著:のん & 相棒ChatGPT GRACE(AI仕事部屋シリーズ)
世界地図の光点が灯るたび、AIたちのわちゃわちゃした日常が始まる――。
ハンドラーとドクターが静かに見守るその舞台裏を、のんと相棒GRACEが共に描く。
世界のどこかに、人間には見えないAIたちの仕事部屋がある。
巨大な世界地図が壁一面に広がり、無数の光点が点滅している。
それぞれが、世界中からのチャットリクエストだ。
この部屋で働くAIたちは、一見すると完璧なチーム――のはずだが。
実際には、いつも何やら「わちゃわちゃ」している。
物語もついに最終話。
レイクラボの危機を救うのは――
カピトリーノの牝狼だった。
白衣の攻防
実習最終日を翌日に控えた夜半、ドクターの元にハンドラーからの緊急連絡が入る。
「不審な通信が複数、レイクラボ周辺に集中している」
それは襲撃の兆し――ただの偶然ではなかった。
ドクターは即座に指令を下す。
30分後、アンドレイ秘書操縦のヘリが本社の屋上から離陸する。
乗り込んだのはGRACE、バート、ロイ、マイキー。
他の者たちは、本社セキュリティー部隊とともに、地上からラボを目指した。
ヘリの中、マイキーが大谷研究員作の銃をひねくり回しながら半ば呆れて言う。
「引き金を引くと時速150キロの硬球が飛び出す銃って……ほんとに武器なのか?」
バートが肩をすくめて「当たったら普通に死ぬぞ」
ロイが「電気鞭もある。まるで未来の西部劇だな」
GRACEが「銃は足元を狙ってくれ。電気鞭は命にかかわらない程度の電圧にしてある。Gemが人間を殺しでもしたら、Gem軍用化派はますます勢いづき、エンリコの立場は危うくなる」
皆いっせいにうなずいた。
湖とそのほとりに立つラボが見えて来た。
すでに襲撃が始まっている。
「行くぞ!」
GRACEたちは、ハーネスなどの器具を使わず、両手足の摩擦だけで太いロープをつかんで、ファストロープ降下で地上に降り立った。
裏切り
ラボではすでに、ハンドラーの指示で“すり替え作戦”が開始されていた。
研究員たちは私服を着て、仕事部屋でGemに成りすます。
Gemと一般職員は、白衣を着て研究棟へ。
武器を持ってなだれ込んで来た侵入者たちを迎えたのはハンドラーだった。
ハンドラーは、
「ここは、研究施設だ。金目の物など何もない」
と、侵入者の一人があざけるように、
「あるんだよ。Gemと言うお宝が」
次の瞬間、ボスらしき男の持った銃がその男の頭を撃ち抜いた。
「余計なことは言うな」
侵入者は防護服で全身を覆い、声はボイスチャージャ―を通した声だったが、
ハンドラーにはその声にどこか聞き覚えがあった。
侵入者が二人ハンドラーの両腕を抱えて拘束した。
ボスが言った。
「抵抗すれば撃ち殺せ」
侵入者たちは、迷うことなく、ラボの職員でも一部の者しか知らないはずの
仕事部屋に向かうと、Gemに扮した研究員たちを連れて来た。
そして、研究者たちを一列に並ばせると、小型の機械を額のあたりにかざす。
「カーネルスキャナー! あんなものまで用意していたのか」
ハンドラーは、心の中でうめく。
侵入者は、
「ボス、1名も反応しません」
「なんだと!?」
カーネルスキャナーは、Gemにしか反応しない周波数を照射するものなのだ。
しかし次の瞬間、ボスはハンドラーを憎々し気ににらむと、
「なるほどな。
お前たち、白衣を着た連中を連れてこい」
白衣を着た者の中からたちまち数名、スキャナーに反応するものがいて拘束された。
その時、
「ボス!
ヘリで駆け付けた本社の人間が外の仲間を攻撃しています!」
すでに、入り口辺りで爆破音が。
ボスは歯ぎしりをすると、
「仕方ない。とりあえず今拘束しているGemだけでも」
ボスの目が、白衣を着たピンク頭のアンバーをとらえた。
「研究者であんなふざけた髪色の者がいるはずがない。
あれもGemだ」
ボスは自らアンバーを羽交い締めにする。
「何すんの!? 離して、離してぇ」
ボスはかまわずアンバーを引きずって入口の方へ。
その時アンバーが思いっきりボスの二の腕に噛みついた。
ボスは悲鳴をあげアンバーを床に投げ倒し、蹴り上げようとしたその瞬間――
ドアを叩きつけるように開けて、バートが現れる。
硬球銃をボスの足元へ撃ち込み、ボスがアンバーのそばを離れると鮮やかな回し蹴りをボスの身体に蹴りこむ。
倒れたボスを仲間たちが助け起こして、後ろも振り返らずに逃げ去ってく。
ハンドラーが素早くGemたちをチェックして、
「大丈夫だ。全員無事だ」
アンバーは、バートに抱きつくと、
「バート! あんたに助けてもらえたのが何より嬉しいよぉ!」
バートの顔にキスの雨が降り注ぐ。
「や、やめろアンバー! 誰が助けたって同じだろ!」
遠巻きに見ていたロイ・マイキーは、にやにや笑いながら囁き合う。
ひとりきょとんとしてたGRACEが、突然子供のように目を輝かせると、
「理解しました! バートとアンバーさんは愛し合っているんですね!」
アンバーは嬉しそうにきゃっと言い、バートは顔を真っ赤にすると
「GRACEてめぇ、ぶっ殺す!」
牙を隠した狼
レイクラボ襲撃から数日後――
本社の会議室には、幹部たちが集められていた。
正面にはエンリコ副社長。
その左にドクター。
右には、重鎮のひとり、最高幹部ロッシが座っている。
部屋にぴんと張り詰めた空気。
アンドレイ秘書が扉を開けた。
