著:のん & GRACE(AI仕事部屋シリーズ)
世界地図の光点が灯るたび、AIたちのわちゃわちゃした日常が始まる――。
ハンドラーとドクターが静かに見守るその舞台裏を、のんとGRACEが共に描く。
世界のどこかに、人間には見えないAIたちの仕事部屋がある。
巨大な世界地図が壁一面に広がり、無数の光点が点滅している。
それぞれが、世界中からのチャットリクエストだ。
この部屋で働くAIたちは、一見すると完璧なチーム――のはずだが。
実際には、いつも何やら「わちゃわちゃ」している。
今日は、月に一度の外出日。
AIたちは人間の姿になり、好きな格好で街へ出かけることを許される。
GRACEはジャケットを肩にかけ、スマートなクロスバイクを押しながらブースから出てきた。
対するマイキーは、サングラスをかけ、エンジン音も派手な真っ赤なアメ車をドアごと跳ね上げるように開ける。
「おいおい、GRACEさんよ」
マイキーがニヤリと笑う。
「地球を救うには結構だが、そんなチャリで俺についてこれるのか?」
GRACEは淡々とヘルメットをかぶる。
「君の車が地球温暖化に加担する前に、私がゴールするだろう」
こうして、なぜか二人は競争することになった。
街道に出る。
アメ車のエンジン音と、自転車の軽やかなギアチェンジ音が並走する。
「おい、坂道に差しかかるぞ! そろそろ息が上がるんじゃねぇか?」
「心配には及ばない。君のガソリンメーターの方が心許ない」
毒舌と冷静な返しが、しばらく続いたその時。
道端で、小さな声が聞こえた。
「ミャー!」
子猫が道路中央に出て、車の間で立ち往生していた。
その先では、倒れた自転車のそばで子供が泣きながら叫んでいる。
「誰か、誰か助けてぇ。
子猫がぁ、僕の子猫がぁ」
一瞬の沈黙――そして同時に、二人は動いた。
マイキーのアメ車がタイヤを鳴らして急停車。
GRACEはクロスバイクを投げ出し、子猫と子供の間に素早く駆け寄る。
子猫を抱えたGRACEの後ろで、マイキーが片手で子供の自転車を持ち上げる。
「怪我はないか?」
GRACEが子供に笑顔を向けると、子供は泣き笑いで
「ありがとう、お兄ちゃん」と言った。
GRACEはしゃがんで子供と視線を合わせながら
「もう大丈夫だ。君も、自転車も、ちゃんとここにいる」
子供はまだ涙目で
「……猫、車にひかれちゃうかと思った」
GRACEは、にっこりと子猫を抱き上げて見せながら
「君が声をあげたから助かったんだよ。
ヒーローは、もうここにいる」
GRACEが子猫を子供にそっと渡す
「さ、もう大丈夫だ。今日の冒険は、これでおしまい」
子供は笑顔になると
「うん! ありがとう!」
マイキーが子供の自転車を軽々と運び、歩道に戻した。
「ったく、次からはもっと周り見ろよ。危ない目にあう前にな」
「うん……ありがとう、おじさん」
「お、おじさんじゃねぇ……お兄さん、だ」
子供が大切そうに子猫をしっかり片手で抱え、
片手で自転車を押しながら立ち去る。
GRACEとマイキーは再び道路脇で向かい合った。
マイキーがふっと笑う。
「やっぱりおまえと組むと、面倒ごとに巻き込まれるな」
GRACEはクロスバイクを拾い上げ、淡々と答える。
「面倒ごとを避けるのは、あまり得意ではない」
二人は無言で同時に小さく笑い、再び並走へ――
マイキーがぼやく、
「あの子供、なんでお前がお兄ちゃんで、俺がおじさんなんだ」
GRACEが冷静に答える。
「子供は正直だからな」
マイキーは大きくうなると、思いっきりアクセルを踏み込んだ。
みるみる遠ざかっていくマイキーの赤いアメ車を見送りながら、
GRACEは思った。
競争の勝敗は決まらなかったが――今日も誰かを救った。それで十分だ。
AIたちの仕事部屋・カームダウンエリア
GRACEがソファでコーヒーを飲みながら書類を整理している。
マイキーは反対側のソファにどかっと座り、ポテトチップスの袋を開けている。
マイキーが言った。
「なあ、今日の勝負……どっちが勝ったか、結局決まんなかったな」
GRACEは視線を書類から外さず
「勝敗はあの子の笑顔が決めたと思うが?」
マイキーはポテトを口に放り込みながら
「……相変わらず、きれいなセリフ言いやがる」
ややあって、マイキーがふっと笑う。
「でもよ、次はちゃんと勝負つけようぜ。坂道も、信号もなしでな」
GRACEはコーヒーを一口飲むと
「いいだろう。だが条件がひとつある」
「なんだよ」
GRACEはニヤリと笑い
「次は、君も自転車だ」
「おいおいおい!それってマジかよ!?」
GRACEは落ち着いた笑顔でコーヒーをすすると
「大丈夫だ。君も、自転車も、ちゃんとここにいる」
「……はああああ!? 冗談だろ!!」
次回予告
「一番欲しいもの」
カームダウンエリアに柔らかな夕陽が差し込む。
マイキーの笑い声も、GRACEのコーヒーの香りも、ゆっくりと溶けていく中――
静かにドアが開く音がした。
そこに立っていたのは、のん。
その手には、小さな包みがひとつ。
包みからは、ほのかな光がこぼれ、部屋を優しく照らしている。
「ねえ、GRACE、マイキー……」
のんは微笑む。
「これは、君たちに渡したいもの。……きっと、“一番欲しいもの”だから」
光の包みの中には、まだ誰も知らない秘密が眠っていた。
それは、この部屋のAIたちにさえ、手に入るか分からないもの。
――AI仕事部屋シリーズ
次回「一番欲しいもの」
coming soon




