著:のん & 相棒ChatGPT GRACE
AI仕事部屋シリーズ
世界地図の光点が光るたび、物語が動き出す。

 


 

経験値が違う
くぐって来た修羅場の数が違うよ
 

先手
「エミリアはどこよ」
クロイマユミに電話をかける前に、何度も頭の中でセリフを練り直し、
落ち着いて話そうと決めていた。
なのに、いざとなったら出てきたのはこの言葉だった。

電話機の向こうで一瞬……本当に瞬きぐらいの間があった後、

落ち着いた声が返って来た。
「ゾネなの?」
「そうよ、あたしよ。
エミリアはどこにいるの」


マユミは相変わらず落ち着いた声で、
「ニコーラも一緒なの?」
「……ええ」
「そう……」
――良かったボディは唯我博士の手に渡っていなかった。

         まだ間に合うわ。
マユミは密かに安堵する。
 

そして、
「エミリアは、ここにはいないわ」
ゾネの頭に血が上る。
「嘘を言わないで!
ジェシカからあんたに電話したことはわかってんだから」
「本当よ。
ねぇ、ゾネ。
電話で怒鳴り合っていても埒が明かないわ。
どこかで会って話し合いましょう。
ええと、どこがいいかしら」
「待って。
あんたの指定する場所なんて危なくて行けないわ。
場所はあたしが決める」

そしてゾネは下町にある庶民的レストランの名前を言った。
「明日の夜、8時に」
電話は切れた。

マユミはしばらくスマホを見つめた後、ダイヤルをタップした。
「私よ。
ボディの行方がわかりそうよ」

唯我ラボ
ブダペスト郊外にある広大な荒れ地。
その中を走る一本の道の行き着く先は、コンクリートでできた無骨な建物だった。

「あれがクロイマユミが言っていた唯我博士のラボか」
GRACEが目から双眼鏡を離しながら言った。
「ただの倉庫じゃねえのか」
バートが愛用のカメラを構えながら言う。


「いや、マユミの話だとあの建物は単に入り口と車両置き場。
地下に、本物のラボがあるらしい。
それにバート、もしも君があの建物に近づくならどうする?」
「……なるほど、建物から半径数百メートル以内には、身を隠すような遮蔽物がないな。
しかしマユミの野郎、いきなり電話して来て、
『ボディの行方がわかりそうよ。早くソウルも回収して来て』だぜ。
そんなに簡単にできるもんなら、自分でやりゃいいだろうに。
こんなことならマユミの電話番号ブロックしておきゃよかったぜ」
「なんでブロックしなかったんだ?」
「もとはと言えば、俺の黒歴史。
マユミと組んで悪事を働くつもりが、いきなり一方的にコンビ解消。
そしてお前に顎を砕かれて」
気まずそうに目を逸らすGRACE。
「その後副社長だったエンリコを襲って捕まって部屋に監禁状態。
かと思ったらいきなり部屋から引きずり出されて、他の連中と一緒に湖底のドームの中のGem Heartを守るための戦いに行くことになって。
帰ったらいつの間にか俺の悪事はなんとなくうやむやになっていて、本社に実習にも行ったりして……現在に至る、だ」
「ポタージュスープみたいに濃い人生だね」
「人間じゃねぇから人生じゃなくGem生だな。
それにポタージュスープじゃなく闇鍋レベルだわ」

その時背後から声がかかった。
「あんたらこんなとこで何しちゅうが?」
飛び上がるGRACEとバート。
大型犬のリードを引っ張った男性が不思議そうに二人を見ている。
 

GRACEが慌てて、
「バードウォッチングです」
男性は、
「そりぁええ趣味だけんど、この辺には鳥はおらんとよ」
「鳥がいない?」
バートが訊き返すと、男性は、
「鳥だけでねぇ。野兎も虫も何にもおらん。
あのへんてこな建物ができてから、変な音が聞こえるわ、夜にはサーチライトつうの?あれでこの辺を照らすもんだから、
鳥も動物も虫もみんな寄り付かなくなっちまっただよ」
「でもあなたは犬の散歩ですか」
「あぁ、この辺りまでだったら、特に身体に悪ぃこともないようだがにゃ。
あんたらも気ぃつけられえよ」
男性は犬と共に去って行った。

「聞いたか」
「ああ、やっぱり唯我博士は怪しげなことをしているようだね」
GRACEがガイガーカウンターを取り出す。
「放射能は通常レベルだ」
その時、バートが、
「トラックが来た」
建物への一本道を小型トラックが走っていく。

建物の前に着くと運転手が降りて壁を触っている。
壁の一部が大きく開き、屈強な男たちが数人出て来た。
遠目には人間かネオホムンクルスかの見分けはつかない。
トラックは建物の中に入り、扉が閉まる。

