今日、バイリンガル教育セミナーというお話会に参加してきました。講師の方はとてもチャーミングな女性で、楽しいひと時だったのですが、ちょっと気になったことがあって、これは書いておきたいと思いました。
第二言語習得やバイリンガル理論で、前回ご紹介したColin Bakerと並んで、有名な学者がジムカミンズ(先生)でしょう。
ジムカミンズはカナダのトロント大学の教授で、日本のバイリンガル教育では最も著名で権威がある中島和子先生の同僚でもあります。
ジムカミンズは、80年代から様々な理論や仮説を発表し、バイリンガル学会や二言語習得学会では引っ張りだこでした。私はいつも大ホールで、基調講演をするカミンズ先生を遠くから見ていただけでしたが、中島先生のおかげで、日本語関係の学会がトロントで行われると小さな学会でもカミンズ先生が講演に来てくださっていました。私は3-4回、カミンズ先生とお話をする機会がありました。
彼の基調講演でとても印象に残っているのが、彼が提唱したBICS (Basic Interpersonal Communication Skill) と CALP (Cognitive Academic Language Proficiency)が90年代くらいから、間違った解釈のまま、様々なところで批判の対象になったことに対し「まるで、つきあってもいない恋人にひどい仕打ちをしただろう、と責められているような気分だ」とコメントしたことでした。
このBICSとCALPは、それぞれBICS「生活言語能力」(日常会話)とCALP 「学習言語能力」(学校で学習するのに必要な言語)と訳されます。そして日本語の場合、なぜか「学習言語能力」=読み書きの能力と解釈されている例も多いです。
そしてBICSは1年〜3年くらいで身につくが、CALPは5年〜7年かかるという私からすれば根拠のない定説が一人歩きしているようです。
また、カミンズはBICS とCALPは別々に習得するものではなく、言語習得という段階の線上にあり、抽象度が高く、高い認知度を必要とする言語使用に到達する=CALPが形成されていくと説明しています。
これらを含むカミンズの学説は、中島和子先生の『バイリンガル教育の方法』でわかりやすく一般的に、説明されています。
カミンズのBICSとCALPはアメリカで90年後半で起きた「バイリンガル教育」の論争に頻繁に引用されました。「バイリンガル教育(Transitional Bilingual Erucation=TBE)」の支持者は彼の理論を引用して「移民の子供が英語だけで教育を受け、英語の『モノリンガル』の学力についていくには、5年〜7年かかるのだから、それまでの間は、彼らの母国語(主にスペイン語)で教育を受けさせるべきだ」と主張しました。
それに対し「最初から英語だけで教育を受ければ、もっと早く英語の『モノリンガル』の『英語』だけで受ける試験で、モノリンガルと同じくらいの学力(点数)になるのだから、バイリンガル教育はなくしてもいい」という主張するグループがいました。
ここで問題だったのは、この論争は、そもそも「移民の子供の英語力」に焦点を当てたモノリンガル社会のアメリカで起こったもので、「バイリンガル教育」自体が異なる意味を持つ多言語社会の凡例は、通用しないということを考えずに、やみくもに引用してしまった教育者が横行したことです。
「何年くらい、英語圏に住んだら、バイリンガルになれるのか。」これは日本から英語圏の国に移住した方なら誰もが思うことでしょう。そして、両言語がどこまで、できれば「バイリンガルと言えるのか。」というのも永遠の課題だと思います。
ここで、BICSは1〜2年 CALPは5~7年、のようなマジックナンバーを出されれば、それが滞在期間の目安になるのかもしれませんが、これはとても危険な考えだと思います。
バイリンガルの子供の認知能力を測りたいなら、両言語ですべての能力測定をする必要があります。モノリンガルのものさしでバイリンガルの能力を測るから「サブリンガル」とか「ダブルリミテッド」という表現が出て来ます。
バイリンガルは「どちらの言語も中途半端」なのではなく、「両方の言語で100%以上」なのです。
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