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太陽が燦々と降り注ぎ、
なんとも気持ちの良い日。
僕は、その日、
会社をサボってお休みして、
公園で日向ぼっこをしていた。
風に揺れる木の葉のリズムに合わせて、
心ゆくまで心を泳がす。
時に、子どもの遊ぶ声が聞こえてきて、
それがまたヒーリングミュージックのように、
心の奥の深いところに僕を誘う。
この時間が、人生で一番贅沢だと思うのは、
僕だけでしょうか。
ところがその時間は長くは続かなかった。
事件が起きたのは、
心が25メートルほどを泳ぎきり、
ちょうど折り返そうとするその時だった。
10歳くらいだろうか。
僕の目の前で、
元気いっぱいに走ってきた少年が、
石にけつまづき、大胆に転んだのだ。
思わず、僕。
「大丈夫?
あら、ひざから血が出てるね。
水道、あっちにあるから洗いに行こうか。
ちゃんと
前を見てないと、
また転ぶから、
気をつけなね?」
いい人ぶった。
10メートル先に、
ブランコで子どもと遊ぶ
きれいなママさんが見えたから。
なるべく声は張っておいた。
こうして僕は、
ありったけの「優しさ」を、
“自分のためだけ”に少年へと提供したのだ。
すると少年は、
その魂胆に気づいたのだろうか、
ありえない反射角で僕の気持ちに応えた。
「おじさん、バカなの。
人間(生きもの)は、
前しか向けないんだよ」
驚いた。
「おじさん」と言われたことに。
だって、僕はまだ30代。
うまくいけば、まだまだ美術館へ
「大学生料金」で入れる気だってする。
いや、でもこのことについて、
自分を語らせてしまうと、
あと8万字くらい必要な気がするため、
「怒り」は引き出しにしまって、切り上げます。
もとい、少年の回答に驚いた。
なんとも変則的なスマッシュ。
まさかあなたがジョコビッチ?
と聞きたくなるほどだ。
やっとのことで、僕は言葉を返した。
「人間は前しか向けない?
そんなわけないじゃん。
後ろだって向けるし、
下だって向く。
キミだって社会人になれば、
そんなこと
言ってられなくなるからな!
落ち込んだ時は、
下を向いて歩くのが、
日本のサラリーマンの風情なの!」
僕にも大人のプライドってもんがある。
長く生きてきた経験値を振りかざし、
少年に応酬をかけた。
すると、ジョコビッチ。
さらなる高速スマッシュを
僕へと打ち返してきたのだ。
「やっぱり、
おじさんってバカ。
後ろを向いたなら、
そっちが
その人にとっての前じゃん。
下を向いたなら、
そっちが
その人にとっての前じゃん」
思わずラケット置いたよね。
試合中だからとか関係ない。
潔く負けを認め、
研修生からやり直そう。
そう、思った。
視界に映るきれいなママさん。
あなたの首に勝利のメダルを
かけてあげられなかった。
本当にすまない。
そう心の中で置き手紙を残し、
僕はその場を去った。
確かにそうだ。
人間は前しか向けない。
だって、その人が
見ている方向が
前なのだから。
どれだけ落ち込んでいようが、
不安だろうが、ネガティブだろうが、
怒っていようが、悲しんでいようが、
その時、人間は前向き。
不安になっている人がいるなら、
不安の方角がその人にとっての「前」。
そもそもポジティブなんて状態、
存在しないんじゃないかとすら思う。
どんな時も人(生きもの)は、
前向きなのだから。
少年の言ったことは真理だと思う。
だからと言って、
「おじさん」と言ったことは
絶対に許さんけどな。
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