先月、お茶の先生が東京にいる娘さんの家にひっそりと旅立たれたようです。
6月までとは聞いていましたが、旅立つ際にはもう一度お会いできるのではないかと、勝手に思っていた私。
いつの間にか先生の家の表札が削られ、電話も通じなくなっていたのでした。
ただ長男が合格した際、連絡先はいただいていたので、お中元を送ることにしました。
先生はフルーツがお好きだったので、ずっとお中元はフルーツの詰め合わせでしたが、今回は桃にしました。
そして昨日、先生からお礼の電話をいただきました。
「お引っ越しの日を伺っていなかったので、お見送りもできずお別れできなくて残念でした。」
というと、
「皆様それぞれにお忙しいですし、何度もお別れをいうのも、きりがないことですからね、ひっそりと立つのがいいと思ったのですよ。」
と言われ、そういう去り際すら先生の美学を感じ、かっこいいなぁと思いました。
先生は旦那様を早くに亡くされ、お子さん二人を連れてここで茶道教室を何十年もされていた方でした。大勢のお弟子さんたちに惜しまれ、見送られて去っていくようなことは、茶道という侘び寂びの世界からは遠いことなのでしょう。
庭には松の木やお茶に使う花々が植えられていて、日々それらのお手入れをされ、教室のある曜日には、朝から打ち水までされていたそうです。
いつ行っても木製の廊下は磨かれて艶々として、玄関には季節の花が一輪飾られていました。
あんなに愛情深く手入れした家から離れるのはさぞお辛かったのではないかなと思います。
「東京の生活はいかがですか?」
「こちらにきてちょうど一月ほどですからね、でもこちらは暑いし人が多すぎるので、家の中で本を読んだり、テレビを見たりして過ごしています。だけどそれだけでは身体が動かなくなるのでね、今日は午後からデイサービスの見学に行ってきますよ。今日行くところで3軒目なのだけど、東京は人の多さの割に狭いからねぇ。」
と話されていました。
お中元と一緒に、長男のことを書いた葉書を入れていたのを読まれた先生は、
「長男くんは弓道部に入ったのですってね。茶道に似たところがあるって言ってたってあなた書いてくださってたけど、私もそう思うのよ。矢を射るまでの所作の美しさも大事なのよね。」
「そうらしいですね!入って1か月くらいは、弓を持つことすら出来ないとか。長男は『弓道は部活というより修行』と言ってました🤭」
先生は笑って
「でも茶道も弓道も、一本自分の中に芯が通りますよね。長男くんがこの先、生きていく時にもきっと役に立つと思いますよ。」
とおっしゃってくださいました。
90歳を超えてもその声には気品と厳しさと温かさと‥。ありがとうございます😭
長男の強さと繊細さと素直さは先生に伸ばしていただきました。親の私も、先生とのお付き合いの中で学ぶことがとても多かったです。
私は先生に何もできませんが、せめて先生のこれからの東京での生活にたくさんの喜びに溢れていますようにと、祈ります。

