母が最後に書き残したもの
遺書ではない
「長所十ヶ条」

母がいつも使っていた
机の引き出しに
それは入れてあった
封筒の中には
十の長所が書かれた
便箋が入っていた
母が亡くなる数ヵ月前
父の長所を十書いた
その話は聞いていた
「お父ちゃんにそんなに長所ある?」
親不孝な娘は
母にそう言って笑った
でも
確かにそこには
十の長所が書かれていた
そのほとんどが
他人に親切で面倒見がよい
そんな内容だったが
最後の十個目を読んだとき
私は胸が震えて
涙が止まらなくなった
母は体が不自由で
うまく歩けず
家の中でもよく転んだ
父は用事で出かけるとき
ひとりになる母に
いつもそうしていたんだろう
優しい言葉など
かけたこともない
この上なく不器用な父だった
母のあとを追うように
逝った父の
愛情表現だったのかもしれない
「十、椅子に座るまで必ず家を出ないで待っている」
遺書ではない
「長所十ヶ条」

母がいつも使っていた
机の引き出しに
それは入れてあった
封筒の中には
十の長所が書かれた
便箋が入っていた
母が亡くなる数ヵ月前
父の長所を十書いた
その話は聞いていた
「お父ちゃんにそんなに長所ある?」
親不孝な娘は
母にそう言って笑った
でも
確かにそこには
十の長所が書かれていた
そのほとんどが
他人に親切で面倒見がよい
そんな内容だったが
最後の十個目を読んだとき
私は胸が震えて
涙が止まらなくなった
母は体が不自由で
うまく歩けず
家の中でもよく転んだ
父は用事で出かけるとき
ひとりになる母に
いつもそうしていたんだろう
優しい言葉など
かけたこともない
この上なく不器用な父だった
母のあとを追うように
逝った父の
愛情表現だったのかもしれない
「十、椅子に座るまで必ず家を出ないで待っている」