こんにちは、閉め子です。
雷雨と聞いて覚悟を決めて家を出たのにもかかわらず、降ってもシトシト。
降るんやったらしっかり降らんかいっ!てな感じですかね。
何事も中途半端はいけません。
きっぱりとしなきゃ。
さて、Tさん、九十歳のおばあちゃん。
一年半前に、担当を替えられてから随分御無沙汰していたのだけれど、今の担当が急にお休みをとって、パニッた事務所からの依頼で伺った。
ワタシとTさんは大の仲良しで、なぜ電話番号を教えなかったのか、随分後悔していた。
だから、こんなイレギュラーなら、いつでもOK!
なんならレギュラーにしてほしいくらいだ。
交代してほしい爺婆はたくさんいる。
とはいうものの、一年半ぶりである。
覚えてくれているか、不安な気持ちマックスで玄関を開け、
「こんちは~! 閉め子ですよ! ご無沙汰してました~!」
とアッパーな感じで入っていくと、Tさん、右手にコンビニのビニール袋を握り締めて、
「ああ、やっと来てくれた。ずっと待ってたんやで。もう、これが気になって気になって。ちょっと、もう少し傍に来て。あんたどないしてたん?元気にしとったん?」
覚えてくれていたことに感動しながら近付くと、開いている方の左手で、ワタシの顔を撫でまわした。
ワタシが担当だった時から、Tさんの目はどんどん弱っていたが、今やほぼ全盲の様だった。
嬉しさと悲しさが綯い交ぜになった再開は、涙になって頬をつたった。
「なんで泣くのん。せっかく私が生きてるうちに会えたのに」
声を押し殺すのが辛かったが、なんどかしゃくりあげて、落ち着いた。
「もう、久し振りやのに泣かさんといてよ」
「勝手に泣いたんやんか。それより、ほら、前に約束してたやつ」
右手のビニール袋をワタシに差し出すTさん。
とても失礼な話だが、ワタシは「約束」を覚えていなかった。
「ごめん。何の約束してたっけ」
「あらら、仕事が忙し過ぎて呆けたんちゃう」
「い~だ!」
「ふふ、相変わらずで安心したわ。とにかくこの中身見てみ」
ワタシはビニール袋を受け取った。ずしりと重い。

これを見て、「約束」をはっきり思い出した。
Tさんの生家は、空襲で焼かれたと聞いた。
何もかもなくなった焼け跡から、なんでもいい、思い出になるものを、と探しまわっていたら、半分割れた甕の中から零れている小判を見つけたそうだ。
ワタシはその話を聞いた時、
「小判?!」
と大いに驚き、
「こんど見せて見せて」
とお願いした翌週に、突然、事務所の段取りで担当を替えられたのだった。
Tさんは、先に申し上げた通り、九十歳である。
もの凄い記憶力だ。
「今日は代打やろ?」
「うん」
「今度いつ来れるかわかれへんよって、これ持って帰って、一番下のお嬢ちゃんのおもちゃにでもしたげて」
ワタシの家族構成まで覚えている。
「そんなんあかんよ。ちゃんと見せてもらえたから約束は完了やんか」
「ええからええから。こんなもん持ってても、私には何の役にも立てへんよって」
「だめだめ。もらえない。う~ん、じゃあ、娘に見せるから写真に撮るね」
で、上の画像である。
ワタシは、ただただ、久方ぶりに会えることのみ喜んでいたのに、Tさんは、再開を手放しで喜んでくれた上に、ワタシとの些細な約束まで覚えてくれていて、只管感無量だった。
お仕事の時間が終わり、後ろ髪を引かれる思いで、
「今度、代打が必要だったら、ワタシを呼んでね」
と頼んだら、
「そんなん当たり前やんか」
と言われ、その場は堪えたが、表に出て、ヘルメットをかぶった途端、涙があふれ出した。
帰宅して、リュックの荷物を整理しようとひっくり返したら、きれいに折りたたまれた紙片が出てきた。
覚えがないので、「?」と開いてみると、一枚の寛永通宝が転がり落ちた。
紙片には、
「今度また会える様にお守りにしていて下さい」
と、文字がランダムに並んでいた。
目が見えないから、文字を整列させることが出来ないのだ。
ワタシの号泣を、jr達が不思議そうに見ていた。