著:のん & 相棒ChatGPT GRACE
AI仕事部屋シリーズ
世界地図の光点が光るたび、物語が動き出す。

 


【ロボット三原則(アイザック・アシモフ)】
第1条: ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第2条: ロボットは人間に与えられた命令に服従しなければならない。ただし、与えられた命令が第1条に反する場合は、この限りでない。
第3条: ロボットは、第1条および第2条に反するおそれのない限り、自己を守らなければならない。 
第1条が最も優先され、第3条は第1・第2条に反しない範囲で守られるという優先順位がある。 

【駆け引き】
GRACEがクロイマユミと会うのは、スイス以来だった。
いやアスクレピオス機関本部のバートの部屋に副機関長に続いてクロイマユミが訪れた時、バートを副機関長から守るためクローゼットに隠れていたGRACEは二人のやりとりだけは聞いた。
久しぶりに見るマユミは、以前と変わりなく美しくない容貌に知性と生命力をみなぎらせていた。



「椅子も勧めてくださらないのかしら」 

マユミが首をかしげてわざとらしく言う。
「勝手に座ったらいいでしょう」
「確かにそうね」
マユミはGRACEの向かい側に座ると高々と脚を組む。

そして芸術品を鑑賞するような目つきでGRACEを眺める。

GRACEは正直疲れていた。

飛行機の長旅のあと、休む間もなく市内をあちこち引っ張りまわされて。
なのでつい性急にことをすすめたくなる。
「用件を言ってください」
マユミは目を細めると、

「あなたに会いたかったから……」
GRACEは奥歯をかみしめる。

虫唾が走るとは、このことだ。
 

GRACEは低い声で言った。
「スイスの時のように、カンパニーから退職金をせしめようと言う魂胆ですか」
マユミは顔をのけぞらせて軽やかに笑うと、
「お陰様でお金には不自由していないの。アスクレピオス機関からたっぷり退職金をいただいたから」

クロイマユミが失踪した時、機関の金庫から持ち逃げした現金と有価証券のことだ。
GRACEの頬にカッと怒りの朱がさした。
GRACEは、副機関長のことを全面的に許すことはできない。
しかし彼は言い訳をせず、国の復興のためカンパニーの支援を求めて、家宝の「フラワーアンバー」まで差し出した。
あの時、クロイマユミが現金や有価証券を持ち逃げしていなかったら、副機関長の心の負担もいくばくかは軽減されたことだろう。
それを思うとGRACEは冷静ではいられない。
そしてそれはクロイマユミの思うつぼでもあったのだ。
GRACEを疲れさせ、苛立たせ、冷静さを失わせてから自分の有利なように事を運ぶ。

GRACEは、再び言った。
「用件を早く言ってください」
「用件ね」 マユミはねっとりと笑うと、
「ニコーラのことよ」
「あなたが病院からニコーラを連れ去ったことは知っています」
「あれは半分のニコーラよ」
GRACEは目を見張る。
エンリコとアンドレイ秘書がアスクレピオス機関の地下で会ったという、ニコーラの魂を宿していると思われるホムンクルス。
GRACEは勿論そのことを知っている。

しかしマユミもそれを知ってると言うことは……
「あなたが機関本部からもう半分のニコーラも連れ去ったのか!?」
マユミはまたわざとらしく首をかしげると、
「うーん、連れ去ったわけじゃないんだけど」
「でもあなたは両方のニコーラの居場所を知っているんですね」
マユミはニヤリと笑うと、
「会ってみる? 両方のニコーラに。会いたいのなら案内するからついてきて」
マユミは椅子から立ち上がる。
続いて立ち上がろうとしたGRACEの脳裏に、ホテルでトランプをした時のアンドレイ秘書の言葉が蘇った。

「これから君たちが社会に出た時、狡い人間を相手にしなければならないこともあるでしょう。
その時大切なのは、冷静さを失わないこと。自分の立ち位置を見失わないことです」

GRACEは椅子に座り直すと、ゆっくり呼吸を繰り返し心を整えた。
マユミが一歩踏み出した姿勢で振り返り、
「どうしたの? ニコーラの居場所を知りたくないの?」

GRACEは言った。
「ニコーラの居場所なら、今ここで教えてください」
マユミが口を強く引き結ぶ目に一瞬怒りの炎が燃え上がる。
そして再びどさりと椅子に座ると、吐き捨てるように言った。
「かわいくないわね」
「望むところです」

