盛岡食いしん爺日記
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盛岡の隣、雫石町の外れに白鳥を見に行った。
いつもの場所には一羽もいない。
「もう旅だったのだろうか?」
少し周りを走ると、雪が溶けた田圃に大きな水溜。
そこら中にいるではないか。
冷たい風をよけ温まっているのだろうか、
頭を羽にうずめる白鳥。
水溜りに首を突っ込む一羽。
Almost Blue · Chet Baker
周りには百、いやその倍はいる。
あちこちから鳴き声も。
貪欲に食べて体力を養っているのだろう。
じきに長い旅に飛び立つ。
空を高く舞い出す前に会えてよかった。
などと童心に帰っている。
ふと、西和賀の「寒ざらしそば」を思い出した。
確か3月8日で終わり、今日は最終日だ。
一階が埋もれるほどの豪雪地帯の西和賀。
その寒さの中で流水に漬け、寒風にさらした蕎麦。
昔ながらの製法で丁寧に手間暇かける。
飛び立つ前の白鳥たち。
少し私も飛んでみようか。
雫石から西和賀に向かった。
標高が高くなるにつれ雪は深くなってきた。
山伏トンネルを抜ければ西和賀沢内。
三月というのに雪の壁は高い。
まだ西和賀の春は遠い。
西和賀町の沢内は南北に長い。
秋田の横手まで続く道路沿いに家々が点在する。
特に冬はモノクロの光景が延々と続き長く感じてしまう。
沢内から湯田温泉郷に入る。
鄙びてはいるが、風情のある温泉街だ。
そのまま走り抜ける。
しばらくして湯田の街並。
錦秋湖を左手に見て橋を渡り秋田の方へ。
国道46号線に入る。
すぐ街並みは途切れ、しばらく緩い上りの道。
寒ざらしそばを食べようと思った「春乃家」は昼の営業を終えていた。
もう時計は1時半を過ぎている。
ゆだ高原駅に車を停めひと息ついた。
いつもなら落ち込んで徒労に終わった道程を憂う。
ただ白鳥に元気をもらったせいなのか、
「どうせなら秋田まで行くか!横手の街は、すぐ先だ」
どこからかアドレナリンが湧いてくる。
湯田からせいぜい30キロ。
秋田の横手市や湯沢などに行く時は、たいてい高速道路だ。
今日は雪の回廊の下道を走る。
横手について街の西側の方へ。
目指したのは「名代 三角そばや」の横手の街にある店。
2時半近くでもお客さんは途切れない。
横手市の十文字は言葉のとおり人々が行き交う場所。
戦後、中華そばの屋台から始まり「十文字中華そば」と呼ばれた。
三角そばやは創業昭和25年の老舗。
十文字の方にある本店は山形県の金山町の古民家を移築した建物。
何度か食べに行き、たまたま社長さんと話す機会があった。
百年を超える歴史がある古民家で、金山の杉を使い金山様式と言うそうだ。
その建物が目指すのは「美しく古びる」。
あの時、社長さんから色々な話を聞いた。
ネギを増しにした。
「名代 三角そばやの中華そば」。
細めの縮れ麺は手もみで数日間熟成されている。
これは「かんすい」を使わない。
醤油ベースの透きとおったスープの出汁はいわしの焼き干しなど。
自家製のメンマも出汁が染みやわらかい。
麺もスープも具も丁寧な仕事ぶりがよく分かる。
寒ざらしそばと同じだと思った。
食べ飽きず、とにかく美味しい。
箸も蓮華も休むことなくスープまで完食した。
その日、中華そばの持ち帰り用の具入りの方を買った。
横手から帰った翌日の昼、中華そばの袋を開けた。
チャーシューも美味しい。
麺もスープも具も、店で食べているのと遜色がない。
徹底した作り方だ。
昨日に食べたばかりと言うのに、
24時間後も美味しく食べた。
本当に食べ飽きない。
実はもう一袋あるのだ。
また明日に食べてしまうかもしれない。
あの白鳥たちももうすぐ飛び立つ。
そして、今年も春がやって来る。

















