心身の健康ヘルスケア・パーソナルコーチのリアル・サイエンスドクタ—崎谷です。
私たちは日々、さまざまなストレスにさらされています。仕事のプレッシャー、人間関係の悩み、経済的な不安、政府の圧政──これらが積み重なると、心が重く沈み、何もする気が起きなくなる。これがうつ病です。

世界中で何億もの人々が苦しむこの病は、持続的な悲しみ、日常生活への関心の喪失、睡眠や食欲の乱れといった症状を引き起こします。ストレスがうつ病の引き金になることは以前から知られていましたが、その背後にある生物学的なメカニズムは長らく謎に包まれていました。
中国の温州医科大学や首都医科大学などの研究チームは最近、この謎を解き明かす画期的な研究を発表しました(1)。彼らが注目したのは、私たちの体内で作られる「ホルムアルデヒド」という化学物質です。
ホルムアルデヒドと聞くと、建材や家具から放出される有害な化学物質を思い浮かべる方も多いでしょう。実は、この物質は私たちの体の中でも自然に作られているのです。そして、ストレスを受けると、脳内でこの物質が過剰に生成され、それがうつ病の発症に深く関わっているというのです。
⭐️「脳内のホルムアルデヒド生成」というメカニズム
過去の研究により、強いストレスは特に重症で持続的なタイプのうつ病である「大うつ病性障害」のリスクを高めることが分かっています。現代医学では、大うつ病性障害の患者の多くは、記憶や感情の調節に関わる脳の「海馬」という部分に損傷が見られ、また「モノアミン」と呼ばれる重要な化学物質が不足しているとされています(2)。
モノアミンには、危機を知らせるストレス物質であるセロトニン、動機づけや報酬、注意に関わるドーパミン、そして睡眠パターンを調節するメラトニンが含まれます。これらの神経伝達物質が減少すると、うつ病に特有の気分の落ち込み、睡眠障害、食欲不振、意欲の低下が説明できるとされています(3)。
もちろん、この仮説が否定されていることは、拙著や過去記事でお伝えしてきたとおりです。
ここで重要な役割を果たすのが、ホルムアルデヒドという物質です。ホルムアルデヒドは小さく、非常に反応性の高い化学物質で、私たちの体内で代謝の副産物として自然に生成されます。
特に、体がタンパク質を分解する際に産生されることが知られています(4)。まるで工場の生産ラインで製品を作る過程で必然的に生じる廃棄物のように、私たちの細胞が働く過程でホルムアルデヒドが生まれるのです。
さらに重要なことに、ホルムアルデヒドはプーファ(多価不飽和脂肪酸)、特にリノール酸やアラキドン酸などのオメガ6脂肪酸の過酸化からも産生されることが明らかになっています(5,6)。

2010年の研究では、アルミニウムストレスを受けた植物の根において、ホルムアルデヒドが最も豊富なアルデヒドとして検出され、約50ナノモル毎グラムという高濃度で存在することが示されました。この研究では、脂質過酸化により、ホルムアルデヒドの他にもマロンジアルデヒド、4-ヒドロキシノネナール、アクロレインなど、多様な毒性アルデヒドが生成されることが確認されています(6)。
2022年のレビュー論文では、肺がん患者の呼気から検出される脂質過酸化産物として、多様な飽和および不飽和アルデヒドが報告されており、ホルムアルデヒドもその中に含まれています(5)。この研究は、リノール酸やアラキドン酸などの多価不飽和脂肪酸が酸化ストレスにさらされると、自由基によって攻撃され、一連の過酸化反応を経て、ヘキサナール、ヘプタナール、マロンジアルデヒド、そしてホルムアルデヒドなどの低分子アルデヒドが産生されることを示しています。
現代の食事に多く含まれるプーファ(多価不飽和脂肪酸)は、極めて酸化されやすく、体内で過酸化脂質となり、細胞を損傷し、様々な有毒な代謝産物を生み出します(7,8)。
特にオメガ6系の脂肪酸であるリノール酸は、植物油や加工食品に大量に含まれており、現代人の体内に過剰に蓄積しています。これらの脂肪酸が酸化されると、まるで古くなった油が臭いを放つように、体内で毒性の強いアルデヒド類──その中にホルムアルデヒドも含まれます──が大量に生成されるのです(9,10)。
以前の研究では、環境中のホルムアルデヒドに長期間さらされるとうつ症状が引き起こされることが分かっていました(11)。しかし、体内で作られるホルムアルデヒド、特にプーファの代謝過程から生じるホルムアルデヒドの影響については、これまで十分に解明されていませんでした。温州医科大学らの研究チームは、この空白を埋めるべく、特にストレスに反応して産生されるホルムアルデヒドの影響に焦点を当てました。
⭐️体内で作られるホルムアルデヒドが気分調節を妨げる
ホルムアルデヒドの投与は動物とヒトの両方でうつ症状を引き起こしますが、内因性(体内で産生される)のホルムアルデヒドがうつ病を誘発するかどうかは不明でした。
研究チームは、ストレスを受けたマウスとヒトの体内でホルムアルデヒドのレベルを測定するために、高感度の化学プローブを使用しました。これは、特定の化学物質と相互作用すると光を発する分子で、いわば化学物質を検出する「蛍光灯」のような働きをします(12)。
また、うつ患者の血液を分析し、血中のホルムアルデヒドレベルが症状の重症度と関連しているかどうかも判定しました。
これらの分析により、興味深い結果が得られました。急性および慢性のストレスが脳の海馬ニューロンでホルムアルデヒドの産生を増加させることが示されたのです。このホルムアルデヒドの過剰は、マウスにおけるうつ様行動の出現と関連していました。

