肉球 | もうすこし、生きてみようじゃないか・・・
 その日、僕は仕事を終え、いつものように家の玄関の鍵穴に鍵をさしこんだ。 カチ



・ガコン(ん?)ドアが開かない。 逆に鍵がかかったのである。(朝、閉めんの忘れた



か?)想いつつ一抹の不安を覚えた僕は、靴を履いたまま家内に入る。まず、目に入



ったのは、冷蔵庫の上で怯えた表情をコチラに向けている我が家の愛猫『ロビ』であっ



た。



次に居間に目をやると、その光景に、しばし、呆然とした。ありとあらゆる物が引き



だされ、荒され、家具の位置までズレていた。 開口一番、僕が発した言葉は「やりす



ぎ!」次に「ハハハハ」と、少し笑ってしまった。 以前よりこのようなコトがあった場合



(俺は絶対パニックになるな)と、思ってただけに、この冷静とも思える反応に(おぉ、俺



って大物?)と、少し想った。おもむろに受話器をとり警察に通報。空き巣に入られた



旨をつげ、住所を伝えた。



 

  (・・・おっそいなぁ・・・)待つこと約1時間、そろそろシビレがきれてきたころ電話が



鳴った。「もしもし・・」「あー●●警察ですが」相手は警官だった。



 警官・「○○スーパーまで来てるんですが、そこから、どうやって行けばいいんです

    

    か?」



 僕・(○○スーパー?そんなん、あったか・・・?)「え、えぇと・・・あの・・・」



 警官・(・・・もう一度、住所の確認しますね、○○○ですよね」



 僕・「あっ・・・」僕は住所を間違えて伝えていた。



   「あの・・・すみません・・・○○○でした・・・すいません・・・」



 警官「・・・はい、わかりました、今から向かいます」





僕はパニックになっていた。上辺は、冷静を装っていたが内心は、自分ではわからな



ほどビビッていたのである。




 程なくして警官2名が到着。2人とも年配の方で、1人は痩せ型のイカつい顔、もう1




人は太めのやさしそうな顔だった。



もうすこし、生きてみようじゃないか・・・



 まずは、何か、盗まれていないかチェック。




結果を言うと盗まれた物は、ノートパソコンと貯金箱の2点で、ノートパソコンもショック




だったが、貯金箱の方は、かなりショックだった。と、言うのも普段、入れているのは




10円玉、5円玉、1円玉のみだが、運が悪いことに前日に500円玉を3枚入れたばか




りで、そのタイミングの悪さに情けない思いがしたのだ。




 痩せた警官は、僕のタバコをスパスパ吸いながら、手帳に盗まれた物等をメモにとり




帰っていった。一方残った太めの警官は、指紋を採取すると言って銀色のケースを




開け、何やら始めだした。指紋採取など目の前で見るのは初めてなので、興奮した僕




は、警官の傍らで、その作業を見守ることにした。




 警官は、猫じゃらしのようなものに、黒っぽい粉を付け犯人が触ったと思われる個所




をポンポンポンと叩きだした。黒い粉のカスが、カーペットに落ちるのが少々気になっ




たが、それは、後で拭けばいいことなので、(おーテレビと一緒だー)などと感動しなが




ら指紋がでるのを待っていた。暫くして、警官が「おっ」と言った。僕は、(ついに出た




か!)と、身を乗り出した。




 警官・「これ」と、指をさした。




 僕・「はい?」




 警官・「猫の指紋 フフフ・・・」




 僕・「あ、ほんとだ フフフ・・・」




 警官・「猫好きー」




 僕・「そ、そうすか・・・」




もうすこし、生きてみようじゃないか・・・



結局『ロビ』の指紋採取には成功したが、犯人の指紋は出ず、警官は、その他一通り




調べた後、犯人が捕まったら連絡しますと言って帰っていった。




  あれから数年、犯人は今だ捕まらず、黒いカスは落ちず、

  



               パソコンは新しいのをローンで買いました。





もうすこし、生きてみようじゃないか・・・

                                            亀久