俺様は熊五郎
K家のNと出会ってから俺様はそう呼ばれている。
体が大きい黒猫で、胸元に少し白い毛が有るから、ツキノワグマのようだとNが付けた。
俺様はかなり前から、この辺のノラ猫界を牛耳っている。
まあ、熊五郎親分ってとこかな。

今は、K家の庭で、俺様用の家も有るし、快適な毎日を過ごしている

昔は、空き家の縁の下や、物置の下なんかで、寝起きしていたなぁ。
それなりに、ご飯を出してくれたり、おやつを出してくれたりする家も有ったけど、何となくそれがノラ猫の生き方だと思って生きて来た。

時々、家猫と呼ばれている、家の中で生活している猫に遭うこともあったけど、窓越しだし、あいつらがどういう生活をしているのかは、俺様には分からない。なんてったって、透明の薄い氷のようなくせに、やたら頑丈な「ガラス」が、声まで遮断してしまうんだから。

ある時、快適な俺様の縄張りに、見た事がない奴が入ってきた。
俺様はすぐさま、追い出しに掛かった。
縄張りを荒らされちゃあ、親分として面目が立たないってもんだ。
奴は意外にも、俺様に戦いを挑んできた。
上等だぜ!
俺様は、手加減無しで取っ組み合いをして戦った。
奴も必死で応戦してきたが、俺様にかなう奴は居ない。

勝利を収めた俺様の鼻先を、奴は一目散に駆け出して逃げて行った。

へっ、一昨日来やがれっ!
俺様は、ついつい毒づいてしまった。
フン!まあまあ強かったけど、俺様に挑むなんて100年早い。

しかし、俺様はこの死闘で、大切な犬歯を1本折ってしまった。
チェッ!

まあ、折れてしまったものは仕方が無い。
人間が、俺様の折れた犬歯を治してくれるわけでもないし、いつものように自然治癒しかないな。
まあ、縄張りを守った俺様は、相変わらず毎日自由気ままに過ごしていた。

暫くして、折れた歯の根元がズキズキと痛んで来た。
でも、俺たちノラ猫は、どうにも出来ない。まさか、自分で医者に行くわけにもいかない。
おまけに、1日でも食べないと体力や抵抗力が落ちてしまう。
それ程、外の環境は辛いものなんだ。俺様はノラ猫だから、その運命に逆らえない。
それにしても、痛くて、飯が食えない…ヨダレまで出てきたな…患部が化膿して来たのかもしれない。

そうして、何日も痛みと戦いながら過ごしていた俺様は、いつも旨い飯を出してくれる家に行くための通り道でしかなかった、K家の庭で、偶然Nに出会った。
Nはこの家の住人で、俺様の顔をマジマジと見た。
そして、聞いてきた。
「口からヨダレが出ているけど、お腹空いているの?ちょっと待っていてね」

俺様は、歯が折れて痛いのに、こいつは何を間抜けな事を言っているんだと思ったが、Nは軟らかい飯を持って俺様の前に置いた。
良い匂いがするが、一口食べるごとに、折れた歯の根元がズキズキと痛んだ。
ヨダレで、ぐちゃぐゃに濡れた俺様の胸元を見ながらNは、また言った。

「どうしたら良いのかな?ボランティアさんに相談してみるね。そのヨダレは尋常じゃないよね」

俺様は、だからさっきから言っているだろうと言いたかったが、そこはぐっと堪えて、言葉をのみこんだ。


多国籍の犬猫な毎日(おティんクな気分で)-201202211111001.jpg