「パワハラ、精神科受診、自殺」というワードで検索すると、多くのニュースがヒットします。

 つい最近も、朝日新聞(オンライン)にこんな記事が出ていました。

  コロナ検査で叱責された看護師が自殺 パワハラ訴え遺族が病院提訴

 

 コロナ下の2021年3月8日、呼吸器内科の看護師だった女性が、ちょっとした失敗(感染を広げるような行為)を行い、医師に怒鳴られる(人格否定を含む言葉)というパワハラを受けました。

 その後、(以下記事の引用)

「女性は3月11日に精神科を受診。15日以降は欠勤し、4月18日に自宅で命を絶った。」

 とあります。

 パワハラを受けた3日後に精神科を受診し、その後仕事を休み続けて、およそ1カ月後に自殺したということです。

 

 記事の内容は「パワハラはいかん!」という方向性に終始しており、コメントもすべてパワハラに関するものです。(パワハラは絶対にいけない、どんな状況でも言葉を選ぶべき、医師にもともとパワハラ体質があった等々、ごくごく常識的な意見がほとんど)。

 しかし、次の文章、あまりにさらっと書かれていて、読み飛ばしそうですが・・・

「女性は3月11日に精神科を受診。15日以降は欠勤し、4月18日に自宅で命を絶った。」

 これって、パワハラが原因で自殺をしたことの補強のつもりなのかもしれませんが、私には疑問が残りました。

「え? つらいから精神科を受診して、でも、自殺してしまったって、精神科はいったい何をしてくれたの?」

 これは実に素朴な疑問だと思いますが、その素朴な疑問を抱く人が(少なくとも記事を書いた記者やコメントを寄せた人たちの中に)まったくいないことに少々絶望的に気持ちになりました。

 根底には、うつ病の人の自殺は仕方がない、という考え方があるのでしょう。

 そこに「医療」はまったく顔を出しません。

 しかし、精神科を受診しているわけです。

 でも、その「医療」を問題視する人がいない、つまり、多くの人の中に、自殺したのはうつ病だから、という精神疾患に対するあきらめにも似た認識があるからでしょう。

 パワハラ→精神科受診→うつ病診断→自殺

 こうした流れはこの事例に限らず、多く見られます。

 もちろん自死の主原因はパワハラでしょう。

  だから、精神科を受診した。でも、自死してしまう。

 なら、精神医療は何のためにあるのでしょう。

 精神科を受診したから自殺した(薬の影響で)。

 これは言い過ぎかもしれません。

 多くの事例で、パワハラを受けた時点ですでにその人は心身ともに過労状態だったかもしれず、その他多くの問題が背景にあるでしょう。

 しかし、少なくとも薬が自殺念慮の背中を押した、という視点は必要ではないでしょうか。

 うつ病という診断で処方される抗うつ薬の添付文書を見てほしいです。副作用に「自殺」という単語が何度も何度も出てくる事実を。

 でも、そんなこと誰も知りません。抗うつ薬はうつ病を治す薬。それでも自死してしまったのは、薬では間に合わなかったくらい、その人のうつ病が重症だったと多くの人は受け止めているのでしょう。

 医療への根強い信頼(無防備な、あるいは無邪気な信頼)。

  これが精神科ではなく他科だったら、医療ミスを問われるかもしれません。

  精神科に医療ミスは存在しない。

  精神科は聖域になってしまいました。

 

 もちろん、こうした事件、裁判の背景には、「労働災害認定」ということがあります。

 これを認定してもらう基準の一つに「医師によりうつ病などの精神障害と診断されている」必要があります。

 その精神科が自殺の背中を押すような投薬を行っているなど、パワハラ裁判の成り行きから考えれば、決してプラスになる話ではありません。何とも痛し痒しの現実です。

 それにしても、精神科の診断がさまざまな場面で物を言うほど、世の中が精神科へ信頼を寄せているわけですから、こんな話、おそらく「裏を知ってる人」しか通用しない話なんでしょう。