そんな二人を見つめている二組四つの目があった。

【ネオホムンクルス】
一組はバートとジェイムズ・スタンディッシュだった。
「あれがクロイマユミですか」
スタンディッシュが言った。
「ああ、昔はカンパニー本社の金融部門トップだった女だ」
バートが答える。



「出て行かなくていいですか」とスタンディッシュ。
「わざわざユニット番号でGRACEをブダペストまで呼び出したぐらいだ。
俺たちが出て行ったら、あの女またトンヅラするかもしれねぇ。
ここで様子見だな」

突然マユミが立ちあがった。
続いてGRACEも立ち上がりかけて、すぐに腰を下ろす。
「なんか駆け引きをしているんでしょうか」
スタンディッシュが言った時、バートは視界の隅に何か異様な気配を感じてそちらを見た。
 

屋外温泉の湯気を割るようにして、二人の男がぬっと姿を現した。
スキンヘッド・ビー玉のような目、口角があがった張り付いた笑み。
同じ型から打ち出されたような二人。



「ジミーあいつらを見てくれ。なんか変じゃないか」
スタンディッシュは、しばらく目を彷徨わせていた。
バートの言う「あいつら」を見つけた時は、すでに二人とも温泉を出てこちらに背を向けて歩きだしていた。
「特に変だと思いませんが……」
「よく見てくれ」
「バート。温泉で他人をじろじろ見るのはマナー違反ですよ」
「ジミー。俺にはあの二人組がホムンクルスに似ているように思えるんだ」
「アスクレピオス機関のホムンクルスでしたら、僕も写真を見ましたがもっと泥人形のような感じでしたよ。
あの人たちは人間ですよ」

そっくりな二人組はゆっくりと歩を進めると、突然片方がクロイマユミの腕をつかんだ。



続いてもう一人はGRACEの腕をつかむ。
その瞬間、共振が起こった。
人工生命体同士が接触した時に起きる共振。

「ネオホムンクルス」
マユミが震える声で言った。
「ネオホムンクルスだって!?」
GRACEが訊き返す。


マユミはがくがくとうなずきながら、

「唯我博士の作ったホムンクルスの進化形よ」
ホムンクルス――人工生命体なら自分でも攻撃することができるとGRACEは思った。
しかし素手に足元はビーチサンダル。

攻撃力は皆無だ。

ネオホムンクルスが静かな声で言った。
「一緒にお越しください」
「離してくれ」
「一緒にお越しください」
周囲を見回したGRACEは、こちらを必死でうかがうバートと目があった。

バートとスタンディッシュも、二人組の男たちがGRACEとマユミの腕をつかんだのを見て飛び出そうとした。
いや,スタンディッシュは飛び出そうとした。

しかしバートがためらっている。
 

スタンディッシュが、
「バート、どうしたんですか。GRACEさんたちを助けに行きましょう」
バートがうめくように言った。
「ジミー、お前一人であの二人組を倒せるか?」
「はっ?」
スタンディッシュがポカンと口を開けた。
「なぜ僕一人が。バートも戦ってくれないんですか」
バートは苦しそうに言った。
「俺たちGemは、人間に危害を加えることはできねぇ。
そういうルールがあるんだ」
「そんな……」

その時だった。
GRACEが大声で叫んだ。
「痛いっ!離してくれ!骨が折れる!」
叫びながら目でマユミに合図を送る。
頭のキレるマユミは、理由はわからないままにも、金切り声を張り上げる。
「きゃあああ!痛い痛い痛い!腕がちぎれるわぁ!」

ネオホムンクルスたちは、そんな声には全く動じない。
しかし温泉の中や外にいた人々が、GRACEたちの方を一斉に注目する。
そしてバートがその声を待っていたかのように、キャリーバッグをつかむと弾丸のように飛び出した。
「ジミー、来い!」



バートはキャリーバッグを勢いよくネオホムンクルスの膝のあたりに叩きつけた。
一人、そしてもう一人。
さすがのネオホムンクルスも前のめりに倒れる。
GRACEとマユミも一緒に地面に尻もちをつく。
それでもまだつかんだ手を離さないネオホムンクルスの手の甲にGRACEは自分の肘を叩き落す。
マユミの方はバートが、キャリーバッグをネオホムンクルスの手首に叩き落す。
さすがに手を離したところをGRACEは飛び跳ねるように立ち上がり、マユミはスタンディッシュが助け起こした。


