ご存じのとおり、石原慎太郎氏とともに日本維新の会の共同代表である橋下徹大阪市長の発言が物議を醸している。その13日の発言には、大きく分けて2つの主旨があった。
まず、戦時中の旧日本軍慰安婦について「銃弾が飛び交う中で、精神的にも高ぶっている猛者集団をどこかで休息させてあげようと思ったら、慰安婦制度は必要なのは誰だってわかる」と述べたことである。
ようするに、戦時中の慰安婦が必要悪だったと述べたということだ。
もう1つは、「慰安婦がいたのは日本国軍だけでない。いろんな国の軍隊で活用されていたものである。だから、日本の慰安婦を取りたてて世界的に取り上げられるのはおかしいのではないか」というもの。こちらはなぜかのちのマスコミ報道では無視されているようだ。
この2つ以外に、物議を醸した発言がもう1つある。
それは、橋下市長が連休ごろに軍普天間飛行場を視察した際に、米軍幹部に対して「アメリカ海兵隊員に沖縄の風俗業者をもっと活用してくれと求めた」というもの。ある報道では、「相手が凍り付いたようなひきつった笑顔になった」と描かれた。
私はこのニュースを見て、橋下市長の真意を考えた。それはこれまでの橋下市長の行動パターンからである。
倫理に逆らったことをあえて発言し、世間の反発を呼び起こして注目を集めさせ、これまで無視されてきた対象に注目させて、難題を突破するというのが、これまでの橋下氏のやり方だった。今回も同じではないかと考えたわけだ。
橋下氏は既存の倫理や行動枠にとらわれないで、自分のやり方を実現する近道を考えて実行してきた。また、この人は自分が間違っていたと思えば、体面など無視して速やかに撤回・謝罪する。実際、米軍要人に言ったことに関しては「アメリカへの文化への認識が足りなかった」として、15日に米軍側に謝意を表明してる。
橋下市長はこのような日本人離れした合理主義者であり、空気を読まない現実主義者である。
今回の発言については、マスコミも世論も人権を盾に橋下バッシングの嵐になっているが、まだ橋下氏からの撤回も謝罪もない。それどころか、ツイッター上でますますその正当性の主張を繰り返している。
慰安婦問題には微妙な問題があるので触れない。今回は風俗のほうに絞ってみたい。
この場合の「風俗」とは、性(とくに女性のからだ)を商品として合法でも違法でもないグレーゾーンでおこなう商売のことである。合法と違法の境界にあり、警察の胸先三寸で逮捕できたりすることから、不正の温床になりやすい。
ではなぜ違法にできないかというと、風俗をなくせば性犯罪が爆発的に増えるからである。これは各国で「実験」されていることであり、治安維持の抑制装置になっている。
ではなぜ合法にできないかというと、そこには「性を売る人間はダメだ」という性を人間性の中心に置く価値観と、「それでもそういった商売をする悲しい事情がある。そういった事情を取り除くことが大切」といった同情を基本とする倫理的な立場があるからである。
だから、「必要」と考えながらも「あってはならない悪」、ようするに「必要悪」というグレーゾーンに置かれて続けられている。
橋下市長はこの「グレーゾーン」を、「必要なもの」と定義し直そうとして、世間の大多数の「あってはならない悪」という立場から攻撃されているわけである。
では、橋下市長の真意はどこにあるのだろう。そのヒントとなる発言が大阪府知事時代にある。
2009年の発言だが、大阪におけるカジノ構想に関連して、「こんな猥雑な街、いやらしい街はない。ここにカジノを持ってきてどんどんバクチ打ちを集めたらいい。風俗街やホテル街、全部引き受ける」と述べている。
つまり、ギャンブルと風俗という2つのグレーゾーンを合法化してエンターテイメント施設として集約して、地方経済の活性化の起爆剤にするという構想をもともと持っているのである。
これを突破するには、「風俗合法化はグレーゾーンとして公に語ってはならない」という現在の空気を粉砕する(できれば一挙に合法化まで持ちこむ)ことである。米軍幹部に「沖縄の風俗を利用して欲しい」と言ったのは、米軍の海兵隊が大阪カジノ特区の「見込み客」だからだろう。
鳩山政権のときに沖縄の米軍基地を県外に移転しようという動きになったのを受けて橋下府知事が関西国際空港が利用できるかもしれないと検討したことがある。もちろん赤字の関西国際空港をなんとかしようという意図だったのだろうが、もしかしたら米兵を「見込み客」としてとらえていたのかもしれない。
そう考えると橋下市長の真意は見えてくる。そう、カジノ構想を成功させるためだ。
たとえば「日韓基本条約で従軍慰安婦問題は解決しない。謝罪を続けるべき」といった一見前の発言と矛盾することも述べているが、それは「慰安婦問題が風俗グレーゾーンの空気を強めている」と見切ってのことだろう。
つまり、戦前のそれを現代のそれと切り離し、アメリカ屈指の「罪の街」であるラスベガスのように明るいエンターテイメントと捉え直すことを促すためである。
そうやって考えると、今回の「けんか」の挑み方もこれまでと全く同じである。物議を醸すことによる正面突破である。
ただし、これまでと違って今回は圧倒的に形勢不利である。なぜなら、そこに「性」が絡むからで、これまで橋下市長を「本音の政治家」として支持してきた人も、「賛成して同じに見られたらかなわない」と思い、支持しにくいからである。
もちろん、売春合法化はオランダを筆頭に、ドイツ、オーストラリア、タイなどで導入されている。性病の蔓延と脱税を防ぎ、そういったところで働く人たちの安全を確保するためには、裏の世界に潜り込まないように合法化するしかない。
そのタブー性を除けば、風俗を人間活動に必要なエンターテイメントと捉え直すことには一定の合理性はある。ただ、日本におけるタブー性は思いのほか大きく、正面突破はさすがに困難ではないだろうかというのが、私の率直な結論である。とくに大多数の女性の賛同が得られそうもないのが致命的だ。
ただ、この人が政治家としてユニークであり、停滞した日本を変えられるとしたら、こういった「強力なパワーを持った変人」であるのは間違いない。

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