デビュー作をはじめとして

食に関連した小説を多く出していますが

 

元々、食材探しが好きで

市場も大好きです

 

大学病院で働いていた頃は

いまは無き浦安市場を

月に数回は訪れていました

 

市場の活気

朝から酒を飲んでくだを巻いている人

知らない魚、知らない野菜

そういうのを見るのが好きなんです

 

そんな私ですが、

先日、都内で空き時間があり

人生で初めて築地外市場を訪れました

 

 

一度見てみたかったんです

 

というのも、

豊洲市場が完成し

市場の機能が移転するというニュースが

テレビを賑わせていた頃に

築地外市場で働く店の人が

「インバウンド客が見込めなくなるから

死活問題だ。困る」

と嘆いていたからだ

 

あれから豊洲市場が無事完成し

築地外市場がどうなっているのか

直に目で見てみたかったのです

 

インバウンド商売の現場にも

興味があった

 

というのも私は

わりと前から

インバウンド需要を見込んだ産業に

賛成の立場だったから

 

日本の長年の経済停滞は

火を見るより明らかで

どう考えても厳しい

 

未来の世代の負担を少しでも減らすために

外貨を積極的に取り込んでいくのもやむなしと思っていた

 

ちなみに医療インバウンドもその一つで

なぜか経産省が積極的に押し出している

およそ10年くらい前

中国人を相手にした健診センターが大学病院近くに出来て

私がいた病院から立ち上げに派遣された医師もいた

(お国柄の違いもあり、相当大変だったらしい)

 

そんな背景もあって、当時から

日本の保険医療は崩壊しつつあるから

将来的には医療インバウンドも

積極的に取り組んでいかないといけないだろうな

と思っていた

 

さて、話が戻ります

 

車で築地外市場に向かいました

大好きな市場を巡る

しかも日本でも名の知れた築地外市場

 

もちろん、観光地的然としてはいるだろうが

高揚感はたしかにあった

 

綺麗とはとても言えない駐車場に車を停め

綺麗とはとても言えない店が連なる道を歩く

 

どんなものを売ってるのだろう?

各店舗はどんな特色を打ち出しているのだろう?

 

狭い路地には

訪日客がひしめくように歩いている

 

その様子を見て、

心が弾んだ

風船のように期待が膨らんだ

 

だがしかし、

たった数店舗を見て

期待の風船は

あっという間に萎んでいってしまった

 

最初に訪れた店の

氷が敷かれた陳列棚で

真っ先に私の目をひいたのが

 

マグロの柵

9000円

 

産地も書いていない

部位も書いていない

ラップが巻かれた

色もよくないマグロ

 

私はプロの目利き人ではない

でも、直感的に

このマグロは2000円でも買わない

 

高い!

と思うよりも

頭を埋め尽くしたのは、困惑だった

 

他に陳列しているのは

小さな伊勢海老6000円

その場で食べられる

甲羅に足肉を詰めた蟹

生牡蠣

刺身

寿司

どれも異常に高い

扱う魚種が多いわけでもない

 

まあ、駐車場前の一等地の店だし

こんなもんかと思ってスルー

 

少し歩くと肉屋があった

 

ラップに巻かれたドリップまみれの和牛が

これまた一万円近い

店頭販売している軽食は

流行りの牛串にウニが乗ったやつ

(私はこれ、嫌い)

 

観光地価格だから仕方ないかな

なんて思いつつ、狭い路地に入る

 

もしかしたら、奥にはバリエーション豊かな店が

一杯あるのかもしれない

いや、あるに違いない

 

しかしその期待は

見事に裏切られた

 

どの店に並ぶのも

全部同じもの

はかったように同じ値段

マグロ、伊勢海老、蟹、牡蠣、ウニ牛串・・

見飽きたし異常に高い

 

そして、中の光景も異常だった

 

所狭しと歩く訪日客に店の人間が群がり

ツナ! オイスター! ロブスター!

