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出発前。

搭乗チケットを見て、わたしはびっくりした。

家を出る前に事前チェックインをしようとして、結局失敗したのだが、その時に選んでた窓際の席じゃないですか!

事前チェックインに失敗したわたしは、座席については完全にあきらめていた…というより、座席の希望なんかすっかり忘れていたのに。

なんだか、見えない味方がついてるみたいな気持ちで嬉しくなった。


約1時間!かかり、希望どおりの席をゲットした私は、スーツケースを預けた身軽さもあってウキウキしていた。


今のうちに携帯を充電しとこうと思ったら、夫からラインが来ていた。

何事?!

と思って見ると

…

行く前に言うのも何かと思ったけどタロウが今熱でて病院にいるよ。
帰ってきたら話をしよう。
俺も帰ってくるまでに考えをまとめとく。
とりあえずは気をつけて行ってきな

…


正直頭にきた。


なに?
母親のお前が周囲の反対押し切って海外旅行なんかするせいで、って言いたいの?
それで何の話?
いい話だと思えるわけないよね、この流れでそんなこと言われても!
それついでに今、言う?


と思ったのだ。


後から見るとただの報告にも取れる文面だけど、その時の私にはそう見えた。
と同時に、熱を出して病院にいる子どもを思うと、詳しく状況が分からないだけに心配でたまらなくなった。

私はふだん、ちょっとくらい熱があっても元気そうなら病院には連れて行かない。

病院に行くほどの容態?
預けた義父母が心配に思ったから?

わたしは義父母と仲良くないので、彼らのテンションがまるで想像つかないのだ。

一年前、産後初めて一度だけ会社の飲み会に出るため、義母に子どもの面倒を頼んだら(といっても半日だけど)、何の問題もなかったのに、帰宅後、色々お説教されたのをきっかけに本音をぶちまけたら逆ギレして帰って行かれ、それ以来会っていない。

義父とはたまにやり取りするし、2週間くらい前にも会ったが、なにをどう考えているのかさっぱり分からない世捨て人みたいな感じの人で、悪い人ではないけれど、わたしはいつも皮肉を言われる。

  つっぱりともちゃんへ

という宛名で手紙をもらったり、先日の電話では

「旅行行くんだって?毎日遊んで暮らしてるようなもんだろう」

と言われたり。

それも、どういう気持ちで言っているのか分からないので聞き流しているが、手紙と一緒にお金が入っていたので、ものっすっごい嫌われてる!というわけでもなさそうだけれど。


説明が長くなったけど、そういうわけで夫の両親がどういうテンションなのか、そもそも夫自身、両親のテンションに流されやすいところがあるので、どういう気持ちでこのラインを送っているのかわたしには分かりかね、彼らと関わることのややこしさと理解できなさと、同じく自分を理解されないことへのいら立ちなどが、いっぺんに噴き出たような、
ま、一言でいえば、とても不愉快な気持ちになったわけです。



たった今まで、旅が始まる嬉しさにワクワクして舞い上がりそうだった体が、いきなり重力を感じて重くなった。

色んな考えで頭がいっぱいになってたけど、メインは夫と夫の両親に対する怒りだ。


大人3人ついてて、子どもが熱出たくらいで連絡してくんの?
なにそれ、そんなに異常な感じ?
連絡するのもどうかと思ったけど、やっぱり連絡しちゃうほどに?


夫には    風邪っぽいかんじ?

ってラインしたけど返信がないので電話した。


「今病院で待ってるところだよ。まぁそんな大したことないと思うけど」

…とかなんとか不機嫌な声で言われて、自分が何て答えたのかは覚えていない程度には動揺していて、一生懸命、自分の感覚に集中した。


子どもは…大丈夫だと思うけど。

根拠はないけど、そんな気がした。
わたしは、それを信じることにした。 


ごめんね、見てくれてありがとう。

って言うべきなのかもしれないと思った。
でも、わたしの感情は怒りだった。


彼は私だけの子どもじゃない。
でも、彼のママは私だけ。

だから私は、彼を置いて出かけるのだ。



***



前の夜。

私の旅について、あまりに夫がなにも聞いてこないので、

「君さぁ、私がしばらくいないのにどこのホテルに泊まるとか、いつ行って帰るかとか何も聞いてこないけど、ほんっと興味ないんだね。感じ悪っ」

と言った。

そりゃ、ずっと反対されているし(行くなら行けば?って言ったのは夫だが)、この件に関しては怒りしか湧いてこないから勝手にしろ、俺は知らない、と言われていたので、静かに1人で準備していたわけだが、わたしが逆の立場なら、最低限どこで何するのかくらい聞くと思ったから。

