。でも、あなたを見ているとはっきり、わかるんです。そんなもの、両立できなくて当たり前だって、両立したところで、私たちは何も救われないんだって。いつまでも自由になれっこないんだって」(117頁)
梶井の口からは、自身の食に対する飽くなき執着とブランド志向に加え、女性には耳の痛い"女性性"や"母性"に言及した持論が次々と放たれる。
かなり偏った持論のはずなのに、それに里佳は飲み込まれそうになる。それは里佳自身のコンプレックスを刺激するものでもあったからだ。だからこそ、里佳は女性として、記者として引用の言葉で反論し、梶井の嘘と矛盾を見極め梶井を追い続けた。
親友の伶子や知人の篠井の協力を得ながら、里佳は梶井が口にしたバターたっぷりの料理を食べ、梶井の出身地の新潟県・阿賀野に赴き、着実に梶井の核となる部分に迫っていくが、最終部で里佳は梶井からとんでもない反撃を喰らうことになる…。
本書は女性が抱える何かしらのコンプレックスをすべてくすぐられたような、見ないようにしていた弱点を暴かれたような気持ちになりながら夢中で読み込んだ一冊だった。
梶井の執念と体力に圧倒され、里佳の胆力に感嘆した。最終部の梶井の反撃に身も心もボロボロになってしまった里佳の痛快な立ち直り方に勇気をもらった。
本書の文章量の多さ、物語内容の濃さ、梶井の毒々しいまなざし、梶井の攻撃を受けたときに感じる胸焼けするような後味の悪さ、しかしそれでも人を惹きつけてやまない「BUTTER」…。読了後、このタイトルの秀逸さに改めて身が震えた。
女性が"自立する"ことにどこか後ろめたい空気を未だに感じる現代社会を笑い飛ばすような強さを感じ、多くの女性に読んでもらいたいと強く感じた一冊だった。
移動中に読了。現地でブログ更新中。