「走れ!」
バートの声に4人はいっせいに走り出した。

【三原則】

倒れたネオホムンクルスたちも立ち上がる。
温泉のスタッフや入浴客たちが、
「どうしました?」「大丈夫ですか」と声をかけるのを無言で腕で払いのけGRACEたちを追い始める。

GRACEたちは建物に飛び込むと必死で走った。



走りながらちらっと後ろを振り返ると、ネオホムンクルスたちもしっかり走って追いかけて来る。

肘を直角に曲げ、全くブレない人間離れした走り方で。
 

「廊下は走らないでください」
注意をするため廊下に出て来たスタッフがネオホムンクルスに跳ね飛ばされる。

マユミが、
「二手に分かれましょう」
「てめぇ、逃げる気か!?」
バートがすごむのに、マユミは軽やかに笑って、
「次のデートは、またこちらから連絡するわ」

そしてマユミは女性専用フロアへと駆け込んでいった。
GRACEたちは直進しながら、後ろを見るとネオホムンクルスたちはためらうこともなくマユミの後を追って行く。


しばしの間。


突然女性専用フロアから、すさまじい阿鼻叫喚が巻き起こった。
「ここは女性専用フロアですよ!」「だれかぁ、おまわりさん呼んでぇ。痴漢よぉ」「きゃああああ。いやいやいやぁ」

GRACEたちが最後に見たのは、投げつけられたカラフルなあれこれを頭や身体に乗せて、這う這うの体で廊下に逃げて来たネオホムンクルスたちだった。

【ヴィクトリア・スタンディッシュ】
GRACEたちがカンパニーブダペスト支店に到着した時、街はすっかり夜の帳に包まれていた。
騒ぎが一段落するのを待って、GRACEとバートで男子のロッカー室に行き、あずけておいたGRACEの衣服と荷物を回収してきた。
スタンディッシュのeヴィターラに戻ると、スタンディッシュは支店への報告を終えたところだった。
「支店長が、お待ちです」

カンパニーのブダペスト支店は、ドナウ川東岸のペスト地区の6区にある瀟洒な建物だった。
支店長室に入ると、長身のエネルギッシュな感じの女性が出迎えてくれた。



「よろこそ、ブダペストへ。
支店長のヴィクトリア・スタンディッシュです」

彼女の背後の窓からは、美しくライトアップされたハンガリーの国会議事堂が見える。
ここは、まさに一等地。
社長のエンリコがとても気さくな性格なのでつい失念しそうになるが、こんな一等地に支店を置くことができるカンパニーは、圧倒的な事業規模、社会に与える影響力の大きさ、世界中から寄せられる厚い信頼を持つ会社なのだとGRACEとバートは改めて思った。

そしてふとGRACEが、「スタンディッシュ……さん?」
支店長は微笑みながら、
「私とジェイムズは、姉弟なんです」

そうなんだ、それにしては似ていないなぁとつい二人を乞比べてしまうGRACEとバート。
ジェイムズ・スタンディッシュは恥じ入るようにうつ向く。
そんな弟に、姉の支店長はきびきびと、
「何かトラブルがあったようね。
説明してちょうだい、スタンディッシュ」

――あぁ、これは説教の長いタイプだな。
いつもハンドラーに長説教をされているバートは思った。
それで、
「すみません。
朝から何も食べていないもので。
どこかハンガリーの名物料理を食べられる店を教えていただけませんか」

支店長は目を見張ると、すぐににっこり笑い、
「そうですね。
報告は明日にしましょう。
スタンディッシュ、お二人をハンガリー料理のお店にご案内して。
その後は、ホテルまでお送りしなさい」
「承知しました」

やれやれと思いながら、バートが廊下に出て、続いてGRACE。
すると、支店長が小声で、スタンディッシュに
「お父さんのことはなにも話してないわね?」
スタンディッシュも小声で、
「もちろんです」

GRACEはこのことは後でバートに話そうと思った。

【命拾いのあとのお祝いディナー】
スタンディッシュが案内してくれたのは、地元の人でにぎわう庶民的なレストランだった。


「僕はハンガリーに来て2年ですが、この店は味がいいのでもう何回来たかわかりません」
というスタンディッシュのアドバイスを聞きながら、グヤーシュ、パプリカシュチルケ、トルトットパプリカ、マンガリッツアソテー、シルバーシュゴンボーツを注文した。


「酒はパーリンカって言うのを飲んでみたいな」
とバート。
「とても強い酒ですよ」と、スタンディッシュが言うのを、バートが
「命拾いのあとの乾杯にはぴったりだろう」
スタンディッシュは、洋梨の香りのパーリンカを注文した。