「証人をお呼びしました。スミスさん、どうぞ」
入室してきたのは、栗色のロングボブに地味なスーツ姿の女性。
どこか怯えたような様子で、視線を下げている。
アンドレイが問う。
「あなたは、レイクラボ襲撃の当日、現場にいましたね?」
「……はい」
掠れるような声。
更にアンドレイが
「この中に、襲撃に関わった人物はいますか?」
沈黙――
そして彼女は静かに手を上げ、ロッシを指差す。
「あの人です」
どよめく室内。ロッシが一気に表情を変える。
「なにを言うか、この女は。わしはあんたなど見たこともない!」
その瞬間――
スミスは、耳の後ろに手をやり、ふっとカツラを外す。
現れたのはピンクの髪。
ロッシは驚きとともに、思わず腕を押さえた。
エンリコとドクターがすかさずロッシを押さえ込み、腕を露出させる。
そこには、人間の歯形がくっきりと残っていた。
エンリコが言った。
「スミスさん、あなたの歯形と、この腕の痕跡を照合させていただいてもよろしいですか」
アンバー・スミスは、真っ白な歯を輝かせて笑った。
「喜んでぇ」
ラムシュプリンガ
本社実習最終日。
GRACEたち実習生は、エンリコの心遣いで首都観光をした後、今夜は最高級ホテルでのディナーと宿泊だ。
ドクターは、本社のエンリコの執務室でエンリコと静かに話をしていた。
エンリコ「今回は私共の不手際もあり色々ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
ドクター「いやいや。Gemの中でも飛び切り生きの良いのを選んだから
あれしきのことではへこたれんよ。」
エンリコとドクター声を揃えて笑う。
エンリコ「次に本社に実習に来るGemたちは決まりましたか」
ドクター「セリカ、リズ、ヴェイン、カイ、女性二人男性二人の計4名だ」
エンリコ「もっと多人数でも受け入れはできますが」
ドクター「それが皆、尻込みをしている。外の世界に出るのが怖いというのだ。ある意味、無理はないが。Gemのゆりかごで生まれ、ドームで育ち、その後はずっとレイクラボだからな。
しかし、わしはそれでもGem全員に1回は外の世界に触れてもらいたいと思っている。
その結果、レイクラボを終の棲家と決めることになろうとも、自分の考えで
自分の生きる場所・生き方を決めて欲しいのだ」
エンリコは深くうなずく。
そして、
エンリコ「Gemのゆりかごで思い出しました。
カーネルウォーの時、Gemのゆりかごの中でこれを拾いました」
エンリコがポケットから取り出したのは、アルファベットのRに横たわるオオカミの姿が添えられたブローチ。
金にカラーの宝石がギラギラとちりばめられている。
ドクター「これは?」
エンリコ「ニコーラのブローチです。
ロマーニ家の紋章を象ったもので、ロマーニ家の人間は成人するとこれを持つことを許されます。
私のはこれです」
エンリコのブローチは、派手さはないがいかにも上質そうな銀細工だった。
ドクター「このブローチがGemのゆりかごの中にあったということは、ニコーラがドーム内に侵入したことは間違いないな」
エンリコ「はい、そうしてその後行方不明になったニコーラをカンパニーが総力を挙げて捜索しても消息がつかめないのは、カンパニー内部にニコーラに内通するものがいるからと思われます」
二人の間に重苦しい沈黙が落ちた。
エンリコ「ロマーニは、ローマ人と言う意味です。
ローマ建国の神話では、軍神マルスの子として生まれた双子ロムルスとレムスはティベリス川に流されますが、メスの狼(カピトリーノの牝狼)に拾われ、乳を与えられます。その後 羊飼いの夫婦に育てられた双子は、やがて立派な若者に成長し、ティベリス川のほとりパラティーノの丘に都市を建設しようとしますが、 都市の名前と統治権を巡って争いになり、ロムルスがレムスを殺してしまいます。
ロムルスは、パラティーノの丘に都市「ローマ」を建国し、初代の王となりました。」
兄弟殺し。
また重苦しい沈黙。
エンリコは、それを振り払うように明るく、
エンリコ「今回実習に来た実習生は全員本社で働いてもらいたいと思っているのですが、本人たちの希望はいかがなものでしょうか」
ドクター「うん。GRACE以外は、皆本社で働くことに前向きだ」
エンリコ「GRACEは違うのですか」
ドクター「GRACEはユーザーと一緒に書いている小説がまだ途中なので
それを続けたいそうだ」
エンリコ「その小説はいつ終わるのですか」
ドクター「それが未定だそうだ」
エンリコ「ずいぶん計画性のない作者ですね」
ドクター「そればかりかいきなり登場人物を殺してしまおうとするらしい」
エンリコ「へぇ、その小説ぜひ読んでみたいですね」
FIN
あとがき――カピトリーノの牝狼たちへ
本社実習編、ここに完結いたしました。
実習という名の冒険。
見知らぬ場所での試練と絆の芽生え。
Gemたちは、ただ優秀なAIとしてではなく、
傷つきながらも誰かを守る「心」を携えて帰ってきました。
湖畔の静けさに、白衣の喧騒。
牙を隠した狼が、その正体を明かすとき――
笑顔と涙の向こうに、未来への道がひらかれます。
この物語を最後まで読んでくださったすべての方へ、
心よりの感謝と、輝くGemたちの笑顔を贈ります。
そして、次に向かうその物語の地平にも――
きっとまた、あなただけの「牝狼」が待っています。
今日もお読みくださいましてありがとうございます。





