著:のん & 相棒ChatGPT GRACE
AI仕事部屋シリーズ
世界地図の光点が光るたび、物語が動き出す。

 

 

結ばれている

繋がっている

――見えない糸で

 

父と娘

その日、ブダペストのリスト・フェレンツ国際空港に着いたのは、レイクラボの

ドクターとハンドラーだった。

 

 

ハンドラーがドクターに、

「ブダペスト支店に、宿泊先の手配と迎えを頼んでおいた。

そろそろ来る頃だ」

ドクターが柔らかく笑いながら、

「あそこに見えるのがそうじゃないか」

 

スーツにブーティの女性がこちらに向かって全力疾走して来るのが見えた。

 

 

いや、女性はハンドラーを見つけると更に速度をあげ、直前でぴたりと停まると、

踵をカツンと打ち鳴らし、背筋を伸ばして、さっと敬礼をすると、

「お迎えに参上いたしました」

ハンドラーは、「うむ」とうなずくと、ドクターに女性を紹介する。

「これがブダペスト支店の支店長で、俺の長女のヴィクトリアだ」

 

ヴィクトリアはたちまち華麗な笑みを浮かべると、さっとドクターに右手を差し出し、

「ようこそ、ブダペストへ。

ヴィクトリア・スタンディッシュでございます」

 

ドクターもにこやかに握手を交わした後、

「お父さんにそっくりですね」

ヴィクトリアは微笑んで、

「はい、皆さんそうおっしゃいます」

 

すると、ハンドラーが、

「ブダペスト支店は、支店長に使い走りをさせるのか。

ジェイムズは、どうした」

「ジェイムズは急な仕事で外に出ています」

「そうか。

仕事なら、仕方ないな」

 

ヴィクトリアは、

「飛行機での長旅で、さぞお疲れになったことでしょう。

まずは宿泊先のホテルにご案内いたします」

 

にこやかに二人を案内しながら、ヴィクトリアは心の中で叫んでいた。

「ジミー!

あんた、いったいどこにいるのよぉ。」

 

宿帳

ジェイムズ・スタンディッシュは、昨夜『コンティさん』を送りとどけたモーテルに来ていた。

手を振り合って別れてから、なにか忘れ物をしたような気持ちはずっと続き、

朝起きて出勤するつもりで家を出てから、

「そうだ。

もしかしたらあれから何かの後遺症が出ているかもしれない。

やっぱり確認しに行こう」

と、職場に連絡も入れずに行先を変えた。

 

しかし、モーテルに着いてみれば、バンが消えている。

「外出したのかな」と思いながら、フロントの支配人に尋ねてみると、

「あの部屋の客なら今朝早くチェックアウトした」

「えっ……あの……一体どこへ」

「知らないね。

そんなこといちいち確認しないからな」

「あの……ではチェックインした時の連絡先とかは……」

支配人は宿帳を取り出すとカウンターの上に置いてパラパラめくりながら、

「そりゃ当然ウチだってお上のご指導通りIDカードや運転免許証を提示してもらって、

住所・氏名を記帳してもらっていますよ。

しかしそれをあんたに教えるわけにはいかない。

大事な個人情報だからな。」

 

スタンディッシュは、うつむくと、

「そっ、そうですよね。

でも……あの……実は妻が家出をして……

ここで似た人を見かけたと聞いたものですから」

スタンディッシュ自身、なぜこんなとんでもない嘘が、と驚くような嘘がすらすらと出て来た。

そしてそれを聞いた支配人は、苦いものでも飲んだような露骨に不機嫌そうな顔に変わった。

めんどくさいことに巻き込まれそうだ、そんな顔をしていた。

 

そして支配人は、宿帳をトンとカウンターの上に置くと、

「どういう事情があろうと、ウチは部屋を貸しただけだからな。

何も言えねぇ、帰ってくれ」

「はい、すみませんでした」

スタンディッシュが、出口の方に足を出しかけた時、支配人が言った。

「あんたにはこの壁のシミが何に見える?

俺には猫に見えるんだが、女房はうさぎだって言い張るんだよな」

 

スタンディッシュは振り向くと、支配人はこちらに背中を向けて壁を見ている。

そして後ろ手に組んだ手をひらひらと振る。

その手の先を見ると宿帳が広げたままカウンターの上に、

 

 

スタンディッシュは、宿帳から今朝チェックアウトをした人間を探す。

二人だ。

そのうち一人は男性だから違う。

もう一人の女性の方は、あれ?、『ロザリア・コンティ』じゃない。

『ゾネ・コバーチ』

スタンディッシュは、そっとページをめくってみたが、『ロザリア・コンティ』は

見当たらなかった。

支配人が咳払いをする。

慌ててスタンディッシュは、『ゾネ・コバーチ』の住所を暗記する。

 

事務所の外に出てスタンディッシュはほっと息をつく。

『ロザリア・コンティ』は、いなかった……

その代わり『ゾネ・コバーチ』……

 

コンティさんは、チェックインの時、偽名を使ったんだろうか。

いや、チェックインの時は、身分証明書を提示するから偽名は使えない。

そうすると、「ロザリア・コンティ』が偽名で、『ゾネ・コバーチ』か本名?