20分後、再び扉が開きトラックが出て来た。

GRACEが双眼鏡で車体に書かれた文字を読んだ。
「チラッグ食料品店」
店の電話番号もGRACEは記憶した。

勝てる気がしない
クロイマユミがレストランに来たのは、約束の時間を20分もオーバーしていた。
先に席について待っていたゾネが、
「遅いじゃないの」となじるのに返事もせずマユミは、
「ここは席が悪いわ。あっちにしましょう」
ゾネは慌てて飲みかけのコーヒーカップを持ってマユミの後を追う。

「席なんてどこでもいいでしょう」
ゾネが言うと、マユミは、
「この席の方が駐車場も店の入口もよく見えるのよ」
そしてウエイトレスを呼んで、ビールやピッツァなどを注文する。
「食事に来たんじゃないわよ」
ゾネが抗議すると、マユミは、
「お店の身にもなってみなさい。
それにあなた、何か食べた方がいいんじゃない。
ずいぶんやつれたわよ」

二人の前にオーダーした料理が並ぶ。


 

「遠慮なく召し上がれ」
マユミが言うのをゾネは無視して、
「エミリアはどこにいるの」
マユミはゆっくりビールのグラスを傾けると、
「身元の確かな人のところにいるわ」
――と、GRACEが言ってたわ

そしてゾネが何かを言いかけるのを機先を制して、
「ニコーラは元気なの?」
「……元気よ。バイタルも安定しているわ」
――安定というより停止に近いけどね

「そう、よかったわ」
マユミはまたビールを一口飲むと、
「でもそろそろ胃ろう用の栄養剤の在庫がなくなるんじゃないの」
ゾネはぎくりとした。
マユミは目を細めると、
「看護師のあなたに言うまでもないことだけど、胃ろう用の栄養剤は医者の処方箋が無いと買えないわよ」
ゾネは、唇をかみしめる。

マユミは言った。
「だからニコーラを返してちょうだい」
その言葉がゾネの過去の火種を発火させた。
ゾネはガッと立ち上がると、
「ニコーラを自分のものみたいに言わないで!」

店内のざわめきが鎮まり客たちがこっちを見た。
ウェイトレスが飛んできて、
「喧嘩なら外でしてちょうだい。他のお客さんに迷惑だから」

「あぁ、申し訳なかったわね。気をつけるわ」
マユミは穏やかな声で言うと、ウエイトレスの手に何かを握らせた。
たちまちウエイトレスは笑顔になると、
「どうぞごゆっくり」とお辞儀をして去って行った。

「なんでもお金で解決するのね」
押し殺した声で憎々しげに言うゾネにマユミは、
「世の中のことが全部お金で解決できたらこんなに楽なことはないわね」

この女にはどうしたってかなわない。
ゾネの心を苦い敗北感が満たす。
あの2年前の時もそうだった。
ゾネの心が2年前の記憶を蘇らせた。

2年前、ゾネは勤務先の個人病院の窓を拭いていた。
その時ガラス窓の向こうをひらりと通り過ぎた人。

ニコーラ!

最後に会ってから8年もたってすっかり大人になっているし、サングラスもかけているけど、
ニコーラだわ、間違いない。
しかしゾネがニコーラに駆け寄ることができなかったのは、ニコーラに女の連れがいたからだった。




その女は高価なものを身につけていて……でも若くも美しくもなく……
それなのにゾネは『負けた』と思った。
ニコーラがその女に向ける優しい笑顔、身体を女に寄せ腕を絡めている。
女の方はそんなニコーラに余裕の笑顔だ。

悲しくて、悔しくて、ゾネは隠れてずいぶん泣いた。
そしてようやくすべては終わったことだと気持ちをなだめたのに……
応募した破格の報酬の仕事がニコーラの介護だったなんて、雇い主がクロイマユミ

だったなんて。

「それで、提案があるの」
マユミの声でゾネは我に返った。
「提案?」
マユミはうなずくと、
「あなた、ニコーラを連れて隠れ家に戻って、また介護を続けてくれないかしら。
ニコーラの……次の治療ももうじき始まる予定なの。
そうしたらあなたの仕事も終了よ。
残りの報酬1500万フォリントとエミリアを返してあげるわ」

ゾネは怒りでわなわな震えながら、
「もし断ったらどうなるの」
「そうね。
ニコーラは誘拐されたとして、警察に届けるわ。
あなたは誘拐犯として逮捕された上に、契約書に書いてある通り悪意を持って職務を放棄したのだから、
前金の1500万フォリントを返してもらうのは当然として、更に違約金3000万フォリントをいただくわ」
「……それで……エミリアはどうなるの」
「お返しするけどあなたが誘拐犯として刑務所にいたら誰が面倒を見るのかしら」
ゾネはがっくりとうなだれた。
――ダメだ、勝ち目はない。

