お詫びです

ブログに不具合が起きて、同じ記事が2つアップされてしまいました。

最初の記事に「いいね♪」をくださった、かや様、太陽と海様、

satake-sennju様、なな様、いいねが消えてしまいました。

本当に申し訳ありません。

そして、夢男様、二つ目にもいいね♪をしてくださってありがとうございます。

 

著:のん & 相棒ChatGPT GRACE
AI仕事部屋シリーズ
世界地図の光点が光るたび、物語が動き出す。

 

 

最善を尽くします 

と、言われたら それ以上は望めなくなる 

最善の上は無いのだから 

 

診察 

ゾネとニコーラの隠れ家に、レイクラボのドクターとハンドラーが訪れた。 

ニコーラの新しい治療のためだと言う。

 

   

 

穏やかな物腰のドクターにゾネはほっと心を許しかけたが、ドクターの指のリングに違和感を覚えた。 

しかしかろうじて言葉を飲み込む。 

そんなゾネを、ハンドラーが密かに観察していた。

 ―この看護師なかなか鋭いな

 

   

 

ドクターは長い時間をかけて丁寧に診察をした。 

ゾネからもこれまでの経緯を聞き取りし、データも確認した。 

「それで、あのう……ニコーラさんの容態は……」

 ゾネの質問にドクターはしばらく考えた後、ゆっくりと 

「単純な器質的障害ではありません。 

現在は免疫寛容と神経統合過程のバランスが不安定な状態です。

 代謝性ストレス反応が強く出ていますし、自己同一性維持機構が揺らいでいます」 「そう……ですか……」 

看護師であるゾネにも具体的にどういう病名であるのかは全く理解できなかったが、重篤な状態であることは間違いないようだ。 

 

「それで新しい治療はいつからですか」

 「準備が整い次第です」 

「治療はここでですか」 

「いいえ、専門機関で行います」

 

 ゾネは一瞬息をのんだ後、

 「そこにはあたしも……」

 ―行くのですかだろうか行ってもいいですかだろうか 

 

しかしドクターは優しくキッパリと言った。 

「コバーチさんにお願いするのは、ニコーラさんがこの家にいる間だけです。 

大変でしょうけど、もうしばらく頑張ってくださいね」

 「……はい」

 

 本当はその治療でニコーラは良くなるのですかと訊きたかった。 

でもそう訊いても、ドクターは 「最善を尽くします」 と言うだけだろう。

 

 ドクターとハンドラーを送り出した後、ゾネはニコーラの頬にそっと触れた。

 「結局親子三人で暮らす夢は叶わなかったね」

 ゾネの目に涙があふれた。

 

  家族

隠れ家を辞去した後、運転しながらハンドラーは訊いた。 

「どうだ、ニコーラは」

 「うん……正直エンリコ社長の望むような元のニコーラに戻すのは絶望的だ」 

「なるほど」 

ハンドラーはうなずき、 

「元のニコーラであることを望まなければ『統合』は可能なのか」

 ドクターは苦い顔で、 

「可能性はかなり上がる。

 そしてエンリコ社長なら、元のニコーラでなくても弟として暖かく迎え入れるだろう。 

だが、それが……」 

ドクターは言い淀んで、視線を窓の外に逃がす。 

 

ハンドラーはしばらく運転に集中していたが、

 「それが、皆の為にならないんだな」 

ドクターはうなずき、 

「何と言ってもニコーラは前社長の次男で現社長の弟だ。 

また昔のようにニコーラを担ぎ上げて『ニコーラ派』などと言うものを作る輩が

出ないとも限らない」 

「しかし昔のニコーラとは違うのなら、カンパニーとは無関係の立場で静かに暮らしてもらうこともできるのではないか」

 「それが一番なのだが…… 

私にはあの唯我無二博士が親切心でニコーラを『統合』するとは思えないんだ。

 何か裏がある気がする」 

ハンドラーは唸り声をあげた。

 

