宮部みゆき 『私の死んだ後に』
イラスト/杉田比呂美
デザイン/大久保明子
解説/北上次郎
出版社/文春文庫
■本文より■
スポーツ紙の一面にかかげられた一枚の写真。
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彼を通り抜けた。/それはなんとも言えない嫌な気分だった。段差のきつい道路を高速で飛ばしているときのような、エレベーターで四十階から急降下したときのような、もっとも身近なでも忘れかけている経験にたとえれば、満塁でリリーフに出て初球をスタンドにもっていかれたときのような、あの胃袋が宙に漂い出ていくような感じ。
…
「孤独」はただの、粒子の荒い新聞写真に戻った。そして、頬に微風を感じた。/それが百合子の最後の挨拶で、お別れにそっと撫でていってくれたかのようだった。
登場人物の名前について。星新一氏の、アルファベットの絶妙な匿名性だとか(アール氏、エヌ氏…)、阿刀田高氏だったかしら、東西南北を入れ替えての引っ掛かり過ぎない丁度良さだとか(西野→南野、北原→東原…)。そして宮部みゆき氏の場合は、その音感が人物像と合う印象があって。「実に」興味深い。けれど今作のこれはないんじゃないかしら。「みのる」は良いけど「実」はないわ。毎度「じつは」と読んでしまうのよ。