死別の朝
「のど かわいた
みぞれ
とってきて
賢治にいちゃん」
今日のうちに
遠くへ行ってしまう
私の妹よ
みぞれが降って表は
変に明るい
「のど かわいた
雨雪を取ってきて
おにいちゃん」
暗い雲から
みぞれは
びちょびちょと
降ってくる
「雨雪を取ってきて
おにいちゃん」
欠けた椀に
お前が食べる
雨雪を取ろうとして
私はとびだした
「雨雪を取ってきて
おにいちゃん」
「ああ、とし子」
死ぬという
今頃になって
私を一生
明るくするために
こんなさっぱりした
雪の一椀を
お前は私に頼んだ
「ありがとう
私のけなげな妹よ
私も真っすぐに
進んでいくから」
「雨雪を取ってきて
おにいちゃん」
激しい熱や
喘ぎの間から
お前は私に
頼んだのだ
宇宙から落ちた
雪の最後の一椀を
私の優しい妹の
最後の食べ物を
もらっていこう
「また人に
生まれてくるとき
こんなに
おにいちゃんを
悲しませないように
生まれてきます」
「つぎ
生まれ変わっても
また お兄ちゃんの
妹になりたい」

宮沢賢治
arange
macolna