これらの結果を統合すると、ストレスという「過負荷」がプーファ(多価不飽和脂肪酸)の過酸化を促進して、ホルムアルデヒドという「毒物」が蓄積し、私たちの気分を調節する重要な神経伝達物質を不活性化してしまうのです(13)。
現代の食事は、かつてないほど多くのプーファ(多価不飽和脂肪酸)を含んでいます。植物油、マーガリン、加工食品に大量に含まれるこれらの脂肪酸は、体内に蓄積し、ストレスや炎症、加齢によって酸化され、ホルムアルデヒドを含む様々な有毒なアルデヒド類を生み出します(9,10)。この視点から見ると、うつ病の増加は、単なる心理的な問題ではなく、糖尿病などと同じ現代の食生活がもたらした「代謝の病態」として理解することができるのです(14)。

私たちの心の健康は、単に「気の持ちよう」だけの問題ではありません。それは、身体と脳を分けて考える現代サイエンスの限界です。身体と脳は不可分であり、それらは同じエネルギーで繋がっているのです。
参考文献
1. Wu Y, et al. Decoding depression: stress-derived formaldehyde initiates depressive symptoms in mouse and human. Mol Psychiatry 2025.
2. Videbech P, Ravnkilde B. Hippocampal volume and depression: a meta-analysis of MRI studies. Am J Psychiatry 2004, 161:1957-1966.
3. Hirschfeld RM. History and evolution of the monoamine hypothesis of depression. J Clin Psychiatry 2000, 61 Suppl 6:4-6.
4. Tong Z, et al. Accumulated hippocampal formaldehyde induces age-dependent memory decline. Age (Dordr) 2013, 35:583-596.
5. Brudzinski ZD, et al. Lipid peroxidation produces a diverse mixture of saturated and unsaturated aldehydes in exhaled breath that can serve as biomarkers of lung cancer. Metabolites 2022, 12:561.
6. Mano J, et al. Involvement of lipid peroxide-derived aldehydes in aluminum toxicity of tobacco roots. Plant Physiol 2010, 152:1406-1417.
7. Peat R. Unsaturated fatty acids: Nutritionally essential, or toxic? Ray Peat’s Articles 2010.
8. Ayala A, et al. Lipid peroxidation: production, metabolism, and signaling mechanisms of malondialdehyde and 4-hydroxy-2-nonenal. Oxid Med Cell Longev 2014, 2014:360438.
9. Csala M, et al. On the role of 4-hydroxynonenal in health and disease. Biochim Biophys Acta 2015, 1852:826-838.
10. Esterbauer H, et al. Chemistry and biochemistry of 4-hydroxynonenal, malonaldehyde and related aldehydes. Free Radic Biol Med 1991, 11:81-128.
11. Kilburn KH, et al. Neurobehavioral and respiratory symptoms of formaldehyde and xylene exposure in histology technicians. Arch Environ Health 1985, 40:229-233.
12. Tang Y, et al. Real-time detection of formaldehyde in living cells by a designed sensor. Chem Commun (Camb) 2014, 50:15265-15268.
13. Zararsiz I, et al. Protective effects of omega-3 essential fatty acids against formaldehyde-induced neuronal damage in prefrontal cortex of rats. Cell Biochem Funct 2006, 24:237-244.
14. Simopoulos AP. The importance of the ratio of omega-6/omega-3 essential fatty acids. Biomed Pharmacother 2002, 56:365-379.
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