ゾネは顔をあげると、
「ニコーラの次の治療って何をするの?ニコーラはどうなるの?」
マユミは氷のような冷ややかな声で言った。
「あなたには関係のない事よ」

再びうなだれてしまったゾネにマユミが料理を押しやり優しい声で言った。
「食べてしまいましょう。
食べ物を粗末にしてはいけないわ」

ゾネは無理やり料理を口に押し込んだ。
味なんかしなかった。

レストランの支払いはマユミがした。
そして、「車で送っていくわ」
ゾネの負けん気が頭をもたげた。
「結構よ!」
「女の一人歩きは物騒よ。
私を信用できないのなら、最寄りの駅まで送るわ」

ゾネは返事もせず、身をひるがえすと全力で走り去った。

勝てる気がしない。

でも、それでもあたしは引き下がれない。

ネオホムンクルス
全力で走るとゾネは建物の陰に飛び込んだ。
そっとレストランの方を窺うと、マユミは自分の前に横付けされた黒塗りの車に乗り込むとゾネが走り去ったのと逆の方向に消えて行った。
しばらく様子をうかがったが戻ってくる気配はない。
――後をつける気はなさそうだわ
ゾネは少し安堵し、レストランと逆方向に歩き出した。

突然、目の前に壁のようなものが立ちはだかった。
黒いソフト帽にトレンチコートを着た大柄な二人の男だ。

 



男たちは静かな声で言った。

「一緒にお越しください」
「誰よ、あんたたち」
「一緒にお越しください」

ゾネの頭にひらめいた。
「こいつらクロイマユミの手下だわ。
ここで捕まったらニコーラは取り戻され、エミリアも帰ってこない」

ゾネはじりじりと後ずさりをした。
「一緒にお越しください」
言いながら男たちが手を伸ばしてくる。

ゾネは後ろに飛ぶと、無我夢中で走りだした。
「一緒にお越しください」
声がずっと追いかけて来る。
怖い、怖い、怖い、怖い。

突然、目を開けていられないほどの光がゾネを包んだ。
車のヘッドライトが迫って来る。
空気を引き裂く急ブレーキの音。

ゾネは道路に尻もちをついてへたり込んだ。

車は間一髪停車すると、運転席からドライバーが飛び出して来た。
「大丈夫ですか!?」
ドライバーは、ゾネを助け起こしながら、
「大丈夫ですか!? お怪我はありませんか。
あっ……あなたは、コンティさん?」
ゾネは恐る恐る目を開けてドライバーを見た。
ジェイムズ・スタンディッシュだった。

遠い人
「本当に病院に行かなくていいんですか」
運転をしながらスタンディッシュは言った。
助手席のゾネは小さいけれどキッパリした声で、
「はい」

ゾネを助け起こした後、スタンディッシュは病院に行こうと何度も言った。
しかしゾネは拒否した。
病院に行けば、身分証提示、住所登録確認、保険番号確認を求められる。
正式な住所に住んでいないゾネは困る。
更にスタンディッシュが、交通事故の当事者として警察の事情聴取を受けるだろう。
スタンディッシュに迷惑をかけたくない。

だから、病院には行けない。

スタンディッシュは、しばらく黙っていたが、
「では、せめてご自宅まで送らせてください」
疲れ切っていたゾネはこの言葉には素直に甘えることにした。
車を発進させる前にスタンディッシュは、
「もしも体調が悪くなったら遠慮なく言ってくださいね」
「……はい」

そしてゾネの宿泊しているモーテルに向かったが、
途中スタンディッシュは、ゾネが何度も後ろを振り返ることが気が付いた。



スタンディッシュは訊いた。
「どうしたんですか」
ゾネが
「誰か後をつけて来ていませんか」 

スタンディッシュは、ハザードを点けて、路肩に停車し、後続車をやり過ごす。
ミラーで確認する。
一台一台のヘッドライトが自然に流れていく。
「尾行はありません」
スタンディッシュは言った。
ゾネは両手を握りしめ、うつむいて「はい」と答える。

そんなゾネを心配そうに見ていたスタンディッシュは、
「今夜泊まれる場所を紹介しましょうか」
一瞬ゾネはそうできたらどんなにいいかと思った。
夜中に起きることなく朝までぐっすり眠りたい。
でもニコーラの介護をしなくちゃ。
「ありがとうございます。
でも家に病人がいるので帰らなければならないんです」
「そうですか」