とカタコトの英語を浴びせかけ

法外な値段で商品を売りつけている

 

私が好きな市場の姿は

そこには微塵もなかった

 

堅物店主が

うちはいいのしか入れないからな!

美味いよ

他じゃこの値段じゃちょっと手に入らないからな

 

そんな店は、観測している限り

一つもない

 

そりゃあ、

観光地だから割高だろうとは予想していた

 

けど、

活気と好景気によって

各店がユニークさを打ち出し

経済&進化を両立した市場を見れるのではないかと

私は期待していたのだ

 

でも、目の前に広がっていたのは

『築地外市場』というネームバリューで

海外から集まってきた客に

他店と足並みを揃えて

本来の価値の数倍の値段で売りつける

人・人・人の群れだった

 

正直に言えば

その光景に

悍ましさすら感じてしまった

 

それから私は

インバウンド産業について

2つの考えを抱くようになった

 

1つは

よく言われることだが

インバウンド需要を享受できるのは

極めて限定された人たちだけではないのか?

 

例えば、『築地外市場』のような

 

その他の店にも

増えた来日客が溢れて

客は増えるかもしれないが

売り上げ的には微々たるものだし

日本は小規模店舗が圧倒的に多いので

例えば飲食店なんかは

経営を維持できているところは

すでに抱える客がプラトーに達しているケースも多い

 

インバウンドの純然たる利益を得られるのは

本当に一部の産業だけだ

 

で、もう一つ

 

インバウンド需要を多大に享受する場所は

(頼り切っている場所は)

考えることや成長することを

放棄するということだ

 

言葉は悪いが

築地外市場が

この先発展する未来を

私は一つもイメージ出来なかった

 

工夫も切磋琢磨もないから

 

二度と会わないであろう訪日客に

群がって商品を売りつける店員たちを見ながら

 

私は背筋が凍る思いを抱いた

 

もしも、

医療インバウンド産業が本格化したら?

 

頭の中に

訪日客に群がる医療者たちの群れが

思い浮かんだ

 

日本の医療は高品質・高信頼ですよ!

そんな売り文句で

 

必要ない検査や治療を

法外な値段で売りつけている

 

そんな絵が

いやでも浮かんだ

 

やがて、

築地外市場のように

高く売ることに躊躇がなくなり

その他のことを

何も考えなくなるかもしれない

 

リスクも、

医療に対する責任も

 

そして、

その影でひっそりと削られていくのは

ブランド力だろうと思う

 

勝手な意見ではあるが、

築地外市場を実際に訪れた日本人で

もう一回行きたいなと思う人は

かなり少ないように思う

 

市場としてのブランド価値が

そこにはすでになかったからだ

 

そして、

その価値を自ら下げているのは

築地外市場の商人たちだ

 

築地市場が

市場としてのブランドを確立したのは

元々は観光地だからではなかったはずだ

 

先人たちが

首都東京の台所としての価値を高めていったからこそ

築地市場というブランドが生まれたのだ

 

観光地というのは

その副産物の一つじゃないか?

 

いま、築地外市場は

先人たちが積み上げた価値にあぐらをかいて

安易な商売のやり方で

価値を消費し続けているように思えた

 

日本の医療にも

同じことが言える

 

国民皆保険制度という

世界でも稀有な制度の中

高品質低価格の医療を突き詰めてきた結果

いまの日本の医療の価値が積み重なってきた

 

インバウンド医療に振り切ってしまうと

その価値が失墜する可能性がある

 

将来的に

我が国はインバウンド産業に力を入れねばならないだろうけど

 

舵取りをうまくしないと

成長する力を失い

築き上げてきた価値すらも失ってしまう

 

そんな気がしたのです

 

初めて訪れた築地外市場に対しては

落胆が大きかったけど

 

学ぶところも多かった

 

インバウンド需要に対する考え方が

180度変わるほどの体験が

小さな市場にあったからです

 

今回は大分真面目な話になってしまいました

 

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