初めてのシンナー遊び。 | プールサイドの人魚姫

プールサイドの人魚姫

うつ病回復のきっかけとなった詩集出版、うつ病、不登校、いじめ、引きこもり、虐待などを経験した著者が
迷える人達に心のメッセージを贈る、言葉のかけらを拾い集めてください。

シンナー16歳の秋、私は静岡市内の工芸会社に就職した。仕事の内容は看板書き、ペンキ塗り、舞台装飾など。NHKテレビの「故郷の歌祭り」「中学生日記」等の舞台を作ったりしていた。今で言う裏方みたいなところか。アンルイスが「グッドマイラブ」でデビューしたばかり、「故郷の歌祭り」にゲスト出演した時にサインを貰った。若い10代のアンちゃん可愛かった。今は迫力の姉御だけどね。会社は美装部と木工部に別れ、私は美装部で絵や文字を書いたり、ペンキを塗ったりしていた。ペンキには水性と油性がある。水性は勿論水で薄めるが油性はシンナーで薄める。だからシンナーの一兎缶がごろごろあった。油性ペンキだけは火気厳禁な為、個室になっていた。3畳程のスペースに入るとシンナーの刺激臭で頭がクラクラしてくる。だから息を止めて必要な色の缶を素早く選び部屋を出る。当時付き合っていた友人の一人に暴走族のメンバーがいた。静岡では最大のグループ「中部連合」のメンバー。当時の暴走族は今のような暴走族と違い、彼ら内では(根性?)を競いあっていた。それは赤信号を何処まで突っ切る事が出来るか、その数を争っていた。当然スピードになる。シャコタンで人気があった車はスカジというあのスカイライン、箱型、他にセリカ、バイオレット、GTRなど。シャコタンにすると踏み切りはそもまま真っ直ぐ渡れない、S字で渡る。友人は特攻隊でバイクに乗っていた。その友人が私の職場にシンナーが大量にあるのを見つけてしまい少し分けてくれと言い出した。シンナー遊びが流行っているのは知っていたが全く興味がなく毎日シンナーの臭いにまみれている私には関係ない遊びだと思っていた。友人に押し切られ、オロナミンCの瓶に半分の量を入れた。これだけあれば充分の量。シンナーが手に入らない場合はセメダイン等の接着剤を使う事もあるらしい。シンナーを長い間吸っていると、身体にどの様な影響があるか、最後は廃人である。脳と頭蓋骨の間に隙間が出来てしまうのだ。脳の萎縮が起こるのだ。それが何を意味するか現代の医学なら直ぐ分かる。シンナーよりもっと強烈な化学物質を保有しているのが「トルエン」である。眼、皮膚、気道に刺激を与え、中枢神経を抑制する。長期吸入により、脳萎縮、腎機能が障害される。こんな危険な物とは知らず使っている少年少女が多くいた。ある晩、友人が私の所へチューブ入りの接着剤を持って来た。それにはトルエンが使用されていた。私の前でビニール袋に歯磨き粉を使うように微小の灰色をした粘着物を入れ、口と鼻をビニール袋に突っ込み大きく深呼吸を始めた。呼吸する度に肩が大きく上下する胸が膨らみ顔の表情が変化して行く。虚ろな眼、焦点が合っていない。生きている人間とは思えない。「おーい神戸さんもやれよー、気持ちいいぜー」遠くから友人の声が部屋中に木霊する。意志の弱い、嫌だと言えない自分も気がついたら吸っていた。頭がかすみ、肺の中が機械のようになった。吐き出す息はあのシンナーの部屋だった。その時一台のバイクがやって来て別の友人が訪れた。部屋に入るなり「くっせー、何やってる」殴られて倒れた自分は人間ではなかった。