3月27日に、日本生命倫理学会「向精神薬の適正使用と生命倫理」が第5回の部会を開き、参加しました。

テーマは「デュアルオレキシン受容体拮抗薬(DORA)ってどうなの?

 オレキシン睡眠薬ははたして夢の新薬か?

話したのは以下のお二方。

①小田 陽彦(兵庫県立ひょうごこころの医療センター)

②鈴木映二(東北医科薬科大学精神科)

 

まず、会が述べている主旨は要約すると次のようなものです。

「この20数年間で、わが国ではベンゾジアゼピン受容体作動薬の依存性が徐々に臨床上の大きな課題として浮上してきた。そのため、依存性のない睡眠薬が待望され、こうした中、日本の製薬企業が世界に先駆けて新奇な作用機序を持つ画期的な睡眠薬として開発したのが、デュアルオレキシン受容体拮抗薬(DORA)である。

(注・DORAとは、脳の覚醒を促す物質「オレキシン」の働きをブロックし、自然な眠りを誘発する不眠症治療薬とされています)

依存形成が極めて少ない睡眠薬であるとして大きな期待が寄せられているが、DORAは新奇作用機序の医薬品であるため、さまざまな懸念もある。

現在日本では、4種類のオレキシン受容体拮抗薬が販売されている。

①スボレキサント(商品名ベルソムラ)(2014年11月)

②レンボレキサント(デエビゴ)(2020年7月)

③ダリドレキサント(クービビック)(2024年12月)

④ボルノレキサント(ボルズィ)(2025年11月)

 

特にレンボレキサント(デエビゴ)は市販開始から短期間で売り上げを大きく伸長し、現在、我が国の睡眠薬市場で、年余にわたってトップの売り上げとなっている。だが、これは裏を返せば、ベンゾジアゼピン系睡眠薬が依存性への懸念から処方しにくいことの反動で、依存形成が極めて少ないとされるDORAを投与することへの処方医側の心理的抵抗が乏しくなっている可能性(換言すれば、安易な処方)があるのではないかという疑問が生じる。また、DORAが新奇作用機序であることから、ベンゾジアゼピン系睡眠薬とは異なるDORA独特の副作用プロフィールを熟知することの必要性も浮上する。」

 

この主旨ですでにオレキシンに対する問題点など指摘されていますし、ベンゾとの関係などの分析も興味深いです。

なので、以降は登壇者が述べた話の中で、興味深いものを一つの情報として、箇条書きにして取り上げます。

 

小田陽彦さんの話

・不眠症は薬を使わないのが最善。使うとしたら、短期で。薬より生活習慣を見直すべき。

・高齢者の場合。

新しいベンゾの睡眠薬であるルネスタ(一般名エスゾピクロン・超短時間作用型)は断薬後も認知機能障害が残存する可能性がある。

ベンゾ系の睡眠薬はせん妄、転倒、骨折を起こしやすい。これはベンゾに限らずZ薬も同様である。

従って、65歳以上の人はベンゾは飲まないに越したことはない。

しかし、日本では、年齢が上がるほど、ベンゾ処方が増えている。

(小田氏提供の資料より。以下同様)

 

・ベンゾ処方に関しては2012年、2014年、2018年と処方を減らすため減算(3剤以上の処方が減算となる)という診療報酬改定を行ったが、現実にはベンゾ処方は減っていない。

 

・ベンゾ以外の睡眠薬として、2010年にメラトニン系の睡眠薬(ロゼレム(一般名:ラメルテオン)が発売されたが、患者の満足感はいまいちのようだ。乱用は少ない。

・一方で、オレキシン系の睡眠薬の爆増。

・オレキシン系の特徴として、せん妄は少ない。

・しかし、レンボレキサント(デエビゴ)に関しては、12カ月で服用をやめても、効果が残る。そうした薬を長期に処方することへのリスクを考える必要がある。骨折はリスクが高い。

・オレキシンの特に注意したい副作用

 睡眠時随伴症

 睡眠中に大声をあげる。歩き回る。食事をとる。自動車の運転など不適切な行動をとる。夢の内容が行動面に出てしまい起き上がって動き出す。悪夢にうなされる。

・ベンゾの処方は減ったが、睡眠薬の総量自体に変化はない。診療報酬改定の効果はほぼない。

・オレキシンは発売されて間がないため、長期服薬における未知の副作用もあり得る。

 

鈴木映二さんの話

・日本人は4人に1人が不眠症といわれている。(アメリカでは高齢者の57%が不眠症)

・睡眠障害を放置しておくと認知症になるリスクが高まる。(注・しかし、睡眠薬を長期に服用すると認知症のリスクが高まる。つまり、追いかけごっこだが、これについてはコメントはありませんでした)。

・薬物の有害性

 高い順から ヘロイン、コカイン・バルビツール・アルコール・ベンゾ・タバコ・LSD……

 (鈴木氏提供の資料より。以下同様)

 

・ベンゾ処方数の推移

 グラフで一目瞭然です。2000年は断トツの世界一位。2016年にはめでたく世界2位となりました。

 

 

 

・日本におけるベンゾの処方実態

 先ほども書きましたが、グラフにあるように、診療報酬改定以降、減算対象となる3剤処方は減っていますが、2剤処方は増え、結局、総量としての変化がありません。

 

 

・ベンゾをオレキシンに変更できるか?

 ジアゼパム換算で5㎎以下なら変えられる(かもしれない)。

・睡眠薬の実力

 プラセボ群でも64%の薬物反応が得られていた(という驚くべき研究結果がある)。

 

総括

・臨床の場において「ベンゾではない」が殺し文句になっているが、オレキシンにもリスクがあることを知る。今はオレキシンが評価され過ぎている。ベンゾを増やせないため、オレキシンをプラスで処方されることによって、結局多剤になっているケースもあるのではないか。

・新しい薬には未知の副作用の可能性があり、下手をすれば、おかしな交通事故等増えることも考えられる。

・睡眠薬は「鎮静」から生体リズムの改善(エピジェネティクス)、環境応答の調整(マイクロバイオーム)、情動・睡眠の統合へ(NPS系(診療看護師)へ)。

 

 以上が当日のお話でした。

 参考になる話もありました。医師が薬について勉強していることはたいへん心強く感じます。何も知らんまま処方している医師がほとんどですから。

 それにしても厚労省の「ベンゾ減」を目指した減算という小手先の措置がほとんど功を奏していないことを厚労省は知るべきでしょう。

 そしてプラセボの効果は想像以上でした。

(次へ続く)