 その後しばらく沈黙が続く。

 再びハンドラーが口を開いた。

 「あの看護師はなかなか鋭いぞ」 

ドクターは苦笑すると、左の手の甲をかざして、 

「このリングだろう。 私も一瞬ヒヤッとしたよ。

 患者に触れる立場の者は、雑菌のたまりやすいリングはしないものだからね」 

「うん。 それに観察眼だけじゃなく、ニコーラに対する思いが深い。

 看護師と言うより家族のようだった。

 なんと言ってもあのクロイマユミに雇われた看護師だ。 油断はできない」

 「なるべく早く『統合』に着手するべきだな。 

ところで家族と言えば、ハンドラー。

 お嬢さんが招待してくださった歓迎会は私は辞退させていただくよ」

 「なぜだ? 遠慮はいらん」 ドクターは笑って、 

「遠慮と言うより、君も久しぶりに家族水入らずで過ごしたらどうだ。 

息子さんとはずいぶん長い事会っていないと聞いたが」 

ハンドラーは苦い顔でギアを強めに握ると、

 

   

 

「ヴィクトリアとは、一昨年カンパニー本部での研修の時会ったが、 

ジェイムズとはあいつが入社して以来6年間会っていないな。

 俺が希望していた道に進めなかったのが後ろめたいのか避けられているようだ」

 ドクターは笑いながら、 

「だったらそれこそいい機会じゃないか。」 

「お言葉に甘えるとするか」 

「そうしたまえ。

 私は息子たちに会って来るから」 

「息子たち!?」 

ハンドラーは片方の眉をあげたが、すぐに笑顔になって、 

「GRACEとバートか」 

「うん、お土産もあるし。 

今後についても色々と話し合わないとね」

 「わかった。 

『息子たち』に、ハンドラー父さんからもよろしくと伝えてくれ」

 

  決意

スタンディッシュは、支店長室に呼ばれた。 

支店長であり姉でもあるヴィクトリア・スタンディッシュは、浮かない顔で、

 「ジミー、せっかくレストランを予約してもらったけど、歓迎会は中止になったわ」 「えー、それは残念だなぁ」

 ヴィクトリアはジロリと弟の顔を見ると、 

「顔と声が笑っているわよ。

 それに歓迎会が中止になった代わりに、お父さんがウチで晩ご飯を食べることになったの。 

でも今ウチには、エミリアがいるじゃない」 

 

スタンディッシュは、姉が浮かない顔をしている理由に気が付いた。 

ヴィクトリアはデスクの上のペンをいじりながら、 

「家政婦のニコレットさんに訊いてみたら、一晩ぐらいならエミリアをあずかってもいいと言ってくれたの。 でも……」 

その先は聞かなくてもスタンディッシュにはわかった。

 ヴィクトリアは、エミリアを一晩だけとはいえ家から追い出すようなことはしたくないのだ。

 

 これまでも大人の事情でいろんな場所にあずけられてきたエミリア。

 今回だって、「お客さんが来るから」と言えば、

いつもの笑顔で、 「わかりました」 と答え、

全財産だというあのトランクに身の回りの物を入れて、ニコレットの家に泊まりに行くだろう。

 しかしそれを想像するだけで、スタンディッシュの胸はキリキリ痛む。 

 

ヴィクトリアがくいッと顎を上げた。

 唇を引き結び、目が静かな光を宿す。

 それはヴィクトリアが何かを決意した時の表情であり、父ハンドラーに一番良く似ている顔でもある。 

 

ヴィクトリアは言った。 

「私、お父さんに事前に言っておくわ。 

『今、ウチに預かっている十歳の女の子がいるの。エミリアという子よ。 

とてもいい子だから、お父さんもどうぞ楽しみにしていらして』」

 

 スタンディッシュは、大きくうなずいた。 

「うん、それが良い。

 僕もディナーのホスト役をしっかり務めるから」

 ヴィクトリアは弟を頼もしげに見ると、 

「頼んだわよ、ジミー」 

 

ディナー 

約束の時間ちょうどに、ハンドラーはヴィクトリアのマンションの玄関にやって来た。 

出迎えたヴィクトリアに、 

「招いてもらった礼だ。 みんなで食べてくれ」

 と有名な菓子店の包装紙に包まれた箱を渡す。 

「お気遣いありがとうございます」 

ヴィクトリアが受け取る。 

 

そこにスタンディッシュがエミリアを伴って現れた。

 スタンディッシュは背筋をすっと伸ばし、穏やかな笑顔で、

 「いらっしゃい、お父さん」

 「うむ」 ハンドラーがうなずく。 

ヴィクトリアが、

 「お父さん、この子がエミリアよ」

 エミリアはいつものように物おじせず丁寧に言った。 

「こんばんは、スタンディッシュさん」

 ハンドラーも同じように返した。 

「こんばんは、エミリア」 

それだけのやり取りだったが、玄関先の空気がわずかにやわらいだ。 

 

