翠、下を向いたままの橙の顔をじっと見て。
そして今度は、テーブルに両手を着いて腰を上げ、
「…っと~~。」
橙の左から座り、橙の頭を体に引き寄せて。
「そっか、そっか。うんうん。そりゃ、泣きたいよね~~。」
橙の頭に。そして絃を見ながら…。
絃、困ったような顔で、けれども優しそうな顔で、
「……。」
数秒橙の体を抱きしめながら、
「遊馬君のおかあさん。遊馬君の事、とにかく心配なんだよ。いままでずっと、離れて暮らしてきて。そして遊馬君の顔…見れる。…と思ったら、脳梗塞。悲しすぎるよ。」
ひと呼吸置いて、
「身を切られる思い…だったんじゃないかな…。」
橙、まだ下を向いたままで、
「……。」
「でもさ。遊馬君の病室、凄いじゃん、あちらこちらに花ばっかり。お花だらけ。遊馬君、みんなの人気者なのかも…。おかあさん。ありがたいという気持ち、あると思うよ。」
少しだけ橙の頭が動く。
そして一瞬、翠がクスリと笑う。
「ふふ。それに、遊馬君…見舞いに来る人って、結構女性が多いんだって。おかあさん言ってた。」
橙、
「へっ…???」
「これ…、私の…勘…、なんだけど…。」
口を尖らせて翠。
橙、
「…ふん…???」
「おかあさん、ゆずに、やきもち妬いてる。」
「やきもち…???」
翠、そんな橙を見て首をコクリと。
「ゆず…。若いから…。そして、遊馬君に対して、一番、まっすぐだから。」
橙、翠の顔を見て、
「チーフ。」
翠、橙の頭をポンポンと叩いて、今度は座っている橙の体をまっすぐにさせて…。
立ち上がりながら、
「前ね、私、遊馬君のおかあさんから声、掛けられたの。ほら、みんなで遊馬君、お見舞い行ったとき、あったでしょ。」
窓に向かいながら…。
橙、
「うん。」
「あのとき、遊馬君のおかあさんから、私、病室の外で呼び止められた。」
橙、目をキョロキョロさせて、
「あっ。」
窓を開けて翠、
「わお、良い景色~~。ふ~~ん。へぇ~~。いいとこね~~ここ。」
橙、思わずにっこりと。
「…うん。」
絃も、
「へぇ~~。」
立ち上がり窓の方に。
「ふ~~ん、気持ちいい風。はは。」
翠。
絃、
「ほ~~んと~。良い景色…。眺め、いいじゃん。うんうん。」
橙、ベシャリと座っていたのが体育座りになって。
そして今度は、正座をして。
「あの時…。」
橙の方に振り返って翠、
「おかあさん、私に、こんな事、言った。あの子、どういう子なんです???やたら、巽に慣れ慣れしいですけど…。なんだか、図々しいですけど…。」
橙、そして絃、
「えっ…???」
「だから、私、おかあさんに、おかあさん、彼女は素敵な可愛い女性です。きっと、私たちの中で、一番遊馬君の事、心配してくれている人ですよ。大丈夫です。優しい子です。」
橙、そんな話を聞いて、
「チーフ…。」
「あの時…、私がそうは言っても、あんまり納得行かなかったみたいだけど…。」
絃、翠の顔を見ながら、
「……。」
「その内…、分かってくれるよ。」
そして、
「…って言うか~~。かかかか。ゆず~~。あんた、まだ…修業が足りん。恋愛の…。」
にっこりと。
橙、そんな翠の顔を見て、
「へっ…???」
「な~~んてね。かか。まっ、私も似たようなもんだけど…さ。」

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庄司紗千 花笠音頭
※ご本人の承認の下、紹介させて戴いております。