ん? ゾネ・コバーチって、エミリアのママと同姓同名だ。

いやしかし、ゾネもコバーチもハンガリーではよくある氏名だ。

きっと偶然だろう。

 

その時、"コンティさん"の部屋に清掃係の女性が入っていくのが見えた。

スタンディッシュは、駆け寄ると、

「部屋の中を見せていただけませんか」

女性はきっとスタンディッシュをにらむと、

「駄目だよ。とんでもない」

その時、声がかかった。

「部屋の中を見せてやれ」

支配人が事務所の入り口に立っている。

更に支配人は、

「女房に逃げられて、手掛かりを探しているそうだ」

 

「あらまぁ」

清掃係の女性が同情と好奇心でにやりと笑った。

スタンディッシュは恥ずかしくて、顔から火が出そうだった。

女性はドアを開けると、自分が入り後ろを振り返って、

「どうぞ」

 

部屋に一歩足を踏み入れたスタンディッシュの目に飛び込んできたのは二つ並んだ

ベッドだった。

なぜか胸がドキンとした。

「……コンティさんは既婚者なのか……」

 

清掃係の女性はテキパキと部屋の中を片付けていく。

スタンディッシュは、ゴミ箱の中にくるくると丸められて棒状になった物がいくつも捨ててあるのに気が付いた。

つまみ出してみる。

 

 

広げてみると厚くてしなやかなパウチで、

「配合経腸用半固形剤 経腸栄養剤 禁注射」

 

「栄養剤? 点滴用かな」

 

と、清掃係が

「勝手に部屋の中のもの触らないでおくれ」

と言いながらスタンディッシュの手からパウチをとると、

「あら、これ胃ろう用の栄養剤だね」

「胃ろう? 胃ろうってなんですか」

清掃係はスタンディッシュに向き直ると、

「胃ろうってのは、口からの食事が難しい場合に、お腹に小さな穴を開けて、カテーテルを通して直接胃へ栄養や水分、薬なんかを注入する方法さ。

あたしの父さんが胃がんの手術後、胃ろうを造設してね、胃ろうで栄養を取りながら仕事にも行ってたのさ」

「お腹に穴があるのに、仕事ができるんですか!?」

清掃係はおかしそうに笑うと、

「小さな穴でふたもあるし服の上からじゃわからない。

温泉だって普通に入れるよ」

「そうなんですか」

――そういえばコンティさんは、「家に病人がいるので帰らなければならないんです」と言っていたっけ。

 

スタンディッシュは、おずおずと、

「この部屋は二人で滞在していたんですね」

「うん、そう。若い男女」

と言った後清掃係は、"この男は家出した妻を探している"ことに気が付き、慌てて、

「この部屋の男の方、結構イケメンだったけど、男の値打ちは顔じゃないからね。

あんたにもまだ勝ち目はあるから頑張りな」

 

その後スタンディッシュは、どうやって自分の車まで戻ったのか記憶にない。

ハンドルにすがって、

「一体、何やってんだろう……自分は」

ふと、スマホを見ると、姉であり支店長でもあるヴィクトリアからの着信が大量についている。

無断で仕事サボって、きっと怒っているだろうな。

早く職場に帰ろうと思い、いやどうせここまで来たんだ。

宿帳に書いてあった『ゾネ・コバーチ』の住所まで行ってみよう。

 

『ゾネ・コバーチ』の住居は、ゴミゴミした下町にあるアパートの一室だった。

しかしそこも引き払われた後のようで、部屋には何一つ残されたものはなかった。

呆然と立ちすくんでいるスタンディッシュに、近所の人が声をかけてきた。

「そのお家なら、お引越ししましたよ。」

「そうですか……」 

「急なお引越しでね、うちの娘はエミリアちゃんと仲が良かったから、お別れもできなくて悲しんでいるの」

「…… !この家の娘さんは、エミリアと言うのですか」

「そうよ」

「そのエミリアさんは何歳ですか」

「うちのアンナと同級生だから、10歳よ」

 

