しかし、神様はうなずいてこう言いました。
「ぺらぺら? 自分の言いたいことが英語になればよろしゅうおますかの?」
「は、はい!」と山田君があわてて答えます。なぜかはあはあと息が上がっています。
「では、まじないを・・・エー!・・・ビー!・・・シー!」
あまりの速い展開にとまどっていると、山田君は背骨に電流が走ったかのようにびくっとしました。
それにしてもこの神様、発音が悪いんだけど大丈夫なんだろうか?
山田君がすっと背を伸ばしました。「や、山田・・・どう?英語しゃべれるか?」
「イエス・アイシンクソー」
私は驚愕しました。
How are you?と聞かれて、さんざん考えて「イ、イエス・ユー・ドゥー」などとわけのわからないのこと言っていた山田君が英語をすらっと。
でも・・・
「神様!山田の発音が変わっていません!」と私は思わず訴えました。
「発音か? 発音は別注文じゃけん」
「そ、そうなんですか?」
「さよう」
私はうーむとうなりました。しゃべれることで1つ、発音で1つか・・・。
たんに英語ができるようになるというのではなく、具体的に「何がどれくらいできるようになるか」で1つと数えるようです。
「あんちゃんはどうするっちゃ?」
文尾でラムちゃんを思い出しましたが、私はそれをすぐに振り払って、「ちょっと待ってください」と告げました。
ふと来週TOEICを受けることを思い出しました。そう、ここのところずっと700点台で頭打ちだったので、満点とれるようになりたい!
山田君に相談しようとして彼を向くと、いつのまにか眠り込んでいました。「がっでむ!」など、ときどき英語らしきものを叫んでいたのですが、たんに寝言だったようです。
私は意を決しました。「すみません・・・TOEICで満点とれるようにしてもらえますか?」
しばらく考えて、「おやすいご用じゃ」と言うと、神様は私をじっと見ています。
おやすいご用!さすがは神様!さきほどまでわけがわからないと思っていたのに、いっきに頼もしく見えます。
現金なもんです。
「あんたは基礎力はあるようじゃが、情報を処理するのが遅いようだなもし」と言って、また何かを考えはじめました。
「そうよのー・・・情報処理の速度をぐんと上げればだいじょうぶじゃん」
「そ、そうですか」
「英語力はもうちょっとだけ上げればだいじょぶやろ・・・じゃあいくぞ」
え? 英語力はちょっとだけ?
せっかく英語の神に出会えたのに、肝心の英語力がちょっとしか上がらないのではあまりにももったいない話です。
「すみません! 待ってください!」
「どうしたんじゃ?」
「あの・・・今のお願いを・・・ですね・・・キャンセルしていいでしょうか?」
「やめるんとか?・・・ああ、よかたい・・・ばってん、どうするかのお?」
「はい・・・あの・・・・タイムでも論文でもすらすら読めるような英語力にしてください」
「いや、それは無理じゃ」
「なんでですか?」
「すらすら読むためにはすらすら聞けるようにならないといけないからな。それだと2つの願いを叶えることになるたい」
「えー!」 私の頭は混乱しました。つい今まで尊敬心が芽生えつつあったのに、今度は、なんだこいつ、と心の中で毒づきました。
続く。