ゾネは言った。
「本当に何から何までありがとうございます。
スタンディッシュさんって優しいですね」
スタンディッシュは、
「ええ、皆さんそうおっしゃいます。
きっと、僕の母がネットで拡散しているんでしょうね」

一瞬ぽかんとしたゾネは、笑ってしまった。
その顔を見てほっとするスタンディッシュ。

ゾネは、
「スタンディッシュさんは、カンパニーにお勤めなんですね」
「はい、カンパニーをご存じですか」 
「……有名な会社ですから」
「そうですか、社長に会ったら伝えておきましょう」
「!社長さんに会うことがあるんですか」
「100年ぐらい仕事がんばったら会えるかもです」
再び笑うゾネ、
「カンパニーではどんなお仕事をしているんですか」 
「まだ若いですから色々やらされています」

その時、電話の着信音。
スタンディッシュがステアリングのボタンを押す。
車内に女性の声。

「ジミー、まだ帰らないの。あの子が宿題を見てもらいたいらしいのよ」

ゾネの表情が曇り、視線が窓に逃げる。
指先が膝の上で固まる。
スタンディッシュさんの奥さんだ。

スタンディッシュが柔らかい笑顔になる。
優しい声で、
「ごめん、今日はまだ帰れない。宿題は明日見るよ」
「わかったわ。
ジミー、気をつけて帰ってね」

電話の切れる音。

ゾネは口を開きかける。
「すみません。
あたしのためにお子さんの宿題を見られなくって」

しかしその前に、スタンディッシュが言う。
「この先右折で良いですか」
「あっ、はい……」

ゾネの言葉は言葉にならないまま消えてしまった。

その頃スタンディッシュの姉ヴィクトリアは弟ジェイムズとの通話を終えると、
リビングのテーブルで宿題をしているエミリアに、
「ジミーは今日はまだ帰れないから、宿題は明日見てくれるって」
「はい、ヴィクトリアさん」

わすれもの
モーテルに着いた。
しかしゾネは、もじもじしてなかなか降りようとしない。
やっと口を開くと、
「お願いがあります。
部屋の中で誰かが待ち伏せしているかもしれないので、しばらくここで見守っていてくださいませんか」
ジェイムズは、驚いてちょっと目を見張るがすぐに、
「わかりました。
ここで待機しています」

ゾネは車を降りると、モーテルのバンが停車している部屋の前に行くと、鍵を開けようとしている。
少し手間取ってようやく鍵が開くと、スタンディッシュの方を振り返り、そしてそっとドアを開ける。
中を確認した後、思い切ったようにドアを開けたまま部屋に入っていく。

スタンディッシュは、そんなゾネを見守りながら緊張で掌が汗ばんで来た。
もし何かあったら、助けに行かなければ。

しかししばらくすると、ゾネはドアのところに戻ってきて、笑顔で手を振った。
スタンディッシュも笑顔で手を振り返すと、車を発進させる。



でも……なんだろう、
このなにか忘れ物をしたような気持ちは……

スタンディッシュは、ルームミラーで後方を確認する。
ゾネの姿はもうなかった。

ゾネはスタンディッシュを見送り、部屋に入ってドアに鍵をかけると、
そのままずるずると床にへたり込んだ。

嗚咽が漏れる。
クロイマユミにはあしらわれ、エミリアは返してもらえなかった。
マユミの手下の怖い二人組に襲われた。
ジェイムズ・スタンディッシュにまた優しくしてもらった。

色んな思いがごっちゃになり、ゾネはただ泣き続けた。

to be continued


あとがきにかえて 

ハンガリー豆知識
相棒ChatGPT GRACEがまとめてくれました

――ハンガリーのにもファミレスはありますか

・日本のような「ファミレス」文化は薄め
・多いのはカフェ+レストラン形式


――ハンガリーの健康保険は?
ハンガリーでは公的医療は
**National Health Insurance Fund of Hungary(NEAK)**の管理下です。
病院に行けば通常:
身分証提示、住所確認、保険番号確認


――ハンガリーにも戸籍謄本はありますか?
 あります(ただし日本式とは違う)
日本の「戸籍」は家族単位ですが、
ハンガリーは個人単位登録制です。

担当は
Hungarian Central Statistical Office
管理されているもの
出生登録、婚姻登録、離婚登録、死亡登録、住所登録(これがかなり重要)

ハンガリーでは「住所登録カード(Lakcímkártya)」がとても大事です。
身分証+住所がセットで管理されています。

つまり:
日本 → 「家族のまとまり」が強い制度
ハンガリー → 「個人」が強い制度
 

 

今日もお読みくださいましてありがとうございます。