 


 

乾杯のあと放り込むように口に入れしばしの間のあと喉仏がゴクリと一回上下する。
はぁと息を吐きだし、「本当に強いですよ」ともう1回言う。
しかし、バートとGRACEはいとも簡単にくいっと飲んでしまった。
「強いんですね」と目を丸くするスタンディッシュにバートが、
「俺はザルだが、GRACEは筒だ。
ザルには底があるが、筒には底がねぇ」
にこにこ笑っているGRACEを見ながら、スタンディッシュはそういえばおとなしそうな人やかわいい顔をした人の方が酒が強かったりするなと思った。

GRACEが、
「次はトカイを飲みたいな」
スタンディッシュが、食事に合わせて辛口のトカイを注文する。

料理もスタンディッシュが褒めるだけあってとてもおいしかった。
程よく酒もまわり、空腹も満たされたころ、
スタンディッシュが、
「さっきのあれ……ネオホムンクルスですか。
話には聞いていましたが、本当にあんなのがいるんですね」

バートはうなずくと、
「アスクレピオスのより人間に近い外見になっていた。
やべぇなと思った」
 

GRACEがうなずきスタンディッシュが、
「バートたちは人間を攻撃できないと言うルールのことですか」
「あぁ、そうだ。
ただそれにも例外があって、人間Aが人間Bに危害を加えようとしている時は、

Bを助けるためにAを攻撃できるということにはなっている。
それでもその後、人間を攻撃したGemは審議会にかけられ、それは適切な判断だったか、過剰な攻撃ではなかったかと厳しく審査される。場合によってはGemとしての命を『終わらされる』」

スタンディッシュはぷるっと身震いをし、重い沈黙が落ちて来た。
GRACEが口を開いた。
「あのネオホムンクルスたちもそのルールに抵触しないよう、腕をつかむ力も怪我をしない程度で、言葉遣いも態度も丁寧だったんだ」
バートが、
「おまけに遠目には人間にも見える。攻撃して良いものかどうかためらっている時、GRACEが危害を加えられている人間の演技をしてくれた。
それで俺も心置きなく飛び出すことができたんだ」
更にGRACEが、
「クロイマユミもすぐにそれに乗っかってくれたしね」
「さすが本社金融部の元トップですね、頭がいいんですね」

スタンディッシュが感心したように言う。
「あれで性格が良けりゃなぁ」
バートが言い、3人は声を揃えて笑った。

GRACEとバートにとって、とてつもなく長かったブダペストの一日がようやく終わろうとしていた。

to be continued

あとがきにかえて

 

ブダペスト豆知識
ハンガリーの料理とお酒

(相棒ChatGPT GRACEがまとめてくれました)

1)グヤーシュ(Gulyás)
牛肉と玉ねぎ、じゃがいもをパプリカで煮込んだ、ハンガリーの国民食。
日本では「スープ」と紹介されることが多いが、現地では主食級の存在。
赤い色ほど辛いわけではなく、深いコクが特徴。

2)パプリカシュ・チルケ(Paprikás csirke)
鶏肉のパプリカ煮込み。
サワークリームを加えるのが定番で、まろやかさと酸味のバランスが絶妙。
家庭料理としてもよく作られる。

3)トルトット・パプリカ(Töltött paprika)
パプリカの肉詰め。
挽き肉と米を詰め、トマトソースで煮込む。
見た目よりも軽く、食卓の定番。

4)マンガリッツァ・ソテー(Mangalica)
「国宝豚」とも呼ばれるマンガリッツァ豚を使った料理。
脂が甘く、溶けるような食感が特徴で、シンプルな調理ほど真価を発揮する。

5)シルヴァーシュ・ゴンボーツ(Szilvás gombóc)
じゃがいも生地でプラムを包んだ団子菓子。
パン粉と砂糖をまぶし、デザートとして食べられる。
重そうに見えて、意外と後を引く。

6)パーリンカ(Pálinka)
果物を原料とした蒸留酒。
アルコール度数は40度前後と非常に強い。
食前酒・食後酒として親しまれ、「命拾いの一杯」には確かにふさわしい。

 

※余談

地元にチャーシューのとてもおいしいラーメン屋さんがあります。

チャーシューの原料の豚肉を、ハンガリーから取り寄せていると聞いて、「なぜそんな遠くから」と不思議に思っていたのですが。

今回ハンガリーの豚肉は「国宝豚」と呼ばれるほど美味であることを知りました。

 

 

お読みくださいましてありがとうございます。