「ごめんなさい。また迷惑掛けちゃいました。謝ります。そして…、これ…、着替えて下さい。」
コーヒーで汚れてしまった健介のワイシャツを見て、また奈々子は、
「お願いします。これに着替えて下さい。」
雨に濡れて、びしょ濡れになっている女性が自分の目の前で、
汚れたワイシャツの代わりに棚から自分に合うワイシャツを取り出し、
差し出している。
健介は…、
「あのぉ…俺…。」
「ごめんなさい。謝ります。でも…、これ…お願いします。」
そのまま、立ち尽くす健介を、今度は奈々子、
「すみません、こっち…。」
そう言いながら、今度は健介の背中を右手で押しながら、
衣料品コーナーの試着室に。
「お願いします。ここで、着替えて下さい。お願いします。」
何度も頭を下げて、しかも、少し大きな声、きっぱりとした声で奈々子に言われ、
健介も目の遣り場に困り…。
「いや…俺…別にこんな事…。」
そう言いながらも周囲に目をやれば、
数名の客が自分たちの方に向いているのに気付いて…。
そして雨に濡れた黒縁のメガネ。
そして雨に濡れた少しボサボサのフィッシュボーンの髪…。
そして、真一文字に閉じた唇。
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