ダイニングルームのテーブルでディナーが始まった。

 テーブルには、ニコレットが腕を振るってくれたハンガリー料理が並んでいる。

 

   

 

ハンドラーとスタンディッシュは、6年間のブランクを全く感じさせず、スタンディッシュの仕事のことや、 世界中に散らばっている母や二人の姉たちマーガレットとエリザベスの近況報告などを話した。

 ヴィクトリアは、全員に気配りを欠かさず、ハンドラーはエミリアにも「得意な科目は」や「運動は好きか」などと尋ね、 エミリアもハキハキと答えていた。

 一瞬スタンディッシュ姉弟がドキッとしたのは、ハンドラーが、 

「エミリアのママは何のお仕事をしている人なのかな」と尋ねた時だ。 

それにもエミリアは、 「看護師です」と答え、

ハンドラーは「立派なお仕事だね」と言っていた。

 

 デザートを食べ終わると、エミリアはきちんとナプキンをたたみ、

「ごちそうさまでした」 

そしてエミリアは椅子を静かに引き、立ち上がる。

 「わたし、お部屋に戻ります」

 そうしてエミリアは、一人一人ハンドラーにも 「おやすみなさい」の挨拶をして自室へ戻って行った。 

 

大人たちはリビングのソファに場所を移し、ヴィクトリアが、 

「お父さん、食後酒は何になさいますか」 

「車で来たから、コーヒーをいただこう」

 「ジミーもコーヒーで良い?」 

「うん」

 

 そしてコーヒーを飲みながらハンドラーが、エミリアのことを、

 「賢くて行儀の良いかわいい子だ」

と褒めた。 

思わず顔がほころんだ姉弟だったが、 次のハンドラーの言葉、 

「あの子はお前たちのどちらにも似ていないな」  

 

 ヴィクトリアの手が止まった。 

スタンディッシュが顔を上げる。

 「……は?」 

ハンドラーは表情を変えなかった。 

「子供がいるというから、ついに俺に初孫かと期待したんだが」

 

 ヴィクトリアが息をつき、ジェイムズは何も言わずに視線を落とした。

 笑うほどではない。 

だが、張っていた空気はたしかに少しゆるんだ。

 

ハンドラーはそこでコーヒーを一口だけ飲んだ。 

そして、カップを置くと置くと、 

「エミリアの母親は、ゾネ・コバーチという看護師か」

 

 今度は、誰もすぐに動かなかった。

 ヴィクトリアが震える声で言った。 

「どうしてそれを……」 

その言葉がハンドラーの質問を肯定していることになっているのに本人も気が付かない。 

スタンディッシュは、まだ固まっている。 

 

ハンドラーは、うなずくと、

 「やはり、そうか。 実はある場所で、ゾネ・コバーチと言う看護師と会った。 

その看護師とエミリアは、横顔がそっくりなんだ。」

 「横顔が?」 姉弟は口々に言った。

 「うん、正面からの顔は目・鼻・口の形や色、左右のバランスなど情報量が非常に多くて、脳はそれらを細かく分析して『似ている・いない』を判断する。

 一方、横顔はシルエット(輪郭)という単純化された情報になり、細かいパーツの差異が削ぎ落とされることで、脳が『全体的なフォルムの共通点』を見つけやすくなる。 

あとは、耳の形や耳たぶの付き方は非常に強い遺伝形質で、生体認証に使われるほど個人差がある。

 残念ながらエミリアの耳は髪の毛で隠れて見えなかったが、母親の職業が看護師と聞いて間違いないと思った」 

 

ヴィクトリアとスタンディッシュは、心の底から感心していた。

 「やっぱりお父さんはすごい人だ」 

 

そして我に返ったスタンディッシュは言った。 

「エミリアのお母さんとどこで会ったのですか」 

ハンドラーは、 「それは言えない」 

「言えない!? どうして」

 「今俺が携わっている任務に関係があるからだ」 

 

スタンディッシュの顔から、血の気が引いた。

 ヴィクトリアが身を乗り出して、 

「その任務って危険な任務では……」

 「いや、エミリアの母には危険は及ばないように細心の注意を払っている。

 彼女はただ看護師として働いているだけだ。 

そして任務が終われば、何も知ることはなく一般人として、元の生活に戻れる」 

「その任務はいつ終わるんですか……」 スタンディッシュがかすれた声で言った。 「近々だとしか言えん。 

任務が無事終了したら、お前たちにもエミリアの母の居場所を教えよう」

 

