30半ばくらいから布団で寝ない暮らしが20年続いた。
布団がなかったわけではないが、寝床まで行くのが面倒だった・・と言うより、その気もないのに「コテ」・・といってしまうので、「さあ寝るか」と、あらためて布団へ行く機会がなかったのだ。
コタツの横に布団を敷いておいたが結果は同じで、目覚めれば1m横のコタツだった。
冬はコタツ、夏もコタツ布団のないコタツで寝ていたが、床は畳の上のコタツマットくらいで結構硬かった。
枕は座布団の二つ折りで十分間に合っていた。
深夜、限界が来れば、やりかけたまま場所を問わず瞬時に眠りについてしまう。
「寝よう」と思う時間がなければ、当然着替える時間もないから服のままが当たり前だ。
目覚めてたまに痛いこともあったが過ぎてしまえば美しく、起きてからの布団は必要ない。
居間のコタツは野人の仕事場でもあり、書き物などの仕事は深夜にやって、昼間の会社へは遊びに行っていたようなものだった。
誰よりも遅く出勤、誰よりも早く帰る月光仮面のようなサラリーマン生活が何年も続いた。
会社のデスクで本や雑誌は読んでも、書きものをしている姿を見た同僚がいないのも当然で
「野人は字が書けない」と思っていた。
会議にも資料はあまり持たずに出て、「特になし」・・と、ほとんど無口だったので
「野人は喋れない」と思っていた。
家で、一晩中無休で仕事していたことを知っているのは直属の部下だけだった。
信じ難いだろうからあえて言い訳も必要ない。
誰よりも結果を出して「七不思議」と言われたが、文明人とは程遠く就業規則も守らず、海と山に生きる野蛮人と思われていたのだからそれも仕方ない。
今は「書いて喋る」のが仕事のようなものだから、彼らから見れば「七不思議」は今も続いている。
会社を興して8年間は、倉庫を改造した事務所の一角にブロックを置いて6畳の畳を敷き、やはり服のまま床とコタツに寝ていた。
トイレは外で、当然風呂はなかったから、深夜スッポンポンで玄関に出て頭からバケツの水をかぶった。
たまに歩いて5分の銭湯にも行ったが、石鹸タオル着替類は持たず手ぶらで行って手ぶらで帰る、扇風機でだいたい乾くからそんなものはいらん。
書籍と衣類以外の荷物、布団などは今もマリンビレッジの倉庫に眠ったままだ。
布団どころかこれだけ何もなくても人は暮らしていける。
5年前、この事務所に越してからはいただきもののソファーや布団がある。
普通の文明生活をしてはいるが、大きな違いは、寝どこが床からソファーに変わったことくらいだな。
至近距離に敷きっ放しの「布団」への道は相変わらず遠い。
物は、あってもなくてもたいして困らないしそれほどこだわりもない。
思い通りに生きて行けることが人にとって一番幸せなことだ。
光と陰
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