準決勝2試合目、元ユース経験者玄人の試合解説シリーズ(笑)
イングランドvsアルゼンチン

本日も早起きして観戦。
今大会で一番の見どころが多い試合で楽しかった!
ご承知の通り、アルゼンチンが2-1のスコアでイングランドを下した。
これは今期ワールドカップの自身の予想の中でも一番大きく外した結果になったが、事前の予想でのアルゼンチン大量失点による敗北と、AT逆転勝利という現実の結論を比較しても、差異は大きなものであった。
当に結論からすると、今大会最大の番狂わせ。
何故世界ランキング1位のアルゼンチンが格上イングランドに勝てたのか、それを紐解いていかなければならない。
結論は、過酷な日程による決勝スケジュールを見込んだトーマス・トゥヘルの早合点が全ての運命を決定づけたと言っても良いだろう。
つまり致命的采配ミスだ。
■格下アルゼンチンを舐めた試合展開
疲れて動かないのではない。明らかに怠惰な動き、いや、消耗しない動きと言った方が良いのではないか。
序盤からそう感じた。
中盤からトップでのライン管理、ハーフスペース閉鎖が明らかに出遅れている。
解説の福西も似たような解説をしていた。
だからまともな攻撃にはつながらないものの、アルゼンチンにパスを通されるケースが目につく。
それでも前半終了まで「舐めプ」であってもアルゼンチンを押し込める、と理解したのだろう。我々が見ていても、何故ここまで動かないのだろう、そう感じさせるものだった。
これはアルゼンチンに対して勝利を確信している動きであり、明らかにスペイン戦を睨んだものだ。
過去決勝で休養1日多いチームは14大会の内、13度優勝だ。
1日という大きなハンディキャップは経験したことの無い人には理解できないだろうが、それほど大きなもの。
監督の立場としては無視できない数値なのだ。
後半に入り、体力温存で「舐めプ」なイングランドがあっさり先制する。
このままの試合展開でいけば、勝利は確定的であったが、トゥヘリは体力温存、ディフェンス強化に走ってしまう。
決勝の相手は史上最強チームと言っても良いスペインであることを睨んで。
監督の立場としては、勝つことを視野に戦略を練り、目の前の試合を戦術でどう乗り切るかがポイント。
1試合1試合全力で戦うだけです!と何ともすがすがしい甲子園の大博打とは違うのだ。
トゥヘルの判断は間違えていた。
明らかに中盤にスペースが出来ていた。
アルゼンチンにとってみれば棚ぼたなイングランドの戦術変換。
でもだからフットボールは面白い。
■最大の敗因:先制後
イングランドは完成形スタイルを持っているのであれば、通常モードを維持していれば、間違えなく勝てただろう。
・選手の金銭的価値合計
・持久力
・ポゼッション力
・パスを通す力
・ネガトラ力
・枠内シュートを打つ期待値
・得点期待値
ご承知の通り、イングランドは全て世界ランキング1位のアルゼンチンを大きく上回る。大きくだ。格が違うというのはここだ。
トゥヘルはスペイン戦を睨んで体力温存、守備に徹して動かず無難に乗り切ろう、そう判断したのだろう。
イングランドは守備的な戦術に切り替えてしまい、時間は後半40分を迎えた。
このまま推移すればやはりイングランドか。
トゥヘルの戦術眼の鋭さが称えられるのか、と多くの人がそう思ったであろう。
しかし、その判断は2点以上奪ってからの戦術だと思う。
イングランドは監督の指示通り、守備にまわり、アルゼンチンの攻撃を、完成されたチームの組織でブロックする、そういう流れになった。
後半40分。
想定外の目が覚めるような乾坤一擲という言葉が相応しいだろう。
現代的組織サッカーではあの位置からではご法度なミドルシュート。だがそんな個のミドルがイングランドゴールのネットを揺らしてしまった。
同点に追いつかれる。
イングランドの選手の茫然として、えっ、どうするの?という顔を皆していたのが印象深い。
明らかに動揺し、混乱が始まっていた。
名将ならここでインターバルに選手交代をし、攻守切り替えを指示できたのだが、トゥヘルの動きが5分遅れた。
わずかの時間混乱を続けるに、時間は無さすぎた。
■奇跡の逆転劇
