【ADHDな私について 子どもたちの思い出編】
文字がかけないHくんのこと②
作文の単元に入った日。
I先生は、真っ白な作文用紙を前に、
頭を抱えているHくんの横に
さりげなく座りました。
そうして、彼が書きたいと思っていることを
口頭で聞いていくところからスタート。
彼が話す、I先生がメモをする。
2人はこつこつとていねいにそれを
繰り返していきました。
I君は文字にするのは不得手だけれど、
彼の中には語られるべき
膨大で壮大なストーリーがある。
メモはどんどん増えていって、
そこから作文に入れたい内容、省く内容を
取捨選択し、清書していく。
その単元、最後の日。
Hくんはついに、原稿用紙数枚にわたる
大作を仕上げていました。
たぶん、それは彼が
これまでの人生で書いた文章の中で、
一番分量の多いものだったんじゃないかなと思います。
テーマは身近な生き物を観察して気づいたこと。
説明文の課題とは思えないほど、
ドラマチックなストーリー展開で、
情景が目に浮かぶような描写でした。
もしかしたら、そこはHくんらしく、
ちょっと脚色されたものだったのかもしれない。
だけど、I先生も私も、
それが真実かどうかは
重要でない気がしていました。
清書として提出された
その作文用紙に書かれた文字は、
決して整った美しいものではなかったけれど
Hくんのせいいっぱいのていねいさが
込められているのが一目でわかるものでした。
それはHくんにとってはとてつもなく大変な、
気の遠くなるような作業であったに違いありません。
それでも、彼はそれを「苦行」としてではなく、
ひとつの「挑戦」として、
生き生きと取り組んでいるように見えました。
毎時間、彼の中にあるエピソードに
ていねいに耳を傾け、伴走しながら
その続きを一読者として
楽しみにしてくださっていたI先生の存在が、
彼にとってのモチベーションに
なったのかもしれません。
単元最後の授業時間終了を
知らせるチャイムと号令のあと。
教室を出て職員室へ向かうI先生を
追いかけるように席を立ったH君は、
「I先生!」と先生を呼び止め、
「ありがとうございました!!」
と、深々と頭を下げていました。
お調子者で、いつもふざけているHくん。
本当に本当に、うれしかったんだと思います。
「苦手なことをやり遂げた」
ということよりもきっと、
自分を信じて最後まで、ていねいに楽しみながら
伴走してくれた大人の存在が。
もちろん、これで彼の文字を書くことへの
困難さが無くなった、というわけではありません。
だけど、I先生と作文を書いたこと、
きっと今でも覚えてるんじゃないかな。
I先生にお礼を伝えた、晴れやかなHくんの
満面の笑みが忘れられません。
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