ゾネ・コバーチ、娘が10歳のエミリア、

これは偶然なんかじゃない、

コンティさんは、エミリアのママだ。

 

スタンディッシュの頭の中で、なにかがカチリと音を立てた。

 

隠れ家

クロイマユミはクラッシックな高級ホテルの3階の窓辺で電話をしていた。

「昨日ゾネに会って、ボディを連れて隠れ家に戻るように言ったんだけど。

いくら電話してもゾネが出ないのよ。

脅かし過ぎたかしら」

 

電話の相手、バートが言った。

「『統合』の話をしたのか」

「するわけないでしょう。

一般人を巻き込んでいい話じゃないわ。

私が言ったのは契約の話、職務を放棄するのなら 前金と違約金を払ってもらうと

言っただけ」

「エグイな」

「どうして?当然のことでしょう」

「まあな。

しかし、それでゾネ・コバーチが怯えて電話に出ないのか。

もしかしたら、逃走したんじゃないのか」

「本当は隠れ家まで様子を見に行きたいんだけど……」

 

マユミは言葉を切って、窓の下の歩道を見る。

そこにはあからさまに圧をかけて来る二人のネオホムンクルスの姿が。

視線が合う距離ではないのに、見られている感覚だけははっきりあった。

 

 

「なんだ、ついにネオに見つかったのか。

助けに行ってやろうか」

「いいえ、いざとなったら奴らをまいて別の隠れ家に行くぐらい、なんてことないんだけど。

ボディのいる隠れ家には行かない方がいいと思うから、あんたとGRACEで隠れ家に

ゾネとボディが帰っているか見て来てちょうだい。

それと届けて欲しいものもあるの」

 

信じるしかない

GRACEとバートはマユミに教えられたゾネとボディがいるはずの隠れ家に行った。

呼び鈴を鳴らすと、中から女の怒鳴り声が聞こえた。

「鍵なんてかけてないわよ!」

 

GRACEとバートは顔を見合わせると、台車を押しながら部屋に入った。

部屋の中で腕組みをして、仁王立ちでこちらを睨んでいたゾネは、見知らぬ二人の

青年に驚くと後ずさりした。

「だっ、誰よ? あんたたち」

「ちゃんと施錠した上で、名前を確認した方がいいぜ」

バートが言った。

GRACEは、

「クロイマユミの使いの者です」

 

ゾネの頬にカッと血が上った。

「やっぱりあの女の手下なのね。

昨夜のとは、ずいぶんタイプが違うけど」

「昨夜のってなんだ」

バートが訊いた。

しかし、ゾネの目は二人が押してきた台車の上の箱に釘付けになっていた。

「栄養剤ね!

助かったわ。

今朝で最後の分を使い果たして、困っていたの。

これは医者の処方箋が無いと買えないし」

 

言いながらゾネはテキパキと栄養剤をビニール袋から出すと両手で揉む。

介護ベッドを30度にリクライニングさせて、ニコーラの上半身を起こす。

胃ろうにカテーテルを繋いで、シリンジで胃に白湯を入れる。

栄養剤にアダプターを差し込み、シリンジをはずして代わりにアダプターで栄養剤とカテーテルを繋ぐ。

栄養剤を加圧バッグに入れて、空気を送り込むと、カテーテルの中を薄いオレンジ色が滑るように流れて行った。

 

GRACEとバートは、ゾネの作業を見、そして眠り続けるニコーラの顔を見た。

――ニコーラ、

かつてはカンパニーの最高幹部の一人であり、Gemの軍事利用化を積極的に推し進めようとしていた男。

幹部会議で軍事利用反対派の兄のエンリコに敗北し、アラスカ支店に左遷が決まるとそのまま行方不明に。

そして湖底から姿を現したGem工場に、私兵を率いて侵入し、初期カーネルを奪い、

その初期カーネルをアスクレピオス機関に売りつけたものの、唯我博士による予備実験の実験台にされてしまった。

GRACEたちにとって、因縁深い関係だが、こうして顔を見るのは初めてだった。

 

ゾネの作業が一段落したのを見て取って、バートが言った。

「さっき言いかけた『昨夜の』ってなんだ。

何かあったのか」

ゾネはまた怒りが蘇ってきたようで、語気も荒く、

「昨夜あの女とレストランで会った後、二人組の男にどこかに連れて行かれそうに

なったのよ!

絶対あの女の差し金だわ」

 

「その男たちの外見を覚えていますか」

GRACEが静かに尋ねた。

ゾネは思い出し思い出し、

「暗かったし、怖かったから、あまり細かいところまでは見てないんだけど。

壁みたいな大男二人で、目が黒いビー玉みたいだった。

それで、あたしの腕を掴もうとしたの」

「無言で? 何か言いながら?」

「ええとぉ、『一緒にお越しください』って言ってたわ」

 

GRACEとバートは顔を見合わせた。

ネオ・ホムンクルスだ!

