Aさんは極度の弱視で、ほとんど目が見えない。
外出できないので、家にずっといる。
ワタシが行くと、声でわかるようで、
「また来てくれたん!」
と、身振り手振りで大喜びをしてくれ、すたたと電気のスイッチを入れてくれる。
あざやかだ。
「私には必要ないから」
と、独りきりの家の中は、さびしく光がさえぎられている。
「家の中が散らかっていると、つまづいたりしてあぶないから」
と自ら、すべて、ぞうきんがけをしているので、びかびかだ。
ワタシは、買いものと掃除、一時間半の枠で入っているが、はっきり言って掃除は必要ない。
軽く掃除機をかけるくらいだ。
「見守りも業務のうち」
と事務所に言われているものの、恐縮してしまう。
以前、目が見えていたころの趣味だった読書の歴史が、
大きな本棚に整然とあり、
ワタシは、その並んだたくさんのハードカバーの背表紙を見るたびに胸が痛くなるけれど、
当のAさんは極めて明るいおばあちゃんで、おまけに大のタイガースファンだから(毎試合タイガースのはっぴ着てラジオの前でメガホン振り回してるんだって!)、前日の試合結果で侃々諤々になるのが楽しい。
ワタシなんかとおしゃべりするのがそんなに楽しいならと、
業務は手早く片付け(決して手抜きはしないよ!プロだもん)、
残った時間はおしゃべりおしゃべり。
何かの拍子で手を握った時に
「ああ、人のぬくもりはええなあ」
と言ったひと言が忘れられず、それ以来、ワタシはAさんとおしゃべりをする時はいつも手を握っている。
人生の縮図のようなそのちいさな手は、失礼だけどかわいくて、
ワタシはAさんが大好きなのだ。