小説「恋するプリンセス ~恋してはいけないあなたに恋をしました~」あらすじ&目次
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08 絶望
第110話 親心
アトラス城の北東に位置する町、シーラ。
橙色の屋根と白の壁に統一された美しい町の夜が明けた。
朝日が昇ると、町は美しく輝くのだが、今日はあいにくの雨である。
セロードはシーラの宿屋についてから、リアム国王へ状況報告とローンズ王国に訪れることをしたためた。ペンを置き手紙に封をする。
コンコン。
タイミングよくポルポルが窓を叩く。
「雨なのにすまないな」
ポルポルを部屋に招き入れ、胸を撫でてあげると嬉しそうに目を細めた。手紙を足にくくりつけると白い嘴(くちばし)をカチカチ鳴らして、直ぐに飛び立って行った。
セロードはポルポルが飛んでいった先の灰色の空をじっと見つめる。
政治の道具として作られたレイという人物。彼はたった四年しか生きられなかった。
セロードは、彼にとってこの四年間はなんだったのだろうかと、ずっと考えていた。
自分に出来ることはなかったのだろうか。
セイン様の命を守るためでもあったが、レイのためには何もしてあげられなかった。
自分を本当の父親だと思って慕い、頼ってくれていたというのに。
シトラル陛下の怒りや脅えを取り除けていれば、レイとエリー様は一緒になれたかもしれない。
怒り、不安や脅えなどの負の感情は視野を狭くし、冷静さを失わせる。シトラル国王はまさにそのような状態だった。
今はローンズ王国に対する感情も芳(かんば)しくない。
セロードはアトラス王国の行く末を危惧し、眉間に皺を寄せた。
激しく窓を叩く雨音に混じって、咳き込む声が聞こえてきた。
「お目覚めになりましたか?」
「……親父さん……。あ……、違いますね、セロードさん……」
「……いえ、どちらでもお好きなほうで呼んでください。セイン様が嫌でなければ……ですが」
セロードはセイン王子が起き上がるのを補佐しながら、ベッドに座らせる。
セロードさんと呼ばれるのは他人になったようで、セロードにとっては居心地が悪かった。親父さんと呼んでもらうなど身分を考えれば断るべきなのに、セロードはセイン王子の判断に任せるような言葉で返してしまった。
「ははは、嫌なわけない……ありがとう……」
セイン王子の瞳は嬉しそうに輝き、少しほっとする。
「親父さん……俺が魔法薬を飲んでからどれくらい経ちました? あと……エリー様とアランの反応はどうでした……?」
「六時間です。二人ですが……」
セロードは嘆き悲しむ姿をどう伝えていいか分からなかった。
言葉に詰まっていると、セイン王子は俯いて小さく「そっか……」と呟いた。
「……セイン様。エリー様とアランについては私にお任せ下さい」
セロードは床にひざまずき、セイン王子を見上げた。
表情は見えないが、握られた拳が二つ震えている。
「二人を……ううん、皆を悲しませておいて俺だけ記憶を消してのうのうと生きていくんだね……。俺が悪いのに……」
「レイの記憶を消すことは大変お辛いことと存じます……」
同盟を続けていくために、シトラル国王は三つの条件を出した。
――――一つ目はレイが死ぬこと。
同じ顔を持つセイン王子が生きるためには必要なことだった。
当初の計画では、ハーネイスの調査終了後にレイが腐乱死体として見つかる予定でいた。
丁度良い死体を用意し、レイの身に着けていたものを着せる。それでレイと信じ込ませようとしていたのだった。
しかし、思わぬ事件になりアトラス城に戻ることになったレイは急きょ予定を変更し、あの場で死ぬことを決めた。腐乱死体より説得力が増すからだ。
使用したのは数時間ほど仮死状態になる魔法薬。
体調の悪い状態で使用するのは危険だったが、生死をさ迷ったあの後に行うことがベストだった。
――――二つ目は、レイの記憶を消す。
レイの記憶にはアトラスの機密情報が入っている。そのため、記憶抹消は絶対だった。
ローンズ王国に戻り、リアム国王が記憶抹消を行う。セロードはレイの記憶がなくなるのを見届ける役目もあった。
人々からレイが死んだと認知され、さらにはレイの記憶もなくなる。
それは、レイとして本当に死ぬことを意味していた。
――――最後の条件は、セイン王子を二度とアトラスには立ち入らせないこと。
レイを知っている者達の混乱を招かないようにするためと、エリー王女と会わせないためである。
それがシトラル国王が決めた条件だった。
「俺……本当は怖いんだ……」
セロードが静かに見守っていると、セイン王子がぽつりと言葉を溢した。
「レイの記憶はとても大切なもので……親父さんやアラン、騎士団の皆や友人のことを全部忘れちゃうなんて……。それにエリーのことも……。死ぬのは怖くないと思っていた。だけど……」
顔を上げたセイン王子の顔は涙で濡れている。
「レイの記憶を消すことは、死ぬよりも辛いことだった……」

すがるような瞳に、セロードの胸が締め付けられた。
レイは親である自分に何度も助けを求めていたのに、こんなにも苦しめてしまっている。
「レイ……すまない。父親として出来ることは最後まで側にいてあげることだけだ……」
セロードはセイン王子にではなく、レイに声をかけた。
隣に座り肩を抱くと、レイはセロードの胸に顔をつける。
「親父さん……俺の父親は親父さんだけだから……。親になってくれてありがとう……。あと……辛い役を押し付けてしまってごめんなさい……」
「いや……親父としての最後の仕事だ。甘えておけばいい……」
セロードはレイの頭をガシガシと撫でた。
胸の中にいるのはセイン王子ではなく、死を恐れ震えている息子。
――――生きたい。
雨音にまぎれて、レイの心の声が聞こえてきた気がした。
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<セロード>
シトラル国王の第一側近。
アランの父であり、レイの義理の父でもある。
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【完結済み】恋するプリンセス ~恋をしてはいけないあなたに恋をしました~
【連載中】恋するプリンセス ~アラン恋愛編~
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【二次創作】恋するプリンセス ~ジェルドの任務報告書~
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