「葡萄が目にしみる」。



この作品を読んでいる間、私は常に「あの頃」にいた気がする。

この主人公に自分を重ねて、何度も何度ま記憶を甦らせようとしていた。

それは、開けたいけど開けたくない箱のようなもので、何故か苦しかった。


私は決してこの主人公のようにとても惨めな気持ちや外に発信できない思いを抱えてフツフツとしていたわけではなかったと思う。

友達と楽しくやっていたし、決して地味な学校生活でもなかった。

しかし、いつも思っていた。


「・・・そこに行きさえすれば、素晴らしい未知のものにいくらでも出会えるような気がするのだ。(葡萄が目にしみる)」


次の新しい場所へ行けば、何かが変わる。

誰も私の知らない場所へ行きたい。

新しい場所に自分を置くことで、次のステップに進みたかったのだろう。


高校を卒業して地元を離れる時、全く悲しみは無かった。

ホームシックにもならず、ワクワクが止まらなかった。

しかし、過去を捨ててとかそんな冷たい逃げるような感情ではなく、私は常に違う日々を送りたかっただけだった。


ある意味、今の仕事は私にとても合っている。

広告モデルの仕事も表情レッスンの講師もイレギュラーで近い予定も遠い未来もはっきり分からない。

でもこれが性に合っていて、縛られているなんて全く感じていない。


この小説を読んで、私が思い出した「あの頃」。

それは、私にとってこの先の人生をどう生きていくかを迷う大切な時間だった。だから、あんなにもモヤモヤして、自分の気持ちに整理もつけれず、人間関係にも悩んだのだろう。


でも、主人公と同じように私なりに行動して、道を見つけていった。


結婚して8年が過ぎた。

広告モデルの仕事を続けながら、3年前に起業し、表情レッスンの講師も始めた。

環境や自身が思う、こうありたいこうなりたいも変わった。

そして今は、コロナ禍という想像もつかない状況の中で模索している。


自身の在り方や目標は常に変わっていく「新しい道」だ。

いつまでも探して見つけていくもの。


たまたま手にしたこの小説だったが、こんなにも私の心を掻き乱したのは、葛藤というきっかけが、今また新たな道を進んでいる中、

「あの頃」と重なって、目の前に現れたからではないだろうか。


なら私は、この主人公のように、また前に進みたい。

新たな道を探していきたい。