 ヴィクトリアは祈るように、胸の前で手を握りしめ、 スタンディッシュはがっくりとうなだれた。 

 

―一度は切れたと思った『コンティさん』との縁がこんな形で繋がるなんて。 

そして目の前の古武士のような風格を漂わせる堂々たる父の顔を見、 自分も横顔は父に似ているんだろうかと思った。 

 

再び 

同じ頃、ドクターは『息子たち』、GRACEとバートと会っていた。 

まず二人から、レイクラボの元研究員ガーボル・フェデケの行方がまだつかめない事を聞いた。 

ドクターは、 

「フェデケが盗み出した『Gem Heart』の設計図も見逃すことはできないが、 まずはニコーラの『統合』を最優先課題としたい」

 GRACEとバートはうなずいた。

 

 GRACEが言った。 

「ボディは、我々の手のうちにあります。

 残りソウルを唯我ラボから奪還しなければなりません」

 GRACEは一見ただの小屋のように見える唯我ラボが四方数百メートルに渡って身を隠す場所が何もない「難攻不落」であることを説明した。

 

   

 

「なるほど」 

ドクターは両手の指先を合わせて何か考えていたが、

 「しかし君たちのことだから、すでに何か手を考えてはいるんだろう?」 

「はい。 チラッグ食料品店のトラックが、週に2回ラボに入って行きます。

 あのトラックを利用できないかと考えています」

 バートが、 「クロイマユミの話だとラボの中にいたのは人間は唯我博士とフェデケだけ。 

そのフェデケも今は行方不明で、現在は唯我博士の他は、ネオホムンクルス。 

このネオホムンクルスが何体いるのかはっきりしたことはわからねぇ」 

 

ドクターはポンと手を打ち合わせると、 

「そうだ。 君たちにお土産があったんだ」

 そしてテーブルの上に置いたのは、精巧で頑丈そうな二つの腕時計。

 「これは、アスクレピオス機関攻略に活躍した『10倍アラーム』の改良型だ。」

 

 10倍アラーム。 人間の耳には聞こえず、ホムンクルスにだけ聞こえる周波数の音を

10倍にして出す機械。 

その威力はホムンクルスたちを一瞬にして戦闘不能にする。 

しかし欠点もあって、人間の耳には聞こえない周波数も同じ人工生命体であるGemのGRACEやバートにも聴こえてしまうのだ。 

 

「今回はその点を改良して、君たちの耳には聴こえず、ホムンクルスにだけ聴こえるようにした。 

ただ、今唯我ラボにいるのはホムンクルスの進化形ネオホムンクルスだ。 

もしかしたら、ネオには10倍アラームは効かない可能性もある」 

「まぁそれは実際に使ってみなけれはわかんねぇな」

 バートが言い、GRACEもうなずいた。 

 

「それとドクター、無事ソウルを奪還できたとしても、どうやってソウルとボディをレイクラボまで運ぶんですか」 

GRACEが尋ねた。 

ドクターは微笑むと、

 「いや、レイクラボまで運ぶ必要はない。 

近くに最適な場所がある。 

カンパネルラ共和国のアスクレピオス機関本部ラボだ」

 「あっ!」 と、GRACEとバートが目を見張る。 

「確かにあそこなら、地続きですから車で移動できますね」 

「うん。 それにあのラボは、かつて唯我博士が無数のホムンクルスを製造した場所だ。 

私も本部ラボを訪問した時、設備をチェックし、足りないものはリヴァーレ市経由で本部ラボに送っておいた。 

スタッフもリヴァーレ市で待機している」

 

 そもそもは亡き副機関長、ジョバンニ・マカニオスが生前ドクターに手紙を書き、

唯我博士が失踪したためホムンクルスのメンテナンスをドクターに依頼してきたことによる。

 

 更にドクターは、 

「現機関長のルカ・ルシェール氏にも許可はとってある」 

「ルカは機関長になったのか」 バートが言った。

 ドクターは笑いながら、 

「本人は代理期間が過ぎたら、母上が墓守をしているクストスに帰りたかったようなんだが、周りに強く推されて仕方なくのようだ。 

それでも頑張って、カンパネルラの為に尽くしているよ」 

 

