「ツキ」~4~


源蔵爺さんは家に帰ると、縁側の赤い座布団に座っているツキに話しかけた。

「ツキ~、婆さんは、少しの間帰って来られないからぁ~、爺ちゃんがマンマ運んでやるから、寂しくても我慢しろぉ~」

ツキは、源蔵爺さんの顔をじっと見て、2~3回瞬きをした。

「そうかぁ~。分かってくれたかぁ~。爺ちゃんも寂しいけど、一緒に婆さんを待っていようなぁ~」

ツキは「二ャ~」と小さく鳴いた。


数日後、源蔵爺さんは目を赤くして、ツキにご飯を運んで来た。

「ツキ、ばあさんがなぁ~、ばあさんがなぁ~」

ツキは、いつのまにか山から運んで来た土で汚れたお婆のちゃんちゃんこを赤い座布団の横において寝ていた。

源蔵爺さんは、そんなツキを見て、婆ちゃんが亡くなった事を話せなかった。


「ツキは人間の言葉が分かるからなぁ~。ツキ、マンマ食って元気出そうなぁ~」

源蔵爺さんの言葉に、ツキは顔を上げ、座蒲団の上から汚れたお婆のちゃんちゃんこの上に移動し、大きく伸びをして、また丸くなって寝てしまった。


翌日、お婆のお葬式が済み、村の墓地の隅に埋葬された。


その日から、ツキは以前の様に、毎日々畑や山に通った。

ツキを見ながら、源蔵爺さんは、まるでお婆が一緒にいるかのよう見えて、涙が止まらなかった。

雨の日以外は、毎日々、ツキは畑や山に通った。

ツキの黒々としていた毛には、白いものが目立ち始め,つやつやと濡れたように輝いていた背中もゴワゴワと固くなり、歩く速度も遅くなってきた。

それでも、ツキは毎日々、よろめきながらも婆ちゃんと通った畑や山に出かけていた。



「ツキ、お前さんも歳を取って来たなぁ~。爺ちゃんと同じように足腰も弱って来たんだなぁ~。ツキよぉ~、爺ちゃんは1つだけ、心配な事があるんだぁ~。ツキ爺ちゃんも年寄りになっているし、いつお迎えが来てもおかしくないがぁ~、爺ちゃんがツキより先に逝っちまったら、そう思うと爺ちゃんは眠れん位心配なんだぁ~」


ツキは相変わらず、よろめきながらも畑や山に通い、夜には赤い座蒲団で丸くなって眠る毎日を過ごしている


源蔵爺さんは、ツキが心配で、毎日自分の畑仕事の前に、一緒に畑や山に出かけるようになった。