夫は

「勝手にしろって言ったじゃん。またそれ蒸し返すの?」

と言ってきたので、わたしはさらに驚いた。

だって、一応毎日普通に会話して一緒に寝たり起きたり食べたりしているつもりだったから、多少は分かってくれた?と思っていたから。

…甘かった。ショックだったけど、でも負けずに

「たとえそうだとしても、一応海外だよ?テロにあわないとも限らないじゃん。全っ然興味ないんんだ?!」

と続けた。夫は

「俺、一生理解できないって言ったよね?もう君がハワイ行くことすら忘れてたよ。でも、たしかに何も気にならなかったわ。言われて気づいたけど。自分でも考えないようにしてたんじゃない?だって君の言い分は一応分かったけど、俺にはどう考えても怒りしか湧いてこないもんね。」


と言った。
わたしは、性欲を一気に失った。

…なるほど。


そうやって、嫌なことは忘れてるうちに、他のいろんなことまで忘れちゃうようになって、ついには感情も鈍磨したのか。

心の中で納得したが、今夜彼の隣で眠る気にはなれないと思った。


一応言っておくが、わたしは夫のことを好きだと思っていた。

価値観の相違、というと簡単だけど、こりゃー埋まらないわ、と、今なら思える。


リビングの床に寝転びながら気持ちを整理したところ、わたしはわたしに怒っている人、というのが苦手なのだと気づいた。怖いのだ。

母親のトラウマだ。

いつ怒りが爆発して食器が、ビンタが、私を傷つける暴言が飛んでくるか分からない。

そんな気持ちで過ごしたのはもう15年間以上も前の日々なのに、恐怖は今でも私の体にしみつき、今でもこうして私を縛る。


わたしに怒りを秘めながら一緒に生活するなんて大変じゃないか?
と思ったが、わたしもまた、彼に対して言い知れぬ怒りを抱えているのだった。


***


この世で一番好きな瞬間は、飛行機が離陸する時だと思う。

ワクワクドキドキフワフワして、顔じゅうがニヤけて止まらない。

ただひたすら興奮する。

飛行機に乗るのは今年のお正月以来。
その時にはまだ1歳だった息子がずっと泣きわめいていたので、とにかく疲れたことしか覚えていない。


ドドドドドドドドドドドドドドド


お尻の下から全身に広がる機体の響きを心地よく感じながら私は、マスクの下で顔じゅうがニヤけて止まらない自分に気づいて少し元気になった。


子どもは大丈夫。
夫と義父母に任せる。

ハラをくくったつもりでも、不安はすぐには消えない。

幸運にもゲットできた窓際の席を満喫すべく、しばらく窓の外を見ていた。


どのくらいたったときだろう。


空に満月。
いや、あと少しで満月になる、まんまるにはやや足りない月があった。


私はそれを見て、こりゃぁしょーがねぇな、と思った。


すべてのことは私が選んでいるようで、選ばされているのかもしれない、と思った。


  また人のせいにする


夫ならそう言いそうな気がするが、そうじゃなくて。


未来の私が、今の私に選ばせた、とか。


よく分からないけど、とにかく、わたしを護る善きものが導いたに違いないと思った。

思ったというより、わかったんだ。

その月は、わたしにあきらめをもたらした。



多分ね、周囲に理解してもらえて、自分も納得できるやり方が他にあったんじゃないか

と、まだ考え続けるわたしがいたから。


そんなものはない。
あんたの行動がすべてよ。


少し欠けた満月が、わたしにそう言ったんだ。




***


長いのに読んでくれてありがとう。嬉しいです。

これは、夫や義父母の賛成を得られないながらも、その夫や義父母に2歳児を預けて主婦休暇をとった、わたしの記録です。

もし離婚して、子どもと離れることになったり、このまま帰らなかったりした場合も、いつか子どもに、ママの感じたことをちゃんと伝えられるように。

夫や周囲の人たちには反対されたり、理解できないって言われたり、批判されたり。
まぁ共感してくれる人はほぼいない(笑)けど、私には必要な旅でした。

それを、自分にも他の人にも、分かりやすい言葉で残しておきたいと思いました。

よかったら、引き続き読んでください。
よろしく。

トモコ・タカギ