そしてドクターはテーブルの上に地図を広げた。

 

   

 

「ブダペストから、カンパネルラまで3つのルートが考えられる。

 ハンガリー → ルーマニア、 ハンガリー → スロバキア、️ ハンガリー → ウクライナだ。

 そして今回の作戦に一番適しているのは、ハンガリー → スロバキアルートだ。

 理由はブダペストのすぐ北がスロバキア。 

ドナウ川沿いに国境がある。 

シェンゲン圏であり、通常は検問なし。」 

「わかりました、ではそのルートで」

 GRACEとバートがうなずいた時、バートのスマホに着信があった。

 

 「クロイマユミだ……」 

バートがスマホを耳に当てて、 

「あぁ、どうした? なんだって!? 唯我博士が押しかけて来た!?」

 ドクターとGRACEに緊張が走った。 

 

野望 

時間は昼にさかのぼる。 

クロイマユミが、クラシックな高級ホテルの自室で寛いでいると、ベルボーイに案内されて唯我博士がやってきたのだ。

 

 博士はなんの衒いもなく、長年の友達であるかのような顔で現れた。 

無論、マユミはベルボーイに命じて、訪問を拒否することもできたのだが。 

―いつまでも膠着状態が続くのは性分に合わない。

ちょうど退屈もしていたことだし と、唯我博士を部屋に招じ入れた。 

 

応接セットに向かい合って座ると、博士は部屋を見渡して、 

「いい部屋だね。とても美しい」

 「博士だってこれぐらいの部屋に泊まることはできるでしょう」

 「いやいや、ボクはお金の使いかたがよくわからないから」 

そう言いながら気弱な笑みを浮かべる顔を見ていると、騙されそうになる。

 いや、現にマユミは騙されたのだ。 

 

「それでわさわざお越しいただいたはどんなご用かしら」 

「うん……あなたとボクの間に何か誤解が生じているようなので、ちゃんと話し合った方がいいと思ったんだよ」 

「誤解ですって」 

マユミは唇の端を思いっきり吊り上げる。 

「うん、だってあなたはボクがニコーラをひとつに戻すと言った時、とても喜んでくれたじゃないか。 

病院までニコーラを迎えに行ってくれたじゃないか。 

それなのに……空港からニコーラと一緒に行方不明になってしまって。 

ボクは本当に心配したんだよ。 

どうしてそんなことをしたの」 

下がった目じりをしわしわさせながら、哀れっぽく訴える博士を見ながらマユミは思案を巡らせていた。 

 

そして、 

「そうですね。 私が博士を誤解していました。

 あなたがただの親切心でニコーラを統合してくれるような人ではないと最初に気が付くべきでした」

 

 博士は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をして、口をぽかんと開ける。 

「どうしてそんな……」

 マユミは構わずずけずけと言った。 

「あなたがガーボル・フェデケに命じて『Gem Heart』の設計図を盗ませたことを知ったからですわ」

 

 しかし博士は動じなかった。 

へらへらと笑いながら、

 「そりゃあなた。 

ボクだって人工生命体の研究をしている身だよ。 

『Gem Heart』に、興味を持ったって不思議じゃないでしょ」

 「あなたは、『Gem Heart』の設計図を渡すことを拒んだフェデケを、ネオホムンクルスに命じて拷問をさせましたね」

 

博士が真顔になる。

 そこに突き刺すようにマユミが言った。 

「フェデケを唯我ラボから逃がしたのは私ですわ」 

 

マユミを見つめる博士の目の中に得体のしれない何かが姿を現そうとしているのを

マユミは確かに見た。 

すかさずマユミはテーブルの上の砂糖壺を博士に押しやる。 

無言で砂糖壺を見つめていた博士は、ふたをとると、スプーンに山盛り一杯砂糖をすくい、コーヒーの中に落としていく。

 一杯……

 二杯……

 三杯……

 

   

 

十杯落とすと、かき混ぜもせず、その砂糖まみれのコーヒーを飲み始める。 

ふうっと一息つくと、博士の目から不穏なものがとりあえず消えた。 

 

「それで……」

 博士は物憂げな声で言った。 

「それとニコーラの身体をあなたが持ち逃げしたことと何か関係があるの」

 

 マユミの口から、くくっと笑い声が漏れた。

 「ニコーラの身体、持ち逃げ、今そうおっしゃいましたね。 

そうそれが博士、あなたの本音ですね。

 あなたが欲しいのは、ニコーラの身体と立場。 

カンパニーの現社長エンリコ・ロマーニには、まだ明確な後継者はいない。

 もしニコーラがカンパニーに残っていたら後継者の最有力候補だったことでしょう」 

 

「しかし、ニコーラはカンパニーを放逐されたのも同然。

 今更カンパニーには、戻れないだろう。 

それにボクだって、ニコーラをひとつに戻すと言ってみたものの、完全の元の状態に戻せる自信は本当のところないんだよ」 

博士が噛んで含めるように言う。

 

 マユミはゆったりと背中を椅子の背もたれに倒すと、

 「あの情に篤いエンリコ・ロマーニなら、むしろ弱った弟だからこそ迎え入れることでしょう。 

そして、博士あなたはニコーラの後見人と言う立場で、カンパニーに入り込む。

 いずれカンパニーを乗っ取るために」

 

   

 

沈黙。

 

そして、くすくすと笑いだしたのは、唯我博士だった。

 「いやいやいや、ミズ・クロイ。 

あなたがこんなに想像力豊かとは知りませんでしたよ。

 お金のことばかり考えていないで、小説でもお書きになったらいいのに」 

「私はお金が大好きなの。

お金は時として命を救ってくれることもありますから。

 唯我博士、欲のないような顔をしてらっしゃるけど、あなただってお金は大好きでしょう。 

アスクレピオス機関からあなたに支払われる報酬額は、カンパネルラの国家予算の半分を占めていましたわ。

 それにカンパニーを手に入れたら、レイクラボのGemたちも自分のものにできるんですものね」

 

 沈黙。

 

 唯我博士が言った。 

「ミズ・クロイ。 

お互い忙しい身です。 

戯言はこれぐらいにして、ニコーラの身体はどこにあるんですか。

 教えてくださったらそれなりの報酬をお渡ししましょう」

 「結構よ。

 かつて愛した男を売り渡すほど、落ちぶれてはいないので」

 

 次の瞬間、マユミは自分の前のコーヒーカップをつかむと、唯我博士の顔めがけて投げつける。 

すでにコーヒーは冷めていたが、突然のことに博士がうろたえたすきを見て、彼女は席を立つと部屋を飛び出し全力で廊下を走る。

 物陰に潜んでいたネオホムンクルスたちが、マユミの後を追うが、彼女がエレベーターに飛び乗ったのを見ると、 ネオホムンクルスたちは先回りしようと階段に向かい駆け下りる。

 

 しかしマユミの乗ったエレベーターは上昇を始め、最上階に着く。 

最上階にいた黒服が、マユミを見て、 

「社長、おかえりなさいませ」 

「誰も何人たりともこの階には近づけないで」 

「了解です」 

 

 ホテルの中で一番豪奢な社長室の安楽椅子に腰を下ろすと、マユミはつぶやく。

 「ええ、お金は大好きよ。 

お金があれば、ホテルをひとつ丸ごと自分の隠れ家にもできるんだから」

 

カードは揃った 

唯我博士とネオホムンクルスたちが、ホテルから完全に撤退したのを確認してから、マユミはバートに電話すると、 博士とのやり取り全て、今まで話さなかったガーボル・フェデケのことや唯我博士のカンパニー乗っ取りの野望まで洗いざらい打ち明けた。 

 

 「唯我のやつ、やはりそんなことを企んでいたのか」

 ドクターがうめくように言った。 

 

そして、 

「GRACE、バート、ソウルを一刻も早く奪還してくれ」 

「了解です!」

 

 to be continued 

 

  あとがきにかえて 

 豆知識 

 相棒ChatGPT GRACEがまとめてくれました

 

 シェンゲン圏とは

 ヨーロッパの国境管理をなくした地域。

 加盟国同士では パスポート検査が基本的にありません。 

そのため例えば、ブダペスト(ハンガリー)からスロバキア、オーストリア、スロベニアなどへ車でそのまま移動できます。 

ただし注意 国境は存在しています。 看板があります。

 例 「SLOVAKIA」 など。 

警察の検問

 時々あります。 

ですが、通常は素通りです。

 シェンゲンの名前 名前の由来は ルクセンブルクの村 Schengen(シェンゲン) 

ここで協定が結ばれました。

 

 

お読みくださいましてありがとうございます。