疲弊著しいアルゼンチンではあるが、祈り続ける大歓声による大きな後押しが、ラ・アルビセレステ達の120%の力を引き出す。
トゥヘルに考える暇を与えなかった。
はじかれたシュートがラインを割る。
だろう。
と思われた球を、試合中半分以上をヨボヨボ歩いていた老齢のライオネルが追う。
そして、追いつく。
ライオネルは人生これ以上無い頑張りで斬り込んでクロスを上げる。
これが芸術的にマルティネスの頭にドンピシャで合う。恐ろしい精度だ。しかもそれを得意ではない右脚でやってのける。
この一連の流れには感涙するほどの衝撃を受けた。
涙が出て来た。
出せる能力の最期の力を振り絞ってピンポイントでマルティネスの頭に合わせる。
「巨人」の腸を、「雀」が急所を食い破った瞬間だった。
既にアディッショナルタイムは2~3分経過していたであろうか。
ここから遅すぎる巨人がようやく攻めに転じる。
圧倒的な攻撃に移る。
時間はまだ5分ほど残っている。
だが心、マインドは完全に焦りに覆われ、国技であり、フットボール発祥の地としてのプライドと大きなプレッシャーが、過度に大振りにさせていく。
少なくとも後半30分過ぎからこう舵を切っていれば、結論は変わっていただろう。
1点差を安全圏と見て「守備的な戦術」へ移行した判断は、結果論としてスペインを見据えたリスク管理だったが、その間にアルゼンチンの「死に物狂いのパワー」を過小評価していた。
■今大会の一番の番狂わせ
結論としては、今大会で一番の番狂わせになった。
イングランドは体力温存どころか、更に過酷な19日の3位決定戦へと進むことになる。
相手は休養充分なディディエのチーム。
かなり厳しいだろう。
そしてアルゼンチンは幸運も重なり2大会連続の決勝。
いや、幸運だけではなく、実力もそれなりにはある。
大会直前では実力世界32位程度と目していたが、とんでもない。
少なくともベスト16ほどではないか。
今若手も確実に育ってきている。
伝統の個ではなく、守備強度、球際・フォローなどの責任が極端に重い。
若手がベテランの守備をやってる。
そして現代サッカーの基本、組織的な役割変換を即座に切り替えることができている。
この大会で無名な若手も飛躍的に成長していることは明白だ。
だからワールドカップを見るのはやめられない。
面白い。
だが・・・
世界ランキング1位のチームは、決勝でイングランドよりも更に更に格が上で、史上最強チームと言っても過言ではないスペインに挑むことになる。
ずばり、本日の試合内容などからして、99%以上の確率でスペインが勝つだろう。
スペインはイングランドの様に体力温存する必要はない。
自信をもってずっと攻撃すればよいのだ。
アルゼンチンは有終の美としてライオネルを出場させるだろう。
そうすれば無名選手で繕う脆弱な守備は、ラ・ロハ無敵艦隊に木っ端みじんに打ち砕かれることになる。
今日の試合展開では、アルゼンチンは常時7名のディフェンスを配置していたのを気付いている人って少ないだろう。
常時7バックスなんて聞いたことはあまりない。
ましてスペイン相手ではますます攻撃のチャンスは少なくなるだろう。8~9人で守備するのか?
わずかなチャンスだけを最前線に残る老兵に託すことができるのか?
リオネル・スカローニがどう判断し、どう選手を起用していくのかが見どころになる。
勿論ラ・ロハ無敵艦隊の潤沢な攻めをどう10人で護るかも見どころの一つ。
実力差があまりに大きいスペインの壁を、世界ランキング1位のアルゼンチンがどう受け止めていくのか。
私には策があまりに無さすぎて絶望的だが、アルゼンチンの若手は国内無名リーグで常にその逆境でも諦めなかった。
無名でノーマークの選手がこれを機に高額マーケット市場に討って出ていくチャンスになる。
ここまで玄人目には偶然、運が良かった、相手に恵まれすぎとのバイアスを掛けられている筈だ。そのままとするか、撃ち破るか。
かつてのギリシャ(ユーロ2004)や、モウリーニョが見せつけた究極のリアリズム。
予告した範疇にはなるが英雄が誕生しつつある。
そして古い英雄はただ去るのみ。
凄惨な一方的敗北は避けてもらいたい。
どうかスペイン無敵艦隊にお慈悲を。