大動脈弁は心臓にある4つの弁のうち唯一人間の弁を移植出来る部位である。ドナーから提供された肺動脈弁を移植する方法と、患者本人の肺動脈弁を移植するロス手術。
更に開胸手術を必要としない、自己拡張型人工弁をカテーテルによって置換する方法もある。このカテーテル治療が適用される患者は開心術に耐えられそうにない高齢者向けである。
先日ニュース等で話題になった武田鉄矢さんの心臓疾患「大動脈弁狭窄症」を簡単に説明すると、弁が十分に開かない心臓弁膜症の一種。原因には先天的障害、リウマチ熱、動脈硬化などが上げられる。
武田さんの場合は10年ほど前、不整脈を切っ掛けに受けた心臓の検査で、生まれつき2枚しかない先天性二尖弁である事が判明したが、自覚症状もなく生活に支障をきたすような問題もなかった事から、当時は手術に至らなかった。
但し、このまま放置しておけば狭窄症が進行し悪化する可能性が高い為、何れは手術する方向で主治医と相談しつつ準備を進めており、今回の手術が緊急的なものではなく計画的手術であったようだ。
わたしが19歳の時に受けた弁形成術もやはり主治医と相談した上で、手術時期のタイミングと病気の進行度合いを計りながらの計画的手術だったと言える。
武田さんの受けた手術については、上記に示したドナー或いは自分の肺動脈弁の移植を含めれば選択肢は3つあったと思われるが、武田さんの年齢(62歳)を配慮した結果、人工弁(機械弁)を選択したのだろう。
仮に武田さんが若い女性で、更に将来子どもを設けたいと言う希望があったならば、医師は迷わず生体弁(豚弁)を薦めるだろう。
生体弁の利点はワーファリン(抗凝固剤)を使用する必要がない事。欠点は耐久性が機械弁に比べてかなり劣り約10~15年で再手術が必要となる。
人工弁はその耐久性が非常に優れており150~200年持つと言われているが、欠点として弁の部分で血液が凝固し、血栓が出来やすいため脳梗塞を引き起こす危険性を避ける為、ワーファリンを生涯服用しなければならない事である。
武田さんの弁置換術に使用された人工弁はおそらく、わたしが1989年4月三井記念病院で受けた僧帽弁置換術の時と同種のSJM弁(セント・ジュード・メディカル社製)ではないかと思われる。
このSJM弁は現在最も普及している人工弁で、パイロライト・カーボン(黒いダイヤモンドと呼ばれている)という材質(人工炭素)で出来ており、優れた性能と耐久性を備えた世界基準の人工弁と言っても過言ではない。
わたしの中に装着された人工弁は今年23年目を迎えたが、弁自体は至って元気である。2009年9月2日に公開した「狭心症とカテーテル治療」の動画で人工弁の動く様子が明確に分る。左心房は肥大したままであるが、血液の逆流は無くなった。
然しながら、余りにも長い期間心臓を患ったため、思わぬ心臓疾患が牙を向き始めた。三尖弁閉鎖不全は仕方ないとしても、最もわたしを悩ませている疾患が「収縮性心膜炎」。この件についてはこれまでにも何度か記事にしてきたのでご存じの方も多いと思うが、この心臓疾患は進行性であり現状のままでは悪くなる一方である。
根本的治療は手術しか手段はないのだが、内科医も外科医も手術を薦めようとしない。3回目の手術がどれほど危険であるか、手術したとしても高いQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を約束出来ない事など手術に於けるリスクが高すぎる事から、敢えて危険を冒すよりも現在の状態を薬で維持して行く事の方に力点が置かれている。
治る見込みのある病気なら我慢もするし希望も持てるのだが、悪くなるばかりの病気と付き合って行くのは正直しんどいだけである。
然し、希望が全く無い訳ではない。希望など待っていても向こうからやって来るものでもないし、自分から作り掴み取るものだと思っている。その手助けとして医療というものが存在するのだから、取り敢えずは生きている自分に感謝する事である。
但し、もうこれ以上薬が増えるのだけは御免こうむりたいと言うのがわたしの本音なのだが…。
