昔むかしの話



私の七つ下の妹は

唯一父が自分の膝に乗せ

箸でおかずを取っては

口に入れてもらった

貴重な存在だった



ある夜家にお客さまがきて

父はお寿司をとってもてなした

その時私は小学生だった



わが家にはルールがあり

家のどこにいても

お客さまがあった場合

即座にご挨拶に向かう



その夜も例外なく

私も弟も挨拶をしに行って

歓談の場にいたところで

事件は起きた



先にその場にいたちいさな妹が

お客さまに出されたお寿司を

つまみ食いしたのだ



「まずい!」

そう思った瞬間

父の顔色が変わった

母は慌てて謝罪した

お客さまは笑っている



「なぜきちんと妹を見ていない」

その時父の怒りの表情は

間違いなく私に向いていた

父はその大きな手を振り上げた



「叩かれる!」

そう思った次の瞬間

バチンッと音がした

叩かれたのは弟だった



その場にいた全ての人が

意味がわからなかった

なぜ、弟が叩かれた?

弟は驚いて泣いた



今でも鮮明に覚えている

理不尽なことのひとつ

本当にわがままな人だった

父亡き今は

笑い話のひとつ



弟の気持ちはわからないが

私はいつも羨ましかった

父の膝に乗り

無邪気に笑う妹が

私には行けなかった

父の膝の上という場所



今まで一度も

言ったことはないけれど