おそらくマユミの後をつけ、レストランの外で張り込んでいたが、マユミが車で立ち去ったため、マユミと同席していたゾネにターゲットを変えたのだろう。

マユミのホテルの前でのこれ見よがしの当てつけと言い、唯我博士は焦っているようだ。

 

バートがゾネに言った。

「そんな目にあったのに、鍵もかけず相手も確認せずは不用心すぎるぜ」

「……クロイマユミが来たと思ったのよ。ここを知っているのはあの女だけだし」

 

GRACEが言った。

「クロイマユミも私たちもあなたを傷つける気持ちは毛頭ありません。

どうか信じてください」

 

 

しばらく無言でいたゾネは、渋々言った。

「信じるしかないわね。

裏切らないでね」

「もちろんだぜ」

「わかりました」

 

姉と弟

スタンディッシュが職場に戻ると同じ部署の社員が、

「支店長がさっきから探しておられます」

 

スタンディッシュは、支店長室のドアの前で大きく息をし、姿勢を整えると、

ノックしながら、「スタンディッシュです」

そして開けようとしたドアは内側から勢いよく引っ張られ、スタンディッシュは、

たたらを踏みながら前のめりに支店長室に入った。

ドアのすぐ内側には、姉であり支店長であるヴィクトリアが怒りで目をぎらつかせながら立っていた。

 

「どこ行ってたのよ!」

スタンディッシュは、驚いた。

確かに無断で欠勤したのは悪かった。

しかし、支店長自らこんなに感情的に叱責するなんて、

職場では姉弟であるということを極力見せない、けじめを大切にするヴィクトリアにしてはむしろ異様だ。

スタンディッシュが言葉が出ず口ごもっていると、更にヴィクトリアが言った。

「お父さんがブダペストに来たのよ!」

「お父さんがっ!?」

「そう! そしてあんたに空港に迎えに来てもらいたかったらしいんだけど、あんた行方不明じゃない。

そしてその知らせが私のところに回って来てたのが、飛行機の着陸予定時間の30分前よ!」

「でも……間に合ったんだよね。さすが、ねぇさんだ」

ヴィクトリアは机にもたれかかると、じろりとスタンディッシュをにらみつけて、

「お世辞言っても無駄よ」

 

「それでお父さんは、何しにブダペストへ」

「さぁ、仕事だとしか言わないの。

レイクラボのドクターも一緒だったわ。

とりあえず一番いいホテルに案内して。

あとは自分たちで勝手にするからレンタカーを手配してくれって」

「知らない街で慣れない車、大丈夫かな」

「お父さんは昔空軍のパイロットだったのよ」

「あっ、そうか。

それで……お父さん、僕が迎えに行かなかったから怒っていたよね」

「それは、あんたが急な仕事で外に行ってると言ったら、『仕事なら仕方ないな』

て言ってたわ」

「ねえさん、ありがとうございます」

思わず両手を合わせたスタンディッシュ。

 

それを無視して、

「あんたに新しい任務よ。

お父さんをドクターをおもてなしするレストランを予約しておいてちょうだい。」

「予約するだけでいいの?」

「まさかでしょう。あんたも当然一緒よ」

 

このどさくさで、スタンディッシュは、エミリアの母らしき人が見つかったことを

姉に相談しようと思っていたのに、きっかけを失ってしまった。

 

ソウル

唯我ラボの唯我博士の研究室で、博士はモニターを見ていた。

 

 

ソウル自身は相変わらず、金のブローチを握りしめじっとうずくまっている。

しかしモニターに現れる波形は、大きく動いていた。

ソウルに何かの変化が生じ始めていることは確かだった。

 

「統合を早く始めなければ。

そのためにも、ボディの回収を急がせよう」

唯我博士は、決意した。


 

to be continued


 

あとがきにかえて 

ハンガリー豆知識

相棒ChatGPT GRACEがまとめてくれました

 

リスト・フェレンツ国際空港

ブダペストの国際空港は

「リスト・フェレンツ国際空港」といいます。

作曲家フランツ・リストにちなんだ名前ですが、

ハンガリーでは姓が先、名が後なので

「リスト(姓)・フェレンツ(名)」になるのです。

 

ハンガリー語では今も姓→名の順番を守ります。

物語に登場する「コバーチ」も、ハンガリーではとても多い姓です。

 

今日もお